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Phum Viphurit at Summer Sonic 2019



2018年の3月にプム・ヴィプリットのアルバム『Manchild』の国内盤をリリースする際に、フジロックかサマーソニックに彼を出演させることは密かな目標だった。正直、2018年にその目標がかなう想像もあったものの、さすがにそれは高望みだったが、翌2019年8月、プム・ヴィプリットがサマーソニック出演を果たしたことで、ぼくの最初の目標は達成された。

飛躍の1年を送ったあとの2019年は彼にとって勝負の年であり、いまのところ順調な月日を送っていると言えるだろう。シングル「Hello, Anxiety」をリリース。5月には3度目の来日公演をLIQUIDROOMでおこなった(そのとき共演したYogee New Wavesとはその後もいい関係を築いているようだ)。ヴェトナム、日本、韓国、香港、シンガポール、台湾、フィリピン、インドネシア、マレーシアをまわった5,6月のアジア・ツアーはどの公演も昨年のツアーから会場のキャパが倍増し、日本以外の公演はソールドアウト(特に熱狂的なのはインドネシアとフィリピンのファンらしい)。海外における短期間での成功が目立つがタイ国内での状況も相当だという。ぼくが2月にバンコクを訪れた際はそんなことはなかったが、あれから半年ほどが経ち、いまでは電車にも乗れなくなったほどらしい。


参考記事:Phum Viphuritが駆け抜けた2018年


2週間で9公演をおこなったヨーロッパ・ツアーをおえたのち、一度バンコクに戻ってから東京に降り立った。2018年4月に最初の来日を果たしてから実に4度目。ぼくが彼に会うのはこの2年間でなんと6度目。もちろんこのような頻度で会う機会があるアーティストは他にはいない。

もともと「ASIAN CALLING」と題してアジアの新進気鋭のアーティストやバンドにいち早く枠を割いていたサマーソニック。ことしもタイの他、韓国や台湾から数組ずつを招いた。タイからはプム・ヴィプリットの他、タイ国内ではスーパースターのSTAMPと、シンセポップ・バンドTELEx TELEXsが出演。「将来的には「ASIAN CALLING」だけでフェスを開催するのが夢なんです」とクリエイティブマンの清水直樹社長がインタヴューで語っていたが、拡大するアジアの音楽市場のなかにおいて将来的に日本だけが取り残されるのではないかという多くの関係者の懸念を払拭する一助となる力強い発言だった。

前日の8/16に誕生日を迎えたプムにとって24歳最初のステージは、台風一過の影響もあって灼熱の状況下での演奏となった。彼が演奏したBillboard Japan Stageはもともとマリンスタジアムの駐車場だった場所にキャパ3000人程度のオープンテントを創設したステージで、
海からの風が届かない分、体感気温は気温35度よりもずっと高かったように思えた。しかも彼が演奏を開始したのは14:20だったので、演奏者にとっても観客にとっても相当過酷な時間だったはずだが、おそらく多くの人にとってとても幸せに満ちた時間だったと言えるだろう。

単独公演とちがって、転換の30分間でラインチェックとわずかなリハーサルを行うしかないフェスはバンドの地力が問われる。慣れ親しんだPAエンジニアがツアーに帯同するべき理由はそこにあり、今年からプムの海外ツアーに毎回帯同するジャミーの存在と、ヨーロッパ、アメリカ、アジアでの数々のフェス出演の経験値によって、ずいぶん余裕が感じられた。

演奏時間は40分。あの時間、あの場所で演奏するのは40分が限界だったかもしれない。おかげでプム・ヴィプリットの魅力をすべて詰め込んだ40分となった。お決まりのイントロ「Funk Jam」なしの「Paper Throne」でスタート。5月のLIQUIDROOMも昨年12月のWWW Xもこの曲からスタートだった。アルバム『Manchild』1曲目「Strangers in a Dream』はライヴの鉄板。みるたびにアレンジが変わっている「Adore」が今回いちばんのサプライズだった。7月のヨーロッパ・ツアーで初披露された、楽器スワッピング。この曲の終盤のクライマックスでおもむろにメンバー全員がそれぞれのパートを交換。まずはキーボードの2Pがギター、ベースのポンがキーボード、ギターのイッキュウがベースにパートチェンジ。そしてプムがドラム、ドラマーのオームがギターにチェンジ。プムがドラムを叩いた瞬間の盛り上がりは相当なものだった。プムにとってドラムはギターよりも最初に手に取った楽器であり、本人いわく「ギターよりも上手」というだけあって、めちゃくちゃうまかった(ほんとうはオームが歌ったらもっとおもしろかったんだけど)。

バラードの 「Sweet Hurricane」を挟んでのラスト3曲の流れはこれ以上ないぐらい最高だった。「Hello, Anxiety」のプム流ディスコ〜シティポップ・アンセム「Lover Boy」〜「Long Gone」での大団円。キャパ3000がいっぱいになったなかでの「Lover Boy」と「Long Gone」での合唱は最高にピースフルな空間を作り上げていた。特にアジアではアイドル的な人気が先行していたと言えるが、この1年でより大舞台にふさわしいパフォーマンス能力をすでに獲得してしまった。彼がまた日本でこんな大舞台に戻ってくることをぼくは確信している。あの日、あの時間、バンコクよりも蒸し暑かった海浜幕張のテントでみた演奏、彼らと共有した感情をこれから幾度となく思い出すだろう。


Phum Viphurit 2019.8.17 SETLIST @ Summer Sonic 2019
1. Paper Throne
2. Strangers in a Dream
3. Adore
4. Sweet Hurricane
5. Hello, Anxiety
6. Lover Boy
7. Long Gone

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