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紙の指輪

美大生の集まりでプロポーズのハードルが高くて考えられないという会話が出た時にじゃあプレゼンとして考えればいいのでは?となった話。

私は今年で25歳になった。周りも同じような年齢である。そして大抵の友人達は大学を卒業して仕事を始め数年たち、人生を共に一緒に過ごしたい相手ができてきた。私のSNSのタイムラインは去年頃から怒涛の婚約ラッシュだ。早い人たちはすでに子供が生まれてたり、離婚していたり、結婚式をあげてたりするのだが、今年は婚約した友人が異様に多かった。(私も去年婚約して今年の夏に結婚した。)大学だけじゃなく小学校からの友達も、高校の時のボランティアで知り合った人たちも、バイト先で仲良くなったグループも、ともかく色んな輪で繋がった人たちがみんなどんどん人生の更新をしていった。

フェイスブックに「Engaged!」と指輪のアイコンが浮かぶ頻度が増えた。昔、自分が描いてきた「大人」になっていく実感が静かと湧いてくる。

アメリカで育った自分は「プロポーズ」というものに憧れた。日本ではまだ一般的ではないが、アメリカでは「プロポーズ」と言えば盛大にやるものが多い。ほとんどの人は結婚する前に「婚約」をして準備期間を持ったのちに入籍し、結婚式をあげる。私もいつか愛している男性に小さな青い箱を出されて「Will you marry me?」と聞かれるのを夢見ていた。高校生の時は結婚を意識しすぎていてthe knotという日本でいうゼクシィのようなアプリも持っていたし、交際する相手にはその都度「プロポーズは海の見える場所で跪いてほしい」と言っていた。よく動画で見る男性が跪いて小さな箱を取り出し、それに気づいた女性(同性でも)が手を口に当て、周りが息を飲む瞬間。そのあと二人は抱き合い、口づけをし大きな拍手が起こる。見ている誰もが幸せになれるひととき。そういう瞬間が自分にも訪れるはずだと信じていた。なんだかんだで結局叶わなかったのだが。

私たちの場合は彼が日本からの留学生で、将来のビザ関係(彼がアメリカで就職しやすいための)を考慮して入籍するのが早かった。私は彼と出会った当時は結婚を約束していた恋人と別れたばっかりであり、最初は「次付き合う人とは結婚するつもりの人じゃないと嫌だから貴方とは付き合えない」と断ったももの彼から「じゃあそうしようよ。俺も結婚したいし」と返ってきた。なので私は「じゃあ一緒に住もう。銀行の残高見せて」と本気度を試しなんとも可愛くない感じで交際が始まった。

そして二人で将来設計図を描いた。するとやっぱりビザ問題が出てくる。このご時世留学生の彼はアメリカで就職するのが難しい。ならば彼が就職しやすいようになる一番早い方法はもともと永住権を持っている自分が日本の国籍を放棄してアメリカ市民になり、入籍を通して彼の永住権をとることだった。しかし日本の国籍を放棄する程の相手なのか?生まれてからずっと日本人だったのに、今更アメリカ人になるなんて。日本人という誇りはどうする?他の良い方法はないのか?と悩んだ。

しばらく(といっても2週間程)調べ尽くし考えた自分は覚悟を決め、新居を探し始めた彼に「私、市民になるわ。」とメールをした。その意味がわかった彼から「え」「うそ」「まじで?」と続いて返事が来た。「幸せにする。」と携帯の画面に表示された。それが私からのプロポーズとなった。子供の頃から描いてた一生に一度のプロポーズはされなかった上に、他の人に言ってもわからないであろうなんともへんてこな言葉で終わったのだった。

現在は結婚して数ヶ月経ち、今のところは問題なく幸せに過ごしている。だが、前日酔っ払って旦那に「ちゃんとしたプロポーズして欲しかったよ!」言ってしまった。昨夜は母校アートセンター美術大学の日本人会(男女10名ほど)の今学期終わりお疲れ様会にOBとして参加していた。場所はリトル東京のいつも利用している居酒屋で。最初はみんなそれぞれ授業や美術、デザインやアニメの話で盛り上がっていたのだが、途中でその前の日に行われた大学の卒業式でグラフィックデザイン科の卒業生が同じ科の違う卒業生にプロポーズした話が話題になった。卒業式の直後、恋人の卒業制作の前で跪いた男性は小さな箱を取り出し、そのことに気が付いた周りが大騒ぎになる動画が多数アップされていたのである。「素敵やん」「かっこいい」という反応が多く、(やっぱりそうだよな…)と自分が望んでいた夢を現実にした後輩を思い少し落ち込んだ自分がいた。その当日にも幼馴染が長年の遠距離恋愛を乗り越えた恋人と、二人の思い出の場所である公園の木の下でプロポーズされたばっかりだった。先週には大学の友人が恋人と旅行で訪れていたドイツの雪山の上でプロポーズされていた。みんなが投稿する写真はどれも跪いている男性と驚く友人(同性同士含め)がいる。やっぱりそうだねーみんなそうするよね、と思ったので飲み会にいた女子達に「理想のプロポーズは?」と聞くとほとんど「興味ないです」「別にない」と答えてきた。執着しているのは自分だけかと驚いた。(一人だけ「えー!なんだろー!いっぱいありすぎて困る!5分考える時間ちょうだい!」とテンションが上がってくれた女子がいたので安心した。)

興味がない女子が多いな。じゃあ男子はどうだ、と思い聞いてみた。ちなみに男性陣は20代後半の、彼女持ちが多い。そしてやっぱり「考えたことない。」という反応ばっかりだった。まぁそもそも学生である身分で目の前の課題をこなすのに精一杯の彼らが日常的に考えるものじゃないので無理もないが。「でも!するとしたら!どんなのがしたい?」と酔っ払っていた自分は続けた。日本育ちの20代後半男性で働いてる台湾人の彼女がいるプロダクト科の一人は「そもそもしないといけないものなの?」と聞いてきた。「俺の元カノはサプライズが大嫌いな人でサプライズしたら別れると言ってたんすけど、そのせいかサプライズしようという発想が出なくなっちゃたんすよね」と日本から前学期に入学してきたばかりのグラフィック科の男子が続けた。「え〜何かしてあげたいけど全然考えつかない!そもそも跪く意味がわからないし。アメリカンな発想だよねそれ」と中国人学生の彼女がいる違うプロダクト科の男性が言う。日本人男性はそういうものか。跪くのが恥ずかしいものなのか。そうなんだ。普通だと思ってた。えーていうかしっかりしてよ男子!ちゃんとやろうよ!でもこんなこと言ったらフェミニストに叩かれるんだろうなー…と考えながら話を聞き続けた。

「大勢の前でやるのは恥ずかしい。日本人の自分がやるのは抵抗がある。フラッシュモブとかまじで無理」「というか日本のプロポーズってどういうのが定番なんだ?」「夜景の見えるレストランで箱を出して…」「あれじゃない?ワインに入ってるやつ!」「あれ間違えて飲んだらどうするんだろうね」と話が笑いにシフトしていった。なんだ。みんなプロポーズに関してあんまり興味ないのか。残念だ。「プロポーズする意味が…」と言い出したのがいた人がいたので自分は「プロポーズは!人によるけど、私はずっとされることを夢見てきたし、それをすることによって幸せポイントというか、それがあれば今後の結婚生活で何かあっても思い出せば初心に戻れる瞬間のような思い出が欲しいというか。あーあんな嬉しいことあったな、これからも頑張ろうと思えるような糧が欲しい。喧嘩しても思い出せば和んじゃうようなものみたいなさ」とぐだぐだになりながら言葉をこぼした。「あーなるほど。喧嘩しても良いストップになるんすね!だったらした方が良いかも」と男子の一人が言った。うーん、それだけじゃないんだけどな。まあいいや。

来世ではちゃんとしたプロポーズされたいな、と思い始めた頃に一人の男性が「でもやっぱり自分はあれっすね。二人でゆっくり料理している時にふと結婚しようかって言いたいです!さらっと軽く!日常生活の延長的な」と言った。すると周りが「おお!俺もするならそういうのがいい!」「ちょっと古い感じだけど良いよな」「じゃあさらっといつ入籍しよっか、ていうのも良い」と食いついてきた。

なんだ、やっぱり興味あるんじゃん、みんな。あれか、「プロポーズ」って考えると派手なものを想像するから恐縮するのであって「人生を君と共に一緒に過ごしたい」と伝える手段については考えやすいのか。

「じゃあさ、クリエイティブな方法でプロポーズするならどういうのが良い?」と思いつきで聞いてみた。すると「え!クリエイティブにか〜それだと色々考えちゃうな」「無難にポスターとかですかね?」と様々な声が上がり始めた。革細工や陶芸が得意な男子に私は「自分で作った皮財布の中に指輪が入ってるとかはどうですか?」と聞いた。彼は「そういうのも良いけど。というか俺は指輪を自分で作っちゃうかな!」と冗談めかした。だけど彼がプロダクト科で手先が器用で色んな素材を使って様々な作品を作り続けてきたことを私は知っている。冗談っぽく言ってるけどあれ?俺もしかしてできるんじゃね?今度試してみるかって考えているのかもな、と思った。「紙をこう折って捻ってさ、紙の指輪作るよ」と続けた彼を無視して私はあることを思いついた。

「自分の恋人を、クライアントと考えて、プロポーズをプレゼンだと思えば良いんですよ!」と私はビールを片手に言った。恋人。クライアント。向こうが何を求めていて、どういう時に何が欲しいのがを考える。相手が喜んでくれるように一生懸命考えて、作品を作る。プレゼンをする。自分はこういうものですよ、こういうものを作ってますよ、こういう自分と一緒になりませんか。そういうのでいいんだよ!頭柔らかくして考えようよ!クリエイターでしょ!とお酒が回った頭でそのようなことを熱弁した自分がいた。

そしてどんどん「考えてなかったけどちゃんとプロポーズをどうするか考えてみるわ」「クリエイティブに考えてみます」とみんな真剣な顔になって呟いた。ちゃんと思ってそう言ったのか、酔っ払って面倒臭い既婚女性の自分の話を終わらすためにしょうがなく言ったのかわからないが。そしてそのまま一緒に来た旦那に冒頭の「ちゃんとしたプロポーズして欲しかったよ!」とセリフを吐いたが「なんでキレてんだよ。もう結婚しちゃったんだからしょうがないじゃん」と軽く言われて終わってしまった。まーね。その通りなんだけど。結婚を後悔してないし今は幸せだから別に良いんですけど。あーでもどっかの記念日で旦那に再プロポーズされないかな。いや、きっとしないな。いや意外とロマンチストだからやってくれるかも。うーんでも節約家だしどうだろう。いや無いな。でも今回の話を聞いて考えが変わったかもしれない。そうだと良いな。と私は将来の彼にそのうち自分にプレゼンしてくれないかなと淡い期待をいただきながら眠りについた。

昨夜の会話を中心に短い話を書くつもりだったのですがまただらだらとまとめが無い感じになってしまいました。うーん。文を書くって難しい。note初めて1週間だからな。しょうがないか。でも自分が男でプロポーズするとなったら色々楽しそうだな〜と思いました。毎年なんかやりたいな。ひとりごとです。

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