トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」⑦

名前からしてネオい、亜墨利加饅頭と佛蘭西饅頭——小伝馬町「梅花亭」

 パン屋では郷土愛が足りないから和菓子屋に変更しよう——道徳の教科書をめぐるバカバカしい忖度にみんながげんなりしていた頃、わたしが考えていたのは「亜墨利加万頭と佛蘭西万頭の立場はどうなるんだ!」ということだった。なぜなら和菓子だって海外の影響をたっぷり受けているから。いつの時代にも、ネオらせることに興味津々の職人たちがおり、彼らが作るもののいくつかは、時代を超え、立派な和菓子としてみんなに愛されているのだ。

 亜墨利加万頭と佛蘭西万頭は、霊岸島に本店を置く御菓子匠「梅花亭」の名物である。ちなみにひとつ162円。先に誕生したのは、亜墨利加の方。同店のホームページやしおり等の情報を総合すると、亜墨利加饅頭は、寛永年間に作られたもので、栗饅頭の原型と言えるものだという。「創業者は生来の新しもの好きの上に無類の甘いもの好きで、これが菓子匠としては幸いし、創作的なお菓子を数々生み出すことが出来ました」とホームページにあるが、これはわたしに言わせれば「ネオらせ好き」ということである。

 その新しもの好きの創業者が、長崎帰りの蘭学者宇田川興斎から西洋人が好んで食べる焼き菓子の話を聞いて作ったのが亜墨利加饅頭だ。現在でいうパン釜のような釜を用いて焼かれた亜墨利加饅頭の登場は、ペリー来航のタイミングに重なっていたこともあって、大変話題を呼んだそうな。当時の人たちがこのお菓子を「超イケてる最先端のお菓子」として食べたことは想像に難くない。

 が、現代のわたしたちにとって、この亜墨利加饅頭は、古式ゆかしい和菓子といった風情である。しっかり焼き目のついた薄皮の中には、白あんがたっぷり。てっぺんに添えられたくるみが、いい食感のアクセントになっている。釜で焼く、という製法がアメリカ的だから亜墨利加饅頭になったわけだが、見た目も味も至って和風だ。「これがネオかった時代があったのだなあ」と、ちょっと不思議な気持ちになる。

 時は流れ、梅花亭の六代目が開発したのが佛蘭西饅頭である。「昭和二十六年、店主が大正時代に習得した洋菓子の技術を生した革新的銘菓」……和菓子屋の六代目、大正時代に洋菓子学んでた! すごい貪欲! やはり和菓子屋=郷土愛、という図式は雑すぎる。

 佛蘭西饅頭は黒餡のおまんじゅうで、皮の上にメレンゲをかけて焼いているのが特徴。実際に食べてみると、皮の感じは台湾のパイナップルケーキに近い。ちょっと固いけれど、かじるとすぐほろほろになるところがよく似ている。そしてメレンゲのコーティングは、クッキーのアイシングっぽくて、シャリシャリとおいしい。そして極めつけは、トッピングの甘夏皮。レモンピールやオレンジピールを思い出してもらえれば話が早いのだが、甘酸っぱくてさわやかな柑橘系のいい香りがして、これはけっこうフランスっぽいかもしれない。和菓子なんだけど、和菓子であることを一瞬忘れてしまう。とはいえ、中身はあんこなのだけれど。

 梅花亭がおもしろいのは、「海外文化が一気に流れ込むときネオ日本食は爆誕する」というわたしの仮説を見事に証明しているところだ。文明開化のドサクサでオムライスが生まれたとき、梅花亭では亜墨利加饅頭が生まれ、戦後のドサクサでナポリタンが生まれたとき、梅花亭では佛蘭西饅頭が生まれている。すごい。感動的。伝統的な製法を守り、何も変えない老舗もあるだろう。しかし梅花亭は、そのときどきのトレンドを敏感にキャッチすることで、サバイブしてきたタイプの老舗だ。ネオ日本食お菓子部門を支えてきた柱のひとつは、間違いなくこの店である。

 西洋/東洋のボーダーを軽々と超え、しかしあくまで和菓子としての立ち位置を守り続ける。そんな難しいことを、シレっとやってのけるのが梅花亭である。ちなみに、初代が亜墨利加饅頭、六代目が佛蘭西饅頭を作る一方で、二代目は円盤状の生地の中にあんこを包む、ユニークな形の「銅鑼焼」を考案している。創意工夫好きにもほどがあるだろうと言いたくなるくらい、梅花亭はお菓子作りに前向き、いや、前のめりだ。

 今回、小伝馬町の支店まで亜墨利加饅頭と佛蘭西饅頭を買いにいった際、お店の方に「お土産ですか?」と訊かれた。「いえ、自分用です。二種類のおまんじゅうを食べ比べてみたくて……」と正直に告白したら、むちゃくちゃ反応が薄かった(泣)。変なヤツだと思われたかも知れない。しかしそれでも構わない。こんなにネオい(しかも歴史ある)おまんじゅうは、そうそうないのだから、食べ比べないわけにはいかない。

御菓子匠「梅花亭」

https://www.baikatei.asia



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