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医師に受けた診察・治療で「え、本当にそれが正しい処置なの?」とおどろいた、疑問に思った、でもちゃんと治った。そんな経験

上司が急に背中が痛いと言って倒れ、みんなで両脇を抱えて市立病院に連れていきました。もともと怒りっぽい上司ですが、背中の痛みで不機嫌さはMAXです。何科に見せればいいだろうかとみんなで相談しているときも「真面目に考えろ! もし心臓病だったらどうするんだ!」などと喚いています。あいにく循環器科は混雑しており、廊下は土気色の顔の老人患者でいっぱい……。ひとり赤赤とした顔の上司は場違いで、いたたまれなくなりひとまず退散。おおかたスジでも傷めたのだろうと、理学療法科に連れて行くことにしました。

中国の理学療法科は、日本の一般的なものに加え、鍼、あん摩、灸の処置も行うところがあります。

理学療法科の入り口にすっくと立つ老先生が、私達が近づいてくるのをじっと見つめています。その後ろには7人の弟子が経絡と指圧を論じた動画資料を研究しています。

私「あの、こんにちは。実は背中……」

先生「歩かせてみなさい」

私「はい?」

先生「歩いているところを見せてみなさい」

上司に2、3歩歩かせると、老先生は「ああわかった」といい、奥から弟子を一人呼び出して「脛だ。できるな?」といいます。背中の痛みに脛とはこれいかに。弟子は「御意」と答えて、上司の脛を探り始めました。

弟子「押すと痛いところは?」

上司「痛いのは脛じゃない。イテテ……」

弟子「わかりました。それでは失礼。」

お弟子さんは7センチの鍼を取り出しました。

同僚が「随分大げさな鍼……」と口にするかしないかの刹那、鍼は上司の膝下にビシーッと打ち込まれ、わずかに頭を覗かせるだけになってしまいました。私たちはあんぐりと口を開けて互いに顔を見合わせ、上司の顔色に注目します。上司は「ううっ」とうめきを上げ、一瞬ビクビク背筋を痙攣させると、大きなため息をつき、いままで見たこともない笑顔になって、こう言いました。

「みんな、今日は苦労をかけたなあ。腹が減ってしまっただろう。私の財布を持って、なにか美味いものを食べてくるといい。わたしはもう大丈夫だ。」

同僚たちは目玉が飛び出すほど驚き、とりあえずみんなでうどんを食べに行きましたが、「今何が起きたのか」が気になり、食事どころではありませんでした。

病院に戻ると、上司は台の上でいびきをかいて寝ています。隣では8歳くらいの少年が騒いでいましたが、頭に20本ばかり鍼を打たれると、おとなしくなって本を読み始めました。少年に鍼をうったお弟子さんになんの治療かと聞くと、ADHDを治しているといいます。ADHDが鍼で治るのかと思わず聞き返しましたが、わははと笑って「ご覧のとおりだ」といいます。

中国人にも伝統医学を疑問視する人は多く、わたしも必ずしも効かないと思ってはいるのですが、寝言を言いながら笑っている鬼上司と、大人しく本を読んでいるいたずら坊主との間に座っていると、世の中には不思議な技術というものがあるんだなと納得せざるを得ませんでした。

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