トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」19

広がるドリアの世界——「サイゼリヤ 西早稲田店」

 横浜のホテルニューグランドで初代総料理長を務めたサリー・ワイル(1897-1976)は、スパゲッティ・ナポリタンを考案したネオ日本食界の偉人なのだが(詳しくは本連載③をご参照ください)、実は彼発信で広まったネオ日本食がもうひとつある——ドリアだ。

 ドリアはグラタンの親戚っぽいので、同じようにフランスの郷土料理が発祥なのかと思いきや違う。海外由来ではなく、サリー・ワイル由来なのだ。体調を崩した客のために即興で作ったものだと言われており、なんか、ノリとしては、お母さんの作ってくれるおじやある。確かにすごく旨いとはいえ、即興で作った料理がここまで有名になるとは、サリー・ワイル自身も想像していなかったんじゃないだろうか。

 そんなドリアをどのように取材しようかと考えれば考えるほど、サイゼリヤに行きたい気持ちが湧いてきた。早稲田大学を卒業し、いまは助教として働くわたしにとって、もっとも馴染み深いドリアは、サイゼリヤの「ミラノ風ドリア」なのだ。キャンパスの目の前にあるから、学生時代からちょいちょい行っている。ひとりでも行くし、友だちとも行く。そして行くと誰かが必ずミラノ風ドリアを頼む。税込み299円。どうかと思うくらい安い。この価格でちゃんと「料理」と呼べるような温かい食べ物を口にできるのは、単純にすごいことだ。

(基本のミラノ風ドリア)

 それで改めてサイゼリヤのメニューを見てみたら、わたしの知らないうちにドリアの種類が増えていた。わたしが学生だったころは、ドリアといえば「ミラノ風ドリア」1択だったのだが、いまや1択じゃないどころか、ランチタイムにしか食べられないドリアまである。低価格だが基本的に本格志向なサイザリヤのメニューの中で(ワインエキスパートの資格を持つ編集Kくんが「ワインがすごくちゃんとしている」と感心していたぐらいだ)、どう考えてもイタリア生まれじゃないドリアがこんなに推されているなんて。これは「サイゼのドリア愛」ってことでいいんだろうか。

 その愛にグッときたわたしは決心した。今回は全7種類コンプリートしてみようと。店は職場の目の前にある。しかもべらぼうに安い。がんばれば全種類行ける。そう考えたわたしは、いきなり二日で5ドリア食べた(うち3ドリアは学生さんを巻き込んで一気に食べたりした。SさんとYさんありがとう)。無茶である。無茶だが、続けざまに食べると見えてくるものがある。

 まず、なんと言っても、サイゼリヤのドリアは飲み物っぽくて旨い。自社製のホワイトソースが、米と米のすきまを埋めるようにたっぷり流し込まれているから、食べたときの口当たりが滑らかなのだ。上部のソースと土台の米が別物みたいになっているドリアがあるけれども、わたしはサイゼリヤのジューシーなドリアが好きだ。

 ミラノ風ドリアを基本にしたメニュー展開も見ていて楽しい。「半熟卵のミラノ風ドリア(368円)」とか、「セットプチフォッカ付きミラノ風ドリア(378円)」に対しては、「おい、全く別メニューですみたいな写真載せてるけど、それ乗せただけのやつと添えただけのやつだろ」と思わぬでもないが(笑)、「いろどり野菜のミラノ風ドリア」までくると、はっきり別のメニューという感じがする。カポナータ(野菜の煮込み)を乗っけたドリア、399円でこんなに旨いなんて聞いてないぞ。上部のすっぱさっぱりゾーンと、下部のしょっぱこってりゾーンのバランスが大変よい。飽きずに最後まで食べられる。

(半熟半熟卵のミラノ風ドリア)

(いろどり野菜のミラノ風ドリア)

 そしてランチタイムに食べられる「タラコとエビのドリア(サラダとおかわり自由のスープつきで500円)」もよかった。この世にはタラコを投入することで大抵の料理は和風化し、なんだかんだ言って旨くなる、という不文律があると思うのだが、このドリアもご多分に漏れず、和風化がうまくいったパターン。同じ海の幸でも、「エビとイカのドリア(499円)」まではギリギリ洋風だが、イカからタラコに選手交代すると、もう和風。意識してのことかどうかは分からないけれど、そのボーダーラインを体感できるようにメニューを揃えているのが、実に心憎い。

(タラコとエビのドリア)

(エビとイカのドリア)

 また、決して派手ではないものの、ランチメニューの「チキンとトマトソースのドリア(ランチ価格500円)」のことも気にしておいて欲しい。トマトベースのミートソース+ホワイトソース+米の組み合わせが、食べれば食べるほど「シート状パスタの代わりに米を入れたラザニア」に思えてくる。これはもはやドリアではない、米で喰うラザニアだ。いま自分が何を食べているのか一瞬見失いそうになる経験も含め、そこまでしてドリアの種類を増やそうとしたサイゼリヤに敬意を表したい。たぶん、メニュー開発の担当者に、ネオ日本食好きがいるんだと思う。できることなら、友だちになりたい。

(チキンとトマトソースのドリア)

 編集Kくんは、今回かなり久しぶりにサイゼリヤでご飯を食べたそうだが、会社で「これからサイゼリヤに行く」と言ったら、社員のみんながお気に入りのメニューを教えてくれたり、「サイゼはいいぞ……」という応援メッセージ(?)を投げかけてきたという。サイゼのドリア愛もすごいが、リトルモアのサイゼ愛も負けていなかった。というか、みんな心の中に「俺のサイゼリヤ」があり、「これが最高」という黄金のオーダーがあるのだろう。その中にドリアはどれくらい食い込んでいるだろうか。食い込んでいて欲しい。ちなみにわたしは「いろどり野菜」か「タラコとエビ」のどっちを推すかで悩んでいる。

(真ん中がプチフォッカ)

サイゼリヤ

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