トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」⑤

サンドイッチのお花畑かここは?——新宿「サンドイッチハウス メルヘン 髙島屋新宿店」

 前回の連載で「リトル小岩井」に行き、「メキシカン」や「(韓国風)スパゲティサンド」といったおもしろサンドを食べたわたしは、「麺もネオりがちだが、パンだって負けてない」ということに改めて気づかされた。イタリア料理のマナーにとらわれない自由なスパゲッティがあるように、パンの世界もかなり自由。サンドイッチだけじゃなく、カレーパンや焼きそばパンといった惣菜パン、そして海外のものにくらべると妙に白くてしっとりフワフワの食パンなど、日本のパン文化の一部は、完全に独自路線を行っている。

 ということで、ネオってるパンを食べるためにまず訪れたのは「サンドイッチハウス メルヘン」。1982年に八王子で誕生した同店は、関東エリアにいくつもの支店を持つサンドイッチの名店で、京都、大阪、名古屋なんかにも支店を出している。定番から期間限定品まで、さまざまなサンドイッチを出しているのが特徴で、ホームページによると「日本人好みの日本人のためのサンドイッチを作ろう」というのがコンセプト(完全にネオい!)。「食べたい物を挟んでゆくうちに、蓮根・ごぼうからロースカツなど100種類以上のサンドイッチになりました」とのこと。サラっと書いてるけど、商品として出せるレベルで100種類超えてる(しかも日本人の味覚に合わせるという縛りがある)ってすごいような気が。静かなる狂気に触れ、思わずこちらのテンションも上がる。

 取材当日、編集Kくんと新宿高島屋で待ち合わせて、地下の食料品売り場「グルメスクエア」へと向かった。ひさしぶりに訪れた高島屋のデパ地下は、わたしが伊勢丹のデパ地下に通いつめている間に、すっかり大人の雰囲気になっていた(同窓会で再会したかつてのクラスメイトがイケメンになってた的な)。しかし、メルヘンはそうした周囲のノリに一切迎合せず、ファンシーな熊ちゃんのイラストでもってわたしたちを出迎えてくれた。周囲が大人っぽいだけに、メルヘンのメルヘンっぷりが際立っている。熊ちゃんの前に鎮座するサンドイッチのカラフルな切り口は、まるでお花畑だ。

 メルヘン初訪問のわたしは、あまりの種類の多さに、比喩でもなんでもなく目がくらみ、目移りしちゃって大変だった。あれもこれも食べてみたくて、なかなか絞り込めず、ガラスケースの前を、右へ行ったり左へ行ったり。だが、店からするとそういうのは「初来店あるある」なのか、いい感じに放っておいてくれて大変ありがたかった。

 その間にも、常連さんが次々にやってきては慣れた調子で注文をしていく。こんなに種類があるのに、みんなびっくりするほど迷いがない。「いつもの」がある人ってやっぱりかっこいいなあ。そういえば、Kくんの同僚であるリトルモアのFちゃんも「歌舞伎を観に行くときは必ずメルヘン寄るんですけど、買うものは決まってますよ、おぐらクリーム(キッパリ)」と言っていた。メルヘンで買うやつ決まってる女、なんかイイ女っぽい。憧れる。

 ショコラバナナ、みかんパインクリーム、金ゴマごぼう&れんこんサラダ、いかフライサンド、おさかなサンド(おさかなとはまたずいぶんとアバウトな)……名前だけでもかなりネオいサンドイッチの中から今回わたしたちが選んだのは「ハムポテト」と期間限定の「黒毛和牛コロッケのタマゴサンド」、それから「いちご生クリーム」と、Fちゃんの定番でもある「おぐら生クリーム」である。ポテサラやコロッケがそもそも「海外由来っぽいけど日本で独自進化したネオ日本食」であるし、あんこ×生クリームはどう考えてもネオい組み合わせなので選んでみた。

 しょっぱい系のサンドイッチを見てもらえればわかるのだが、旨さだけでなく、切り口の芸術性にこだわっているのがよくわかる。ハムポテトなんて、ポテサラをわざわざハムで巻いたものをサンドしているのだ。なんて美しいのか。こんなもん、家で真似したら確実にぐしゃぐしゃである。コロッケタマゴサンドも、切り口が市松模様に見えるよう、わざわざ具の上下を入れ替えていた。仕事が細かい。

 もちろん、見た目だけじゃなく味もいい。みんな知ってるおかず(とかフルーツ)だからこそ、みんなが納得する落としどころを探るのが難しそう。その企業努力を思うと、尊敬の念が沸き上がってくるというものだ。

 そしてスイーツ系のサンドイッチは、ホイップクリームがキモだ。Kくんとふたりで「けっこう甘いんだね!」と語り合ったが、甘すぎて胸焼けまではいかないギリギリのラインを攻めている。たぶん、現代人の味覚に合わせて甘さ控えめにするのは簡単だと思うが、そうしないところに、メルヘンらしさを感じた。パンケーキもそうなのだが、老舗ほど甘さを大切にし、くどいと言われるギリギリのところで踏みとどまる傾向がある。その甘さは、今のわたしたちからすると、どこかノスタルジックだ。メルヘンもそういうノスタルジックな甘さをちゃんと大切にしている。メルヘンの紙袋には『「やさしい、日本人好みのレシピ」メルヘンのサンドイッチは、毎日食べても飽きのこない日本人の味覚に合わせたレシピです』という一文が印字されているが、「やさしいレシピ」ってつまり、ノスタルジーをバカにしないということでもあるんじゃないだろうか。

 まあ「やさしい」とかいいつつ、いつどんな方法で新たな具を挟んでくるかわからない予想不可能性があるのがメルヘンのすばらしい所だ。「ゆめゆめ油断めさるな」というメッセージを感じつつ食べるべきサンドイッチだと思う。実際、先日Kくんからメールが来て、暦の上では春ですねという話題に続けて、「まさか、菜の花とか、そういう『わかるやつにはわかる』的な食材は挟んでこないですよね」と書いてあったが、いまメルヘンに行くと、菜の花サンドがある(ちなみにおいしい)。まさかの食材も堂々と挟む。メルヘンとはそういう店だ。

サンドイッチハウス メルヘン

http://www.meruhenk.co.jp

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