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トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」26

「ぎょうざの満洲」とネオ日本食をめぐるあれこれ——古市コータローさんインタビュー(前篇)

 前回の連載で「ぎょうさの満洲」について書いたが、わたしにとって満洲と言えば、やはり古市コータローさん(THE COLLECTORS)である。コータローさんがいなかったら、満洲との出会いはもっとずっと遅れていたし、ネオ日本食の見取り図も違っていただろう。
 すばらしいギタリストであるのみならず、バンドマン界隈では、B級グルメに大変詳しい人物としても知られるコータローさん。若い頃からB級グルメを愛し、いろいろなお店を食べ歩いてきたコータローさんだからこそ語れる「満洲愛」を伺いたい。そしてあわよくばネオ日本食についてのお考えもお聞かせ願いたい。そう考えたわたしは、担当編集Kくん&おかもっちゃん(夫)とともに、コータローさんの庭であるブクロ(池袋)へと向かった。

「満洲」推しであるワケ

——本日はよろしくお願いします。コータローさんはポッドキャスト「池袋交差点24時」で「ぎょうざの満洲」について語っておられますよね。わたしもそのポッドキャスト聞いてはじめて満洲を知り、ファンになったクチです。いろいろなチェーン店があるなか、なぜコータローさんは満洲を推すのでしょうか?

古市:古き良きものを感じるんですよね、満洲には。いい意味で「街場感」が残っているというか。「餃子の王将」はもう全国区で、すべてに段取りを感じてしまう。別にまずいとか言ってるんじゃなくて、大規模チェーンならではの段取りがあるなあと思うんです。その点満洲は、アバウトな段取りはあるんだろうけど、それよりも「人間」を感じるところがあって。

——わたしは王将も好きなんですけど、それって「味が向こうから来る」からなんです。絶対に万人受けする味を舌にガツンと届ける、みたいな。でも、満洲はそこまでガツンと来ないんですよ、いい意味で(笑)。それって「段取り」の違いなのかなと、いまのお話を聞いていて感じました。

古市:やっぱりそうだと思いますよ。満洲は日によっても作る人によってもブレるんですけど、そのブレがセブンイレブンのかつ丼くらいのブレなの。

——セブンのかつ丼にブレがあると知っていまちょっと驚いています。

古市:あそこのかつ丼には、愛すべきブレがある(笑)。

——愛すべきブレっていい言葉ですね。ポッドキャストでもお話されてましたけど、満洲との出会いはわりと最近なんですよね?

古市:そうですよ。数年前に椎名町にできたんで、ちょっと行ってみたんです。

——最初はなんとなく行ってみた感じですか?

古市:そう、なんとなく。「見たことない女の子がいるな〜」と思って。

——ああ、マスコットキャラクターのランちゃんですね(笑)。高評価のきっかけは、チャーハンを食べたことですか?

古市:そうです。あとラーメンですね。この二巨頭がちゃんとしてれば、街場中華としては怖いものなしですから。

——なるほど。あと、満洲と言えば、お持ち帰りコーナーがやたらと充実していますが、コータローさんは何を買われますか?

古市:タレ系を買いますね。特に回鍋肉のタレはベストですね。すばらしい。

——じゃあ、いつものパターンとしては、チャーハンもしくはラーメンを食べて、回鍋肉のタレを買って帰る感じですね。

ナルト力

——ところで、コータローさんがチャーハンに入っているナルトを褒めるのはなぜなんですか?

古市:かまぼこが入ってるチャーハンもありますけど、ナルトですよやっぱり。かまぼこを食べるときって、歯がスッとまっすぐ入っていく感じがするんですよ。ところがナルトの場合、歯がクニって入る。ナルトの方がかまぼこよりやわらかいから、歯がまっすぐ入らない。ナルトって、向こうから吸いついてくる性質があるんですよね。その食感がおもしろいんです。

——なぜそこまでナルトにお詳しいんですか? みんなナルトのことそこまで考えてないですよ……。

古市:ナルトの食感のおもしろさについては、小学校の頃から気づいてたんで。あと、「丸長」っていうつけそばの店があるんですけど、そこは千切りにしたナルトを使っていてうまいんですよ。やっぱり僕はかまぼこよりナルト派ですね。お正月のお雑煮もかまぼこからナルトにチェンジしたぐらいですし。

——徹底してますね。

古市:ナルトが入ってるチャーハンは、それだけで60パーセントOK! スピリットがいいですよね。

——だいぶ配点が高いですね(笑)。でも実際おいしいですよね。

古市:うまいですよね。

タッチパネル問題

古市:あと満洲はラーメンも侮れないんですよ。

——他のチェーン系中華料理店とは違いますか?

古市:違いますね。どんぶりブン投げて帰りたくなるようなラーメンが出てくるチェーン店ありますもん。あと、卓上パネルで頼むシステムの所もなあ……。

——パネルで注文するのはダメですか?

古市:本音を言えば、ああいうのはフードの世界から出てってほしいですね。

——でも満洲の中野店、とうとうタッチパネルが導入されましたよ。

古市:それはダメだよ、TSUTAYAでDVD借りるんじゃないんだから。ああいうシステムを持ち込んじゃったら「よく焼きでお願いします」とか言えなくなるじゃないですか。仮に「よく焼き」ってボタンがあったとしても、やっぱり店員の目を見て言わないと。こっちがどれくらいの「よく焼き」を求めてるかっていうのを、向こうも感じないといけない。そういうことを大事にしない姿勢が、街場中華が消えてゆく要因のひとつになっていると思ってますからね、僕は。

——効率を重視することによって失われるものがあるというのは、すごくよくわかります。ちなみに、椎名町店がタッチパネルになったらどうします?

古市:椎名町はたぶんやんないと思いますね。

——椎名町に対する信頼がハンパないですね(笑)。

古市:椎名町はまだ大丈夫!

「ネギに頼る姿勢」問題

——コータローさんはよくお酒を飲まれますけど、満洲で飲むことはありますか?

古市:たまに飲みますよ。でも昼に行くことが多いですね。満洲ってそんなに遅くまでやってないじゃないですか。

——そうなんですよ。ラストオーダーが早くてびっくりしました。

古市:でもそれは正しいと思います。

——正しい?

古市:シメで満洲のラーメンを食べたかったら、こっちが合わせないといけないですよ。もちろん遅くまでやってるいい街場中華もあるにはあるけど、基本22時以降もやってるようなところはあまり信用できないですね。

——なるほど。某ラジオ番組でチェーン店特集があったときに、ぎょうざの満洲ファンの方が「ネギチャーシュー」を褒めていました。あれなんかは「満洲飲み」に欠かせないような気がするんですが、コータローさん的にはどうですか?

古市:僕はチャーシューのつまみを認めてない人間なんで……。

——えっ、なんでですか?

古市:チャーシューは熱が入んないとおいしくならないですよ。

——冷めたチャーシューは別段うまくないと。

古市:うーん、これはあくまで僕の趣味ですけどね。というか、なんでもネギに頼るその姿勢がやだ!

——「なんでもネギに頼る姿勢」(笑)。

古市:最近減ってきたけど、ちょっと前まで「ネギラーメン」とか言って白髪ネギをどっさり乗せるやつがあったでしょう? でも僕は白髪ネギほど麺との相性が悪いものはないと思ってますから。ついでに言うと、かつ丼でもオムライスでも、「卵が半熟ならいい」っていう風潮あるじゃないですか。あれもイヤなんですよね……。

——あれはわたしもどうかと思っています。「なんでもトロトロにすればいいのかよ」みたいな。

古市:意味がわかんないよね。親子丼食ってるのか卵かけご飯食ってるのかわかんないときあるもんね。ちゃんと閉じてくれないと。

——本当にそうですね。ただ、パンケーキの世界でもいま半熟系がけっこう人気で、この流れはしばらく続くんだろうなあと思います。話を満洲に戻しますが、満洲とか王将は定食屋っぽいスタイルでやってるじゃないですか。でも、バーミヤンみたいにファミレスっぽいところもありますよね?

古市:ファミレスっていうのは、僕のなかで1985、6年までのものなんですよね。

……コータローさんが30年見続けてきた外食産業のお話はまだまだ続きます。後篇もどうぞおたのしみに!(3月5日公開予定)

古市コータロー
1964年5月30日生まれ、東京都出身の日本のミュージシャン。ロック・バンド「THE COLLECTORS」のギタリストとして知られる。86年、加藤ひさしらが中心となり結成したザ・コレクターズに加入。翌年11月、1stアルバム『僕はコレクター』でメジャー・デビュー。THE COLLECTORS以外にも、加藤ひさしらと昭和生まれの “TEISCO"ブランドの楽器で演奏するヴィンテージ・バンド「KOTARO AND THE BIZZARE MEN」を結成しマイペースに活動中。加山雄三率いるドリーム・バンド “THE King ALL STARS"にも参加し各地のフェスに出演している。50歳を機に、自伝『お前のブルースを聴かせてくれ』(音楽と人刊)と、 古市コータロー・ドキュメンタリーDVD『SWEET ROAD TO YOUTH』(WONDERGIRL RECORDS)を2014年9月にリリース。両親を幼い頃に亡くした少年のギターに賭ける壮絶な半生が話題となっている。加藤ひさしとのポッドキャスト「池袋交差点24時」も大人気である。

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