トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」12

大衆酒場のネオさを語らおう(夫と)――神保町「酔の助

 今回のネオ日本食ノートは、番外編的に「酒場のネオさ」についての対談をお届けしたい。ハムカツやポテトサラダといったオーソドックスなネオ日本食から、ホッピー、バイスといったネオい酒、 餅や味噌を使ったアヒージョのようなネオ日本食の最新型に至るまで、酒場のメニューは放っておくとどんどんネオるし、その増殖っぷりはとどまるところを知らない。この懐の深さはなんなのか。そして、なぜこんなにも楽しいことになってしまうのか。こうした話題について、一度酒場に詳しい方をゲストにお迎えして語り合っててみるのがよいのではないか、ということになった。まあ、みなさんも薄々勘づいていると思うが、わたしがこういうとき真っ先に思いつく人物と言えば、彼しかいない。

トミヤマ:……というわけで、今回お招きしたのは、この連載では「おかもっちゃん(夫)」としておなじみの、オカモト”MOBY”タクヤさんです。

MOBY:よろしくお願いします。

トミヤマ:家族をゲストに招くという暴挙に出てすみません(笑)。

MOBY:いえいえ(笑)。でも、僕なんかがゲストでいいのかな?

トミヤマ:いいのいいの。むしろ適任なの。ここ数回、レモンサワーやホッピー、バイスといったネオい酒を取材してきたのは知ってると思うけど、やっぱりネオい酒のあるところにネオい肴あり、だよなと思いまして。で、わたしの周りで酒場に詳しい人と言えば、どう考えてもおかもっちゃんなので、改めていろいろ聞いてみたくて。

加藤(担当編集):今日は神保町の大衆酒場「酔の助」に来ていただいたんですけど、ここのメニューには、ネオくて個性的なものがちょいちょい紛れ込んでるじゃないですか。「たこ焼きのミートグラタン」とか「つぶ貝のエスカルゴ風」とか。僕、大衆酒場にあんまり詳しくなんですが、どこのお店に行ってもこういうメニューってあるもんなんですか?

MOBY:どこにでもあるってわけじゃないよね。ここはかなり振り切ってる方だと思うな。

トミヤマ:大衆酒場のメニューがネオりやすいのって、そもそもの材料費が安く済むからじゃないだろうか、という仮説をわたしは立てていて。そんなにお金を掛けなくてもすぐ試作品が作れるし、売れなかったらやめちゃえばいいし、みたいな。たとえばここが高級フレンチのお店だったら、やっぱり気軽にネオいメニューは開発できない気がする。

加藤:つまり大衆酒場はトライアンドエラーがしやすい場所だと。ということは、厨房の人たちのやる気が重要なんでしょうか。

MOBY:あと、バイトの影響もあると思う。たとえばこの「ガンダーラ古代岩塩のピザ」は、新疆ウイグル自治区から来たバイトがお土産でくれた岩塩がきっかけで……

トミヤマ:ほんとかよ(笑)!

MOBY:いや、今のは適当に言ったけど、そういうきっかけもあるかなと思って(笑)!

加藤:あ、それだったら、僕の好きなお店で、メインは鉄板焼きと洋食なのに、ランチにスリランカ・カレーを出すっていうお店があるんですけど、昼のカレーは、スリランカ人店員が作った賄いがきっかけだとカレーマニアたちの間では言われていて。

トミヤマ:でも、たとえ外国人が働いていて、美味しいものを教えてくれても、お店のカラーに合わないからって出さないお店もあるわけだよね。その点、大衆酒場ってお店のカラーとかそこまで気にしないよね。「おっ! 美味しいね! いいねいいね!」っていうノリ、あるよね。

MOBY:うん。大衆酒場って全体的に「雑多でOK」っていう感じがある。旨けりゃなんでもいいっていうか(笑)。お酒に合うことと、価格に見合う味であること、その条件を満たしていればいいんだよね。僕の好きな岡山の酒場で、バイトで入ったスリランカ人が店長になってるっていうお店があって。

トミヤマ:すごい! のぼりつめたね!

MOBY:すごいのよ。しかもその店長が新しく雇ったアルバイトはベトナム人っていう(笑)。元々はふつうの日本の酒場で、ラーメンも売りにしてたのね。ラーメンはいまでもスリランカ人店長がちゃんと味を受け継いで作ってるんだけど、サイドメニューにスリランカ料理があって、それも旨いというごちゃごちゃっぷり(笑)。

加藤:やっぱり料理人の柔軟性がポイントですかね。

MOBY:そう、好き勝手やっちゃうんだろうね。でも、異文化を受け入れごちゃ混ぜにしてしまうこと自体は、美しいことだよね。排除しないってことがさ。

トミヤマ:それはわたしもそう思う。大衆酒場は「和」のフリをしてるけど、実は和洋中どれを出してもいいじゃない? ちょっと変わったメニューがあっても、お客さんに怒られるわけじゃないし。それがネオさを生み出す土壌。だからネオ日本食って好きなんだよな、寛容さがあるもんね。

加藤:「コレちょっと変わってるね〜」ぐらいで済みそうですよね?

トミヤマ:うん。それとさ、気に入ってるお店には何度も通うからさ、同じメニューしかないお店よりは、ときどき変なメニューが紛れ込んでくるお店の方が楽しいよね。わたしもレギュラーメニューではない、「今日のオススメ」の黒板とか見るの好きだもんな。

MOBY:同じメニューを作り続けていて素晴らしいなあと思うお店もあるけど、ちょっとずつ変わっていくところが好きだなあというお店もあるよね。そして当然だけど、後者の方がネオりやすい。

トミヤマ:変わっていくってことは、当然消えていくメニューもあるわけじゃない? たとえばさ、この「たこ焼きグラタン」だって、消えてておかしくないよね? 食べたら美味しいし、ここに来るとかなりの確率で頼んじゃってるけど、他のお店では見かけないし、わざわざたこ焼きをグラタンにして食べたい! っていう人も、そんなにたくさんいるとは思えない(笑)。でも酔の助では生き残ってる。それが面白いなと思うんだよね。

加藤:「古代岩塩のピザ」も大衆酒場っぽくないメニューですけど、これなんでわざわざ「ガンダーラ」ってつけてるんですかね?

MOBY:いや、だからそれは新疆ウイグル自治区から来たバイトが……

トミヤマ:まだ言ってる(笑)

MOBY:まあ「いわゆるイタリアンのピザじゃないですよ」っていう意味だよね。酔の助にはこれのほかに「若鶏の照り焼きピザ」っていうのがあるけど、照り焼き自体が日本の調理法だから、これまたイタリアンのピザではないし。そういう「ひとひねり」があるのが酔の助の楽しいところだよね。

加藤:こういうお店って、ずっとメニュー開発していかなきゃいけないんですかね……大変だなあ。

トミヤマ:ずっと、っていうのはさすがにキツいよね。たぶん「かつてネオらせるのが大好きな伝説の料理人がいて」って感じじゃないかな。出版の世界でも「○○さんが編集部にいたとき、すごい本がいっぱい出た」という話を聞いたりするじゃない?

加藤:安原顯がいた頃の『マリ・クレール』は文芸誌とか思想誌みたいですごく面白かった、とか、そういう話ですよね。

MOBY:そういうヤスケン的な料理人が酒場の厨房にひとりいると、一気にネオるわけだよ、メニューが。そして後輩たちがその味を守っていると、またしばらくしてすごい人が現れるっていうことの繰り返しなんじゃないかな。

トミヤマ:この連載では、「梅花亭」というお菓子屋さんの初代が「亜墨利加饅頭」っていうネオいお菓子を作ったと思ったら、六代目が「佛蘭西饅頭」を作った、というのがあったけど、それなんてまさにそのパターンだよね。

MOBY:そしてお客さんが旨いと思ったメニューだけが生き残っていくと。それにしても酔の助は、ネオらせることに貪欲だよね。「風」がついてるメニューがいっぱいあることからも、それがよくわかるよ。

トミヤマ:「つぶ貝のエスカルゴ風」もそうだし、「和風ガーリックポテト」「若鶏の北京ダック風」とか、とにかく風を吹かせがち(笑)。

MOBY:でもコレ(と言いながらエスカルゴ風を食べて)……うん、「風」なだけあってちょっと適当だけど旨い(笑)! これでいいんだよね! あとさ、居酒屋にこういうメニューあると、ちょっとご馳走食べてる感じになる(笑)。

トミヤマ:なんかテンション上がるよね。

MOBY:この「北京ダック風」も旨いよ。鶏はなぜか唐揚げだけど、ほかの具材はなるべく本物に近づけようという意志を感じる。

トミヤマ:こういうのがチェーン店にはない、大衆酒場の楽しみだよね。カオスですよ、カオス!

MOBY:そうだね。チェーン店でもB級グルメをメニューに入れたり、っていうことはやってるけど、やっぱり大衆酒場ならではの、思いきりのいいネオらせ方はなかなかできない。かなわないよ。

……次回に続く。

オカモト”MOBY”タクヤ

4人組ファンクバンド、SCOOBIE DOのドラマー兼マネージャー。「LIVE CHAMP」として知られるバンドは今年結成22年目を迎えた。野球、アメリカ横断ウルトラクイズ、香港、そして大衆酒場をこよなく愛しており、FMおだわら「NO BASEBALL, NO LIFE」のMCを担当するほか、AbemaTIMESで「大衆酒場大学」を連載中。香港政府観光局認定の「香港マイスター」や、MLBの野球解説者といった肩書きも持っている。ちなみに、妻のトミヤマとは2014年に結婚した。

酔の助



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