トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」24

今日はネオい中華料理縛り――三軒茶屋「餃子の王将」

 中華料理のネオりっぷりについては、もはや説明するまでもないような気がする。ご存じない方のためにいちおう書いておくと、そもそも「中華料理」と「中国料理」は別物。中国料理が日本で独自進化したものを、中華料理と呼んでいるのである。この段階ですでにネオっているわけだが、それだけでは飽き足らないのか、日式中華、町中華といった呼び名まであったりする……日本人、中華に対して貪欲すぎやしないか。

 しかし、中国料理がネオってしまうのは、日本に限った現象ではない。インド中華、韓国中華といった具合に、それぞれの国にそれぞれの中華料理がある。さすが中国四千年の歴史。世界中のどこかで、きょうも中華料理は順調にネオり続けている。外国映画を観ていると、白い紙の箱に入った麺類をうらぶれた男女がボソボソと食べる、みたいなシーンが出てきて、さして旨そうでもないのに妙に心惹かれる。あれなんかは典型的なアメリカ中華だ。

 で、日本寄りに思いきりローカライズされた中華を食べよう! となったとき、町中華の名店がたくさんあることは百も承知の上で、やはり「餃子の王将」から始めたいと思うわたしだ。全国展開する巨大チェーン店の中でも、ネオ日本食への寛容さは国内随一。わたしも気づけばけっこうな割合で王将に通っている。どういうわけか、食べても食べても飽きないんですよね……。

 なぜ人は王将に通ってしまうのか? その理由を、担当編集のK君は「向こうから味が来ちゃうから」と語った。人は疲れているときに味の濃いものを求めるものだが、ただ塩辛いだけではダメで、当たり前だが旨味がなくちゃいけない。でも、疲れているから自分から旨味を探しにいくのは面倒くさい。そんなときに、味の方から来てくれるのが王将のメニューなんだ、というのが、K君の弁。なるほど。確かに王将で「これは何味かな〜」とか考えたことがない。ドスンと舌のど真ん中に旨味が来る。味を探す必要、一切ナシ。

 そんなわかりやすい旨さをたたえた王将の味を改めて知るべく、三軒茶屋の王将にKくんとおかもっちゃん(夫)を呼びつけ、ネオいメニュー縛りの宴を催した。まずは「餃子」(240円+税)。中国では餃子といえば水餃子だが、この国ではなぜか餃子といえば焼き餃子が定番となっている。王将でも、水餃子の提供はしていない。

 この焼き餃子をどのように食べるかであるが、我が家では「酢+コショウ」と決まっている。たっぷりすぎるほどたっぷりのコショウにお酢をちょっと垂らし、ゆるいペースト状にする。見た目は謎の接着剤みたいでヤバいが、味は確かだ。ちなみにこれは、おかもっちゃんが、赤坂「珉珉」のおばちゃんから教わった食べ方である(珉珉も焼き餃子推しの店)。そしてK君は、大量の酢とラー油に餃子のタレを数滴落とすだけの「ほとんど酢とラー油」で食べていた。さっぱりしますよ、と言われて食べてみたら、たしかにさっぱりしている。ただただ爽やかに辛い。そして、こんな風に誰かが「俺の黄金比」で作ったタレを味見するのって、ちょっと楽しい。

 続けて注文したのは、「王将飲み」が好きな人の強い味方「ジャストサイズメニュー」の中から、「海老のチリソース」(334円+税)、「麻婆豆腐」(277円+税)、「豚キムチ」(300円+税)の3種類。おつまみにちょうど良い量で、本当に助かるんですよこれが……。

 海老チリは、料理人の陳建民(陳建一の父)が、日本で中華料理店を出す際に四川料理の「乾燒蝦仁(カンシャオシャーレン)」をアレンジしたものである。麻婆豆腐は中国にもあるが、日本に入ってくるにあたっては、これまた陳建民が豚肉や長ネギを入れるアレンジを加えたという。そして豚キムチは……そもそも中華ではない気が。キムチは韓国の食べ物なのになんで置いてあるんだろう? 韓国中華ってこと? わからない。わからないが、ネオいんだからとりあえず注文だ。

 ……どれもみんなが知っている「あの味」である。そうとしか言いようがない。馴染み深すぎてどう形容したらいいかわからないので、Kくんとおかもっちゃんに訊いたが、ふたりとも「なんか難しい」「ここら辺のメニューとはもう倦怠期だからわかんない」とか言っていた。しかし、それこそが王将のすごいところではないだろうか。誰もが知っている、塩気、酸味、そして辛さ。料理とわたしたちの間にまっすぐな道が一本あって、そこを迷うことなく進んでくる感じ。死ぬほど旨いというのとは、ちょっと違うのかも知れないが、とにかくちゃんと旨い。ビールにも合う、ごはんにも合う、大人も子どもも、みんな大好き。これぞ「究極の中庸」である。

 そして最後に注文したのが「天津飯」。天津飯もまた、日本で独自開発されたメニューである。かに玉こと芙蓉蛋(ふようたん)は本場にもあるが、それをご飯に乗っけたり、水溶き片栗粉でつくったあんをかけたり、というのは完全に日本オリジナルだ。王将の天津飯は、タレの味が「甘酢・塩・京風」から選べて、しかもジャストサイズ(267円+税)があったので、全種類食べ比べてみることにした。

 またしても究極の中庸すぎて味の説明ができなかったらどうしようと思ったが、それは杞憂に終わった。まず甘酢ダレであるが、これは「後味がオムライスと一緒」である。みんな中華料理だと思って食べているが、あんの味つけにトマトケチャップを使っているため、構造的には限りなくオムライスに近い(Kくんがなかば呆然としながら「天津飯ってオムライスだったんだ……」と言っていた)。そして京風ダレは「後味が揚げ出し豆腐と一緒」。食べているあいだじゅう「なんかこの味食べたことあるぞ、なんだろう」と言いながら食べたが、結論としては揚げ出し豆腐である。恐らく、「塩気ととろみと生姜のバランス」が揚げ出し豆腐を思い起こさせるのだろう。そして塩味であるが、これは「塩味としか言いようがないな〜」「何にもたとえようがないな〜」となってしまったが、決して不味いわけではない。むしろたいへんさっぱりとしていてわたしは好きだ。なにかこってりとしたメニューと組み合わせて食べたい。

 この中でどれが一番好きかと訊かれたら、わたしは京風ダレだ。甘酢も塩も捨てがたいが、やはり天津にないのに天津飯、中華料理なのに京風であるという、ネオらせの複雑さに敬意を表したい。餃子の王将は、なんだってこんなにネオらせるのだろう。いやー参った参った。ごちそうさまでした。

(追伸)隔週連載で突っ走ってきた「ネオ日本食ノート」ですが、書籍化に向け準備を進めるため、年明けからは月1ペースでの更新となります。書き下ろしも加え、たいへん愉快かつお腹の減る本にしようと思っておりますので、引き続き応援のほどよろしくお願い申し上げます!

餃子の王将
三軒茶屋店・地図:〒154-0004 東京都世田谷区太子堂4丁目22−15

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