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森下スタンド新作ダンス公演「ベートーヴェン交響曲第9番全楽章を踊る」のレビュー

日本で長年活躍している振付家・ダンサーの森下真樹氏が主宰し、2016年から活動を始めた、平均年齢25歳の若手ダンサーのカンパニー「森下スタジオ」の新作公演。題して、「ベートーヴェン交響曲第9番全楽章を踊る」。鑑賞した印象を紹介します。

会場は横浜市のスタジオ

会場は、劇場ではなく、神奈川県立青少年センターのスタジオHIKARI。JR桜木町駅を挟んで、みなとみらい地区のランドマークタワーがあるエリアの反対側です。

紅葉坂という、結構急こう配の、幅の広い通りを少し上った所にあります。スタジオHIKARIは建物の2階にあり、眺めがよかったです。

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ダンサーとの距離が近い

ダンスなどのスタジオとして利用されている空間の三方に座席が設置され、11人のダンサーたちは主に3カ所から出入りします。

出演者と観客は同じ床にいて、出演者は観客に時折接近して動き回ります。踊る空間の手前にいれば表情が見えますし、汗が飛び散るのも見えます。激しい息遣いも聞こえます。

ダンス公演ではよくあるタイプの会場ですが、表情や声もたくさん使う今回の作品では、この「近さ」が重要な要素だったと思います。

ダンサーに突進されそうになったのはあまり気になりませんでしたが、1人のダンサーが縄を激しく振り回して踊る場面は、唯一怖かったです。あの勢いで、もし縄を手から離してしまって観客に当たったら、当たり所が悪ければ、ひどいけがにつながりかねないでしょう。

名曲、第9の音楽に振り付ける

ベートーヴェンの交響曲第9番全楽章の録音音源を使用。公演時間は50分ほど。

音楽を流していない場面や、出演者たちが第9からの短いフレーズを合唱する(!)場面もありました。また、冒頭では、おそらく合唱の歌詞からの引用でしょうか、短いドイツ語の(と思われる)言葉とその日本語訳(と思われる)を、ダンサーが踊りながら声に出していました。

出演者たちの歌では、美しい高音が響いていました。その後も、所々でダンサーたちは叫んだり、声を出したりしていました。

なお、森下真樹氏はかつて、MIKIKO氏、森山未來氏、石川直樹氏、笠井叡氏が各楽章の振付を担当したソロ「ベートーヴェン交響曲第5番『運命』全楽章を踊る」という公演も行ったことがあるのだそうです。

視覚化されたことで、第9の起伏やエネルギーの激しさを実感

第9の音楽はどの部分も聞き覚えがありますが、きちんと通して聞いたことがほとんどありませんでした。

第9が森下真樹氏の頭の中で踊りまくっているような、本公演のダンスを見聞きして、第9はこんなにも激しく、多様な顔を持っているのかと、改めて驚きました。

1人や少人数で、あるいは大人数で、時には熱く激しく、時には静謐に穏やかに、時には悩ましくなまめかしく、音符に成り代わったかのようなダンサー、一人一人の身体がうごめき、声が響き渡り、呼吸が繰り返される。それらを見聞きしていると、世界創生の物語を目の当たりにしているような、ダイナミックさが迫ってきます。

羞恥心は要らない

大げさな表情をしたり、声を出したり、ちょっとした演劇っぽい場面もあるので、俳優っぽい要素も、出演者には要求されます。

恥ずかしるなど、きっともってのほか、思い切りの良さがすがすがしいです。

「森下色」が炸裂する中でも、ダンサーの個性がのぞく

森下真樹氏の作品を見たことはこれまでおそらくほぼありませんでしたが、エキセントリックで笑いを誘う場面もあり、少し「変」なところに味わいがあります。

動きで特徴的なのは、体を激しく打ち付ける動作が多いこと。床に体を投げ出したり、他の人にぶつかったり。ダンサーでなければあざだらけになりそうですが、ダンサーはけがをしないように何かにぶつかっていくことにたけていますね(!)

色っぽい場面もありました。女性たちが1人の男性にぽーっとなり、声を上げる。男性は迷惑そう。他の2人の男性が女性たちにアピールするが、女性たちは最初の男性しか見ておらず、振られた男性2人はがしっと抱き締め合う。なぜそういう場面になったのかは分かりませんし、特別好きでもありませんでしたが、ユーモラスで少し不気味で、印象に残りました。

バレエやストリートダンス、そしてジャグリングっぽい動きなど、ダンサーたちの個性が生かされたところも。ふっくらとした体、がっちりしたからだ、シャープな体、ねばっこい体、暑苦しい体など、体の特性が際立つ振付がされていました。

公演直前にパンフレットでダンサーたちの顔写真とプロフィールをざっと見ただけでしたが、公演後、どの人がどの踊りをしていたか、思い出すことができました。数人は以前見たことがあるダンサーでしたが、森下氏以外では10人ものダンサーが出ていたことを考えると、珍しいことです。それだけ、各自に個性があり、それを見せる振付になっていたのだと思います。

目新しさや新鮮さのある振付ではありませんでしたが、エネルギーがあふれる、元気をもらえる作品でした。

▼甲斐ひろな『プリティ・ヴェイカント』

▼伊藤まこと、甲斐ひろな「SICF20 Play」での作品

▼甲斐美奈寿が出演した小池博史「新・三人姉妹」

▼Von・noズ(上村有紀、久保佳絵)「マザー・グース」

▼中村駿「Dance New Air 2018ダンスショウケース 」での作品

▼山口将太朗が出演したCo.山田うん「いきのね」

▼山口将太朗が出演したCo.山田うん「プレリュード」

公演情報

2019年10月3日(木)~6日(日)
神奈川県立青少年センター スタジオHIKARI

構成・演出・振付:森下真樹
音楽:ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
出演:伊藤奨、甲斐ひろな、甲斐美奈寿、久保佳絵、小林利那、高橋楓華、中村駿、根本和歌菜、宮崎あかね、山口将太朗、森下真樹

一般 3,800円(当日4,000円)
学生 2,000円(前売・当日共)
高校生以下 1,500円(前売・当日共)

▼公演のサイト

▼森下真樹氏のTwitter


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