見出し画像

トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」25

3割うまい!! とは一体どういうことなのか?――中野「ぎょうざの満洲」

 2017年最後の原稿を「餃子の王将」で締めくくった本連載が2018年最初の原稿で取り上げるのは、「ぎょうざの満洲」である。

 全国に中華料理のチェーン店は数あれど、個人的には、餃子の王将とぎょうざの満洲がツートップだと思う。なぜ餃子推しなのかわからないくらい他のメニューも気合いが入っているし、レストランよりは食堂や居酒屋に近いガヤガヤ感もパワーをもらえる気がして好きだ。あと、両店とも美味しければ本場中国を平気で無視する勢いなのが最高。これまでも、これからも、ネオ日本食の道を突っ走って欲しい。一生ついていきます。

 ぎょうざの満洲は、関東エリアだけで約80もの支店があるにも関わらず、なぜか渋谷とか新宿のような大きな街には出店していないので、知らない人はまったく知らない(基本的に中央線以北、とくに西武線沿線にたくさん出店している)。東京に暮らして10年以上経つわたしも、満洲のことを最近までまったく知らなかった。

 そんな満洲を知るきっかけとなったのは、THE COLLECTORS(ザ・コレクターズ)のギタリスト、古市コータローさんが、バンドメンバーの加藤ひさしさんとやっているポッドキャスト「池袋交差点24時」の中で、満洲のことを話していたから。王将より満洲派であるコータローさんによれば、チャーハンやラーメンがオススメで、餃子にはあまり興味がないらしい(笑)。あと、チャーハンにナルトが入っているという情報には、めちゃくちゃグッときてしまった。今どきチャーハンにナルトを入れるなんて! 平成も30年になろうかというのにまだ昭和の匂いがする! これはきっといい店に違いない! そう思ったらいてもたってもいられず、中野店に行ったのが去年のこと。以来、すっかり大好きになってしまった。

 入店してまず目を引かれるのは、なんといっても「3割うまい!!」というキャッチフレーズである。チャイナ服を着たおだんご頭の女の子のキャラクターが、餃子の皿を片手に、そう言っている。何とくらべて3割うまいのかはよくわからないが(一般家庭の餃子とくらべて?)、この子に言われてしまうと反論できない。

 それにしても、3割という数字の設定は実に絶妙だ。1割うまいぐらいでは自慢にならないし、5割うまいとか言って大きく出ると異論が出そう。その点、3割は塩梅がいい。「へえ〜そうなんだ〜」と思わせる何かがある。これを考えた人は、控えめに言っても天才だ。

 今回注文したのは、ネギチャーシュー、餃子、チャーハン、肉細切ピーマン。ネギチャーシューは、芸人のサンキュータツオさんがTBSラジオ「Session-22」にゲスト出演した際、満洲のネギチャーシューを「バリウマ!」と言っていたので頼んでみた。偶然なのかわからないが、ポッドキャストとかラジオとか、声の文化圏では満洲人気が異様に高い……。

 最初に運ばれてきたのは、ネギチャーシュー。230円で提供されているネギチャーシューにひとはそれほど期待しないものだと思うが……確かにバリウマですわこれは! ネギとチャーシューを組み合わせただけなのに、3割以上のうまさを叩きだしている。編集Kくんも言っていたが、とにかく「ネギの質がいい」のである。シャキシャキ。しかも量をケチってない。これで230円はおかしい。採算取れてるのか。ビールが進む。進まざるを得ない。同じような理屈で、肉細切ピーマン(500円+税)も、ピーマンが新鮮で甘くて量もたっぷりなため、食べ応え十分だった(余談だが青椒肉絲と書かないところに謎のこだわりを感じる)。野菜って大事だな〜。

 続けて出てきた焼餃子(220円+税)は、王将と比較すると、皮がやや厚くもちもちとしており、中の餡は野菜寄りの構成。わたしは美味しいと思ったし好きだが、コータローさんが無関心なのもよくわかる(笑)。なぜなら、前回の連載で話題になった「味の方からやってくる」感じが薄いからだ。疲れてぼんやりしてても、味の方からガンガンこっちに来てくれるのがチェーン系中華料理の長所だとすれば、満洲の餃子はちょっと離れたところでわたしたちをじっと待っている感じ。3割うまいけど、押しつけがましくない。なんというか、貞淑な餃子である。

 そして、個人的にもっとも食べてみたかったチャーハン(440円+税)だが、ごはんの間からチラチラ見えるナルトのピンクがかわいい。萌える。れんげを入れると小山がパラっとほぐれ、しっかりめに炒められたごはんからいい香りが。食べてみると、脂っぽさがなくて、パラパラを超えてもはやサラサラ。食べても食べても胃が重くならない(食べ過ぎちゅうい)。

ナルトは、かまぼこの一種で、正式名称を「鳴門巻き」という。つまり日本の食べ物だ。そしてチャーハンは中国からやってきた食べ物。そのふたつが、何の違和感もなく融合しているこの奇跡を、わたしたちはたった数百円で手に入れ、なんでもない日常として食らう。ネオ日本食的見地から見れば、これは大変な贅沢である。しかし、こうした贅沢を、なんでもない日常として提供することこそ、洒脱というものだ。3割うまいし、洒脱。ぎょうざの満洲とは、そういう店なのである。

ぎょうざの満洲
中野南口店・地図:〒164-0001 東京都中野区中野2-29-6リカム8

■バックナンバーはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?