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トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」21

オクシブで「大人のお子様ランチ」を食べる――渋谷「TORICO」のトルコライス

 トルコライスは、長崎県が生んだワンプレートディッシュである。名前の由来には諸説あるものの(フランス語で「3色」を意味する「トリコロール」が形を変えて「トルコ」になったとか)、トルコとは関係がない。

 基本的な構成は、「何らかのご飯、何らかのスパゲティ、何らかの肉」の3種(ここからトリコロール→トルコ説が出できたのだった)。それにサラダがつく場合もある。ちなみに、オーソドックスな長崎風トルコライスは、ピラフ+ナポリタン+デミグラスソースのかかったとんかつで、大阪風は、ご飯がチキンライスになり、神戸風は、カレーをかけたり生卵をトッピングしたりする。基本はあるものの、わりと自由なのがトルコライス。そもそもトルコとは関係ない上に、洋食自体が日本でネオった食べ物であり、さらに長崎風だの大阪風だのが発生して……ネオりが複雑。もはやわけがわからないが、いずれにせよ、洋食メニューの盛り合わせ、つまり「大人のお子様ランチ」だと思えばいい。

 で、このトルコライスを食べられるお店が奥渋谷にあるというので早速行ってきた。奥渋谷、通称オクシブ。渋谷の東急本店前から富ヶ谷方面に抜ける道を入ると、そこが奥渋谷。めちゃくちゃおしゃれなお店が集まりまくっている注目のエリアである。

 トルコライスを奥渋谷で食べるとどうなるかというと、当然のごとくおしゃれになるのである。トルコライス専門店の「TORICO」は、お店もおしゃれなら、メニューもおしゃれ、そして出てくるトルコライスもおしゃれだ。

 しかし、TORICOの売りは、おしゃれだけじゃない。この店の何が素晴らしいって、どういうトルコライスにするか、その組み合わせを自分で決められるところだ。おしゃれな上に融通が利くなんてありがたい限り。サイズは、レギュラー(1080円)とビッグ(1280円)のふたつから選べて、あとは以下から自分の好きなものを選んでよいシステムである。

ライス:カレーピラフ、チキンライス、シーフードピラフ、ガーリックライス、バターライス(50円OFF)
スパゲッティ:ナポリタン、ミートソース、カレースパゲッティ、ペペロンチーノ、和風スパゲッティ、明太子スパゲッティ
フライ:ポークフライ、チキンフライ、シーフードフライ、唐揚げ
ソース:デミソース、カレーソース、タルタルソース、ラタトゥイユソース、ホワイトソース

 ……どんなトルコライスも思いのままである(Kくん計算によれば600通り)。これにいくらか料金を上乗せすれば、トッピング追加も可能(チーズ、目玉焼き、ポテトサラダなど。これをカウントに含めるとなんと14424通りのトルコライスができてしまう)。わたしはまだトルコライス初心者なので、カレーピラフ+ナポリタン+ポークフライ+デミソース、を選んで長崎風トルコライスを完成させた(メニューの左端を上からずらーっと選ぶと基本のトルコライスになりますよ、とスタッフさんが教えてくれたので素直に従った)。一方、編集Kくんは、敢えて王道を外れることにしたらしく、チキンライス+ミートソーススパゲッティ+唐揚げ+ラタトゥイユソース、にしていた。それもまたよしである。

 ランチタイムの混雑がひと段落する13時過ぎを狙って入店したが、それでも店内は近隣で働いているとおぼしきひとでいっぱい。みんな各々のトルコライスと向き合っている。あ〜この辺のひとって着てるものから何からみんなおしゃれだわ〜(と思うと少し凹む)。

 わたしのトルコライスは、スパイシーなカレーピラフが味のセンターを守り、そこにサポート役としてナポリタンとデミかつが入ってくる感じ。このカレーピラフが美味しかったので、みなさんにも是非おすすめしたい(Kくんも「これいいな〜」って言ってました)。ナポリタンは、庶民派極太麺ではなく、わりと細めのアルデンテ。ポークフライは、本場のトルコライスとくらべると小ぶりだが、わたしには丁度よかった。というのも、トルコライスには、山盛りフードとしての顔があって、店によっては普通サイズと称してかなりボリューミーなものを出してくるところがあるのだ。それをアラフォーの胃弱女がひとりで完食できるかというと、かなり怪しいので、TORICOのサイズ感は逆にありがたかった。これなら飽きないし、残さなくて済む。

 Kくんのトルコライスは、全体的にトマトの存在感が強い、ヘルシーなひと皿となった。なんというか、トルコライスですよと言われなければ、どこかのカフェ飯かなと思うような仕上がり。しかしそうやって、全体のカロリーとか、野菜・肉・炭水化物のバランスがコントロールできるのは、けっこう嬉しい。

 TORICOは、奥渋谷の中でも、かなり奥の方、しかも住宅街の中に一軒だけぽつりとあるようなお店なのだが、それでもお客さんが集まってくるのは、「自由に選べる」というシステムが魅力的だからなんじゃないだろうか。ネオ日本食愛好家としては、内心「極太麺のナポリタンも置いといてくれ……」と思わぬではないのだが、それでもなお、ここのトルコライスには好印象を抱いた。選べるって楽しい!

 それにしても、ひと皿に炭水化物×2と、ソースたっぷりの揚げ物という、カロリー的にはかなりヤバい(しかしそれゆえ悪魔的に美味しい)この食べ物が、全国区じゃないのはどういうわけなんだ。うーん、名前が悪いんじゃないだろうか。そもそもトルコと関係ないのに、トルコと名乗ってるし、名乗ったところでわれわれのトルコイメージはあまり豊かじゃない(ケバブとか、のび〜るアイスとか?)。でも、本当にいいものだ、トルコライスは。ただのご当地B級グルメにしておくのは、もったいない。

TORICO
地図:〒150-0047 東京都渋谷区神山町10−8


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