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メンタルヘルスに効く「アート処方」とは?デンマークの復職プログラム

芸術・文化を、メンタルヘルスを含む健康を保つために生かす試みは、2000年代からイギリスで政策として提言されています。福祉国家と言われる北欧の国々でも導入が進み、デンマークでは休職中の人たちなどを対象にした病状改善・復職プログラムが行われています。

英語記事から、このデンマークの事例を紹介します。

「アート処方」とは何か?

アート処方は、薬の処方のように、患者に対してアート活動を行うよう促す治療法です。その効果がヨーロッパなどの各国で実証されてきています。

Culture as a cure is not a new idea. In 2008, the then UK health secretary, Alan Johnson, called for the arts to be part of mainstream healthcare, and in 2009, the Royal College of Psychiatrists recommended participation in the arts and developing creativity for the protection of mental health. A decade on, evidence for the impact of the arts on wellbeing is growing. Research shows that “art on prescription” is valued by referrers and participants alike, and is also cost-effective, with a reduction in the number of visits to the doctor and participants gaining transferable skills.

カルチャー(文化)で治療するという考え方は、新しいものではない。2008年にイギリスの当時の保健大臣、アラン・ジョンソン氏が、アート(芸術)を主流のヘルスケア(医療)に組み込むことを提唱した。2009年には、英国王立精神科医学会が、メンタルヘルス(精神の健康)を保つためにアート活動に参加して創造性を育むことを勧めた。10年がたち、アートが健康に影響を及ぼすことを示す証拠は増えている。調査によると、「アート処方」は医療者にも患者である参加者にも同じように重視されている。また、アート処方は、病院に通う回数が減り、応用可能な技能を身に付けることできるので、費用対効果も高いことが、調査で示されている。
Australia has had a national arts and health framework to promote integration of the two since 2013, while Sweden leads the way in Scandinavia in terms of art on prescription. But Denmark is catching up, and the relationship between culture and health is increasingly being identified as an important factor in a sustainable Nordic welfare model. Anita Jensen, a postdoctoral researcher at Aalborg University, says: “We can see that it works for many people. It’s relatively inexpensive, with no known negative side-effects.”

オーストラリアでは、2013年から、アートと健康を統合する仕組みを維持している。スカンジナビアでは、スウェーデンでアート処方が進んでいる。デンマークもその動きに追いついてきている。北欧の持続可能な福祉モデルにおいて、カルチャーと健康の関係が重要な要素だという認識がますます進んでいるのだ。オールボー大学のアニタ・ジェンセン博士は、「アート処方が多くの人に効果があることが分かっています。比較的安価ですし、副作用も確認されていません」と述べている。

デンマークの復職プログラム「カルチャー・ビタミン」とは?

カルチャー・ビタミンは、デンマークで試験的に行われている、失業中や休職中の人にアート活動をしてもらって、不安神経症やうつ病の改善を目指すプログラムです。

Then the Kulturvitaminer (culture vitamins) programme came along, offering Thrysøe and other unemployed people in Aalborg with stress, anxiety or depression the chance to go on a crash culture course. Partly funded by the Danish health authority, and administered by the local jobcentre, the municipalities of Aalborg, Silkeborg, Nyborg and Vordingborg set up pilot schemes to encourage cultural participation for those unemployed or on state sick leave.

カルチャー・ビタミンのプログラムの出番だ。同プログラムは、オールボーの都市で、ストレスや不安やうつ症状のために就業していない、(広場恐怖症を患い、ほとんど外出していない36歳の)Thrysøeや他の人々に、カルチャーの集中コースを提供する。国の保健機関が一部を出資し、地元の就職センターが運営を担って、オールボー、シルケボー、ニュボー、ヴォーディングボーグの自治体が、失業中か国の制度下で休職中の人々にカルチャー活動への参加を促す試験的な施策を立ち上げた。
Mikael Odder Nielsen, the Aalborg course leader, says: “We wanted to see if we could make people’s mental health better, reduce social isolation and help them get back into the labour market via culture.”

オールボーでのコースの責任者、ミカエル・オダー・ニールセン氏は、「カルチャーによって、人々のメンタルヘルスが改善し、社会的孤立が減り、労働市場への復帰に役立つのかを知りたかったのです」と述べている。
Participants were invited to go on two or three cultural excursions a week for 10 weeks. This appealed to Thrysøe. “It was an activity that would get me out of the house, something that wasn’t a medical appointment, where I was treated as ‘normal’. Because I am not my anxiety, I’m me. And the course helped me feel like ‘me’ again,” he says.

参加者は、週に2、3回、カルチャーのために外出することを、10週間続けるよう促される。これはThrysøeに魅力的と映った。「外出する機会を与えてくれる活動だった。病院に通うのとは違って、『普通の人』として扱ってもらえた。だって、僕は不安神経症そのものなわけじゃない、僕は僕なんだ。このコースのおかげで、自分を取り戻せた」と彼は言う。

どんなアート活動があり、どんな効果があるのか?

オールボーのカルチャー・ビタミンのプログラムには、8種類のアート活動があるそうです。

歌う:ドーパミンを放出し、集団で行うと所属意識が促進される
・街のアーカイブを訪ね、地元の歴史や系譜を知る
音楽を聞く:音楽療法士が選んだ曲を聞き、脳と体を休める
劇場での公演鑑賞俳優によるコーチング・セッション:セッションでは、ボディーランゲージを習い、就職面接に向けて自信を付ける
オールボー交響楽団のリハーサルと本番の演奏を聞く:生演奏で音楽を聞くと、ストレスが減る。涙を流す参加者もいる
美術館に行って創作ワークショップに参加する:回復力が高まる
・オールボー図書館の照明を落とした部屋でブランケットにくるまり、司書が本を読んでくれるのを2時間聞く:大人になってから本の読み聞かせをしてもらうことはほとんどないので、大切にされているように感じる。本の世界に浸ると、ストーリーを疑似体験するので、共感力が高まり、健康が向上する
・ガイド付きのウォーキングツアーで自然に触れる:自然の中で過ごすことは、メンタルヘルスに良い。忙しい現代の生活と比べて、自然はゆっくりと歩んでいることを感じられる貴重な機会にもなる

▼詳細は英語記事をご参照ください。


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