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大きなロボットと小さな心 2

前回に引き続き自分とギャラリーの成長記録について。長いです。


次にGiant Robotからお誘いを頂いたのは、2016年の終わりだった。いつもの20−30人単位のグループ展ではなく10人ほどの参加者がいるだけの小さな規模の展示。大学を卒業してから迎える始めての新しい年だし、気合いだ!!と喝を入れ、入念に考えて描いた。ちゃんと考えた。自分だったら欲しい絵と思うようなをイメージして、落ち着いて、焦らず、深呼吸をしてペンをとった。シリーズもので、サイズも大きすぎず、自分の強みであるグラフィック感を構図に取り入れ、ペン先を走らせた。そして私はなんと初めて完成画をスキャンした。そう、満足したのだ。やっと。



描いた3枚のうちのこの1枚はとてもお気に入りだった。墨汁の美しさも残しつつ、繊細な線を描きすぎず、アクリルガッシュでパキッとした鮮やかな青を見せ、ピンクのアクセントカラーを入れて全体的に綺麗にまとめた。


残りの2枚は最初の1枚目ほど気に入ってはなかったが、まぁ売れるレベルだと思っていた。(今考えればなんて上から目線なんだ)いつもは弱8×10インチぐらいのサイズのものを200ドル以下(130〜180ドル)で販売してきたので今回は思い切って設定を280ドルにしてみた。いつもより構想にも作業にも時間をかけたし、少し値段が上がっても売れると思っていた。しかし、数ヶ月経ってもこの子達が新しい家にお嫁に行くことはなかった。オーナーがギャラリーのウェブサイト上での販売可にしても、2年経った今でも、売れることはなかった。

なんで。どうして。

やっぱり、自分の絵は200ドル以下なのか。

漫画でいう「闇落ち」しそうになった。こんなに綺麗なのに。手間暇を考えたら安いはずなのに。なんで。ギャラリーのターゲット層に合わなかったのか?でも今までの作品は売れてきたしそこらへんは抜かりないはず。じゃあなんで。ほとんどのことにおいてネガティブな自分。しかし不思議に絵のことだけはいつもポジティブになれた。しばらくブルーだったがある日(ま、落ち込んでもしょうがない、さらにもっと良い絵を描くしかないよね。)と自分に言い聞かせて次の展示用に筆をとった。




次のグループ展示のお題は「酉年」だった。ポジティブになろうとは思いつつ、まだ前回の展示のことでやさぐれて「もー考えて描かねぇ!!」と何も考えずに鶏をいっぱい描いた。羽をたくさん描いて、可愛い女の子を入れた。はい、終わり。3時間ほどで仕上げた。売れなくてもいーや、という気分で描いたのにこの絵は売れた。なんでいつも気軽に考えたやつばっかり売れるんだ!!と少し更にやさぐれた。ちなみに完成画像はない。

上の絵が売れてしまったので、また酉のテーマで描いてくれと頼まれた。すぐ描いた。ペン先でカリカリ描くのがマンガ家っぽくてかっこよかったので、また似たようなのを描いた。珍しく使ったことのない黄色も入れた。



これも描くのは楽しかったことは覚えているが、売れたか売れてないかあんまり覚えてない。手元にないので売れたんだと思う。そんな程度だった。

次にお誘いを頂いたのは、大学の同級生がパサデナ市内にある小さなギャラリーを初めて貸し切って一日限定で展示をするので1枚出してくれ、とのことだった。そういうイベント(身内ばっかり)だと基本的に売れないけど友達の頼みだし、新しい絵を描く口実になると思い、承諾した。




いつも通りに8×10インチのパネルに、魚を描いた。魚は鱗がたくさんあるので細かく描き込むのが好きな自分にはうってつけだった。そしてこの絵は完成に満足したのでスキャンした。ウェブサイトにも載せた。しかしやはり1日限定だったせいか、身内ばかりのイベントだというのに300ドルという高額な設定にしてしまったせいか、売れなかった。まぁいいけどね。友達の応援もできたし、好きな絵になったし、オープニングレセプションではいろんな級友と再会できたし、結果オーライだ。この魚たちと少女は現在、我が家の廊下の壁に静かに飾ってある。

でも、なんか自分の強みがわかってきたかも?よし、このまま行けるかも。完成画像を毎回保存したいと思うレベルの絵を描き続けるぞ!とこの時は思っていた。

しかし、次に頂いた「虎」がテーマの展示ではなぜか好きなお題なはずなのに、むしろ好きすぎて、考えすぎて、描けなかった。この頃は現在の旦那と婚約&引っ越ししたばっかりで私生活が慌ただしいという言い訳もあり。


結局打診で描いた絵を提出した。(みんな、刺青とか好きだもんね。はいはい人気のアジアンビューティですよ。)とため息をつきながら。絵そのものが好きじゃなかったのでせめてと思い、枠を虎柄にしてみた。小さなあがきだった。そしてそれが吉と転んだのかわからないが、この絵は売れた。すぐ(なんでいつも気に入らない絵ばかり売れるんだ!!)と荒れた。


いつも自分が力を入れてない&気に入らない絵は売れて、考え尽くして慎重に描いた絵は売れなかった。謎だ。

どうすれば両立できるんだ!

次にお誘いを頂いた展示は「フルーツ」がお題だった。前回の虎は気が抜けていたので、今回はちゃんと気を入れつつ、手加減しつつ(入れすぎるとから回るということをわかってきたため)描くぞ、と決めた。好きな果物を選んで、ちゃんと息抜きのスペースも入れて、小さめなサイズ(6×6インチ)のパネルを選んでペンをカリカリならした。石榴の感じとオレンジの断面がうまく描けて、お気に入りとなった。スキャンもして、デジタルで色違いバージョンを作ったりした。パネルの枠もピンクに塗った。小さいし可愛いし上手いし、200ドル以下だしこれは売れる!!間違いない!!



しかし、1ヶ月後に「展示が終わったので自分の作品を取りに来てください」とのメールが届いた。売れなかったのだ。何回受けても慣れないショックを受けた。なんでやねん。

落ち込むことをやめた。馬鹿馬鹿しい。

次にお誘いを受けたのはNucleus Portlandという割と新しめで、オレゴン州、ポートランド市にあるギャラリーのコースターショーという展示だった。ポストイットショーと趣旨が似ていて、みんな同じコースターをギャラリー側からもらい、みんな同じ50ドルで販売するというものだった。身近なアーティストが毎年参加しているのを見ていたので(自分にもやっと来た!)と嬉しさを覚えた。ポストイットを描く時と同じテンションで描いた。サクラマイクロペンの0.3がカリカリとコースターの表面上を走った。


そういえばこの展示から数年経ってるけど売れたのだろうか。気になって現在のウェブサイトを覗いてみた。どうやらまだ販売しているらしい。



どうやら一枚しか売れてないようだ。入金されていないが。他の参加者のコースターを見たらまだあった。まぁそのうちされるだろう。自分はもう少し自分の作品に執着しないとな、と考えながらウィンドウを閉じた。


話は戻って、また年の終わりが近づいて来た。ポストイットショーの季節だ。毎年恒例行事となりつつあったので、いつも通りまたいっぱい描いた。


記憶が正しければ18枚ぐらい描いたはずだ。ポストイットは楽しい。落書きみたいなフレッシュさを持ちつつ作品が完成するし。無駄がない。サイズが決まってるし、パネルなどの心配しなくていいし。この案を考えついたオーナーのエリックはすごいなぁと考えながら郵便ポストに作品を入れた。


次にお誘いを頂いたのは「戌年」がテーマだった。久しぶりにインクで描こうと思ったが、描きすぎた。やっちまった。しかしそれが好きな人がいるかもしれない。提出した。売れたか売れなかったかは忘れた。


数ヶ月経ち、(最近ギャラリーからお誘い来ないな、あんまり最近売れてなかったし。終わったかな)と思った頃に「植物」がテーマの展示のお誘いが来た。その前の年の「植物」展で爆死(個人的に)したので今度こそは!と息込んだが、結果描き込み過ぎてまた爆死した。


せめての悪あがきで川を黒くして息抜きのスペースを作った。薄々わかっていたが自分はやりたいことと描きたいことがあり過ぎてごっちゃになる傾向がある。上記の絵も、最初は2014年頃の新田美佳さんの作品のイメージだったのに、同時に14ひきのシリーズの自然な雰囲気も入れたくなって、結果よくわからない方向に進んでしまった。ちゃんと方向性は大事だな、とようやく身に沁みた瞬間だった。


しばらくして、またトトロ展のお誘いが来た。ちょっと線画を描くことが怖くなって来た(売れないから)ので初心に戻ってグラフィックな部分を強めに出して、ペインティングのフィーリングで描くことにした。


参考画像をBehanceなどで集めて、

この頃にはちゃんと構図をしっかり考えなきゃ、と思ってちゃんと描いた。


枠も可愛くデコレーションをした。気が付いたらインスタグラムに完成画像を投稿していたので、満足したんだと思う。ちなみにまだ販売中なので売れるかはわからない。でもやはり売れてほしい。願いを込めて描いているのだ。どうか誰かの小さなコレクションに仲間入りできますようにと。


そしてあっという間に時間は過ぎ、2018年の終わり頃。またポストイットショーの時期が来た。今年こそは全部スキャンしたいぐらい満足できる絵を描くぞ!と、考えるはずが。考えなかった。ただひたすらに描いた。



気が付いたらスキャンしてデジタルで色付けもしていた。なんとBehanceにも載せた。つまり、そういうことだ。



私はやっと、満足した。満足というか、克服というか。私は実はこのいかにも日本の少女漫画!という絵柄がアメリカでは通用しないのではないかと、心の底で恐れていたのだ。10年前にかかった呪いが、自分の頭の角を侵食していた。ギャラリーでは毎回この絵柄が売れた。しかしそれを他の漫画好きではない人に見せるのが恥ずかしくて、満足できなくて、恐れを克服できないことが完成画像を公開することに繋がらなかった。でももう25歳になって、色んなことを経験と研究して、プロのフリーランスイラストレーターになった自分はかっこいい絵が描ければそれで良いとわかった。だから、ギャラリーに出す作品も「売れそうな絵」とか「民衆に受ける絵」とかじゃなくて「かっこいい絵」を目指すことだけに集中する。そしたら気が楽になった。よし、これからはクールを目指すぜ。



最近あった戦友達とのGiant Robotでのグループ展のために作品をたくさん描いた。そしてなんと自分の制作過程を一眼レフで収めた。恥ずかしかった。しかし(自分でも何をいっているかわからないが)、かっこよさとはかっこ悪さの上になりたつものであると考えている。なのでかっこよくなるためにはかっこ悪いところを見せねば、と思い顔が燃える思いで今回この方法をとった。すると色んなことに気が付いたのである。そしてその色んな気が付きは絵となり、誰かの心を動かし、見知らぬ家へと共に引っ越していく。


(今回の展示品たちの一部。小さいこともあってか着々と売れている)


そんなこんなで4年間で合計28回参加した私のギャラリーの成長記録は終わりだ。一番の収穫といえば、自分は線を生かしたデジタルライクな作品が一番の強みが出るとわかったところだ。私は基本的に画力があるのでどの画材でもどんな画風でもほとんど対応ができる。そのせいで発見が遅れた。アクリルなども素敵だが、ギャラリーのため(アナログ重視)だからと言って無理矢理アナログで絵を描く必要はないのだと数年経って、何十枚も描いた後に気が付いた。今回のグループ展のために頑張って墨汁とインクとアクリルでかっこいい絵を目指したくさん描いたが、結局一番の人気は私が落書き気分で描いたデジタルの女子高校生たちの絵だった。そしてこの子達はのちにリソグラフプリントにもした。(色が想像より薄くなってしまったのが心残りだが…)



そしてギャラリーのオーナー、エリック・中村ともこの展示を通して色んな話をした。「君、落書きの方が向いているよ。」といわれなんとなく腑に落ちた。オープニングは有難いことに大盛況だった。最初は(5時間も個展のために人混みに囲まれて小さな空間にいるなんて耐えられない)と思っていたが、ショーが始まってみれば色んな友人達が顔を出してくれ、様々な人と話をした。とあるローカルの日本人画家とも意気投合し、1時間ほど二人でぶっつけでイラストの話やデザインの話もした。楽しかった。

これでやっと大きな個展(自分にとっては)の準備も終わった。自分の方向性もわかった。よっしゃ!今度こそ新・自分!頑張るぜ!とガッツポーズをしていた時に、すぐさま次の展示のお誘いのメールがきた。内容をみる。ふむふむ。なるほど。自分にぴったりな内容だ。これはきっと楽しいぞ。

しかし1ヶ月後までに1、10枚!?ひえー。なんと描きがいがある枚数だろうか。でも楽しそうだ。29回目のギャラリーへの参加。さて次はどんなかっこいい落書きを描こう。



ここでギャラリーの話は終わりです。やっと4年かかって、ギャラリー作品との向き合い方がわかりました。ギャラリーといっても、小さくて、何十万円とする値段のものを売ったわけではないので果たしてギャラリーといっていいのかわからないけど、と昔の自分だったら言ってた。でも今ではオーナーのエリックはいつも素敵な作品をどうにかみんなに見てもらおうと必死にアーティスト達と頑張っているのを間近で見てきたし、身をもって知っているので胸を張ってGiant Robotは最高のギャラリーだと言います。

昔の自分へ。色々作品について悩んでくれて苦しんでくれて有難う。そのおかげで今の自分がいる。臭いセリフだけど。こんなかっこ悪いこと言う感じの自分じゃなかったのにな。あーあ。でもこれも自分だ。腹を括ろう。ともかく!これからいっそ精進いたします。何卒どうぞお付き合いください。次の展示は自分でも未知数なものなのでどうなるかわからなくて少し楽しみです。

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