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Around 30 vol.3

入道雲がもくもくと膨らんだ夏空。
日差しが眩しくて反射した光がキラキラしていた。見た目は涼しげで美味しそうなふわふわの雲のソフトクリームは、蒸し暑さで溶けてしまいそうな陽炎が見えていた。

「あつ~い…溶けそう。。」
「電車混みすぎだしさぁ、隣のおっさんに胸元覗かれてもう最悪ぅ~仕事したくない」
同僚と出社するなりうちわや扇風機やらで、暑さから逃げ出すべくアイスコーヒーを飲みながらオープンスペースでだれていた。

5月からもうオフショルダーワンピースを着ていたり、会社にもミニスカートで出社していた私は身長が低いこともあってよく変態に絡まれていた。
そして、熱がこもって倒れてしまう体質のためサウナは3分も持たなかった。
夏が好きなのに…!露出する季節が少し嫌になりそうかもしれないと感じていた。

そんな恰好するからいけないんだろうと思った人もたくさんいるとは思うのだが、聞いてください。かっちりした服を着ても痴漢に遭うのだ。どんなことをしても変わらないのだった。

一体なんなんすか?!!?
わたしに何か憑いてるんですか??!?!(そして視えるんですか????)
と、絡んでくる輩の皆様方へ声を大にして言いたい。

わたしは特異体質だと思っているのだけど、小さい頃から変態に追われることがデフォルトになっていて、行く先々でセクハラに遭っていた。
小学校では優等生だったのにも関わらず、担任に廊下の端から端まで追いかけられ、中学ではまたもや担任に進路指導室に呼び出され触られそうになったり、高校では担任にバイト先まで挨拶しに来られたりしていた。(意味不明すぎるので以下略)

だから好きな恰好ができる仕事に就いたのは言うまでもない。
なんて、それはただおしゃれするのが好きなだけっていうのもあるけど、やはりルールの中で縛られるのが苦手なこともあった。
デザインは正解がないっちゃないから好きなのかもしれない。

わたしは大手外資系のゲーム会社に転職してからは、試用期間中なこともあって恰好以外はおとなしくしていた。
とはいえ、週2くらいは飲みに行き他の部署の方と交流するなどしながら20代後半を謳歌していた。

入院してしまった元彼からは、あれ以来連絡が来ていない。
ケータイは必要な連絡以外は触れないのだそうで、強制的に別れることになった。
何もできなかったなぁ…と思った途端、自分の本体が粉々になりそうなイメージが頭の中に湧いた。
考えちゃだめだ、沼る。

自分まで沼に入ってはだめなのは理解していた。
だから、今の強制ストップな状態は本当に護られているのではないか?と思うほどだった。

こうやって次のステージに行く時は、いつも突然なんだなぁ。
自分で上がる時や何か見えない力でぐいーんと上げられたりする。
人生っておもしろいなぁって思う。
飽き性で考えすぎな自分にとっては毎回エピソードが尽きないしから楽しく退屈じゃなく、若くしてママになった親友にもいつも話の続きを聞かれていた。

週1は行くようにしていた行きつけの立ち飲み居酒屋。
毎週行くうちに常連と普通に飲んだあとにも遊びに行くようになっていた。
軽く飲んでからカラオケで熱唱したり、ダーツやったりした。
なんだか夏休みって感じ?っていうような感覚。
私は元々オタクで良い子出身、専門卒で学生時代はバイトと課題に追われていた+社畜オブ社畜生活が長かったせいで、あんまり夜を楽しく遊んだことがなかった。

遅咲きの青春。
毎日がキラキラしていた。

そして、常連仲間の白い顔した大野くん。
なんだか冬眠してるシロクマみたいでとても気になっていた。
彼女が欲しくてダイエット頑張って10キロ痩せたって言ってたけど空気感いいなぁって思っていた。顔はタイプじゃないけど。

「大野〜飲み過ぎちゃうん?」
「いや〜まだまだぁいける!」
みんなお酒は強い方だけど、のんべが集まった時のザルを超えてワクになっていくあのスピード感わかるかな?お酒の瞬間移動みたいな感じで、ジョッキの中身が一瞬で消えていく。酒にのまれるとはこのことだった。

ゆらゆらしながら華麗に終電は逃し朝までカラオケ。
私は歌うのが好きだったからいくらでもいけるんだけど、起きてるのは3人くらいで後は寝てたと思う。
明日が土曜日だったからよかったけど、平日このメンバーで飲みに行ったら完全に帰れなくなるやつだった。

AM5時。お店を泥のように出てみんな千鳥足で駅へ向かう。
朝陽が眩しくて目がその日差しで少しジリっと染みる感覚と、明け方のあのなんとも言えない匂いはあまり気持ちのいいものじゃないけど、あの若さ溢れる頃はなんでこうキラキラと輝いて見えるのだろうか。
眠くても何もかもが楽しく煌めいて見えた。

みんなとまたねと駅で別れてから、大野くんと一緒に途中まで帰るのが普通になりつつあった。彼は飲むとテンションが上がってキャラが変わってしまうけど、話を聞いてくれる系のどっしりとしたタイプだったから、ちょっとした相談ごともできる間柄になっていた。元彼のことも。

たぶん、私の方が弱っていたから頼ってしまっていたんだと思う。
始発のガラガラな電車の中で気づいたら私の方から告白していた。

「あ、ごめん。ちょっと考えさせて。」と困った顔をしていた。
「そっか、うん。大丈夫。
 友達でもいいからこれからも仲良くしてね。」

縋ってしまったのが重たかったのだろう。
あっさりフラれてしまった。

「…っあー。ごめん。やっぱ俺と付き合って」
「…え?」

フラれたあとに逆に告白された。
ん?なんだこの展開は。

自分の誕生日と暑さが過ぎる頃に、新しく彼氏ができた。
出会ってから2ヶ月経ってないくらいのことだった。

ここから彼とは9年ほど一緒にいることになる。

出会いって、必然なんだね。




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