トミヤマユキコ「ネオ日本食ノート」⑧

シベリアとたぬきケーキの破壊力——西武柳沢「サン・ローザ」

 シベリアは、カステラで羊羹をサンドした菓子である。カステラ自体が、室町時代にポルトガルから伝えられ、日本で独自進化を遂げたネオ日本食であり、それをつかって日本の菓子である羊羹をサンドしよう、というのだから大変だ。構造がネオすぎる。

 しかし同時に、「サンドするだけだからな〜」、と若干シベリアのことを低く見ていたところもあった。ところが、調べてみたらシベリアはカステラの上に羊羹のタネを流し入れ、その上からまたカステラを敷いて、冷やし固めるのだという。だから、あんなにもカステラと羊羹がぴったりくっついているのか! 見た目のシンプルさとは裏腹に、けっこう手の込んだ菓子、それがシベリアである。

 そんなシベリアの人気は、近年低迷の一途をたどっていたが、スタジオジブリ『風立ちぬ』効果で、ふたたび息を吹き返したらしい。言われてみれば、それまでパン屋や大きめのスーパーでたまに見かける程度だったあいつが、いまは何食わぬ顔でコンビニにいたりする。みんなが忘れかけていたシベリアの美味しさを、スタジオジブリが思い出させてくれたというわけだ。廃れかけたネオ日本食を復活させたという意味でも、ジブリは偉大である。手を合わせて拝みたい。

 今回わたしが向かったのは、西武新宿線の西武柳沢駅近くにある「サン・ローザ」。いまやコンビニにも置いてあるシベリアを西武柳沢まで買いに出かけたのは、ここのシベリアがどうやら『風立ちぬ』のモデルらしい、ということもあったのだが(参考:「『風立ちぬ』に登場したお菓子シベリア! ジブリはこの店のシベリアを参考にして描いたらしい」http://main-dish.com/2014/08/02/siberia/)、それよりも、ここなら同時に「たぬきケーキ」が買えてしまうという理由がでかかった。いつか食べてみたいと思っていたたぬきケーキに、ようやく会えると思うと、俄然テンションが上がる。

 ところでみなさんは、たぬきケーキのことを、どの程度ご存知だろうか。その名の通り、たぬきをかたどったケーキである。そもそも何故たぬきなのかが謎だし、全力でかわいい!という感じでもないのだが、たぬきケーキは全国各地に棲息しており、それを追い求めるマニアもいる。動物をかたどったケーキ自体は珍しくないが(かつて神保町にあった柏水堂のプードルケーキは、かわいすぎて倒れるレベル)、全国区になったという意味で、たぬきケーキはすごい。犬でも猫でもよかったような気もするが、とにかくたぬきが勝利したのである。

 スポンジ生地やロールケーキをバタークリーム(これがすでに昭和の食べ物ですよね)で塗りこめ、最後にチョコレートでコーティング。あとは、クリームやナッツを使って、目鼻をつければ完成。しっぽについては、マストではないらしく、ある店とない店がある。

 西武柳沢駅を出て、線路沿いに少し歩くと、すぐに味わい深い「サン・ローザ」の文字が見えてくる。店の前は、ちょっとした袋菓子や飴、パンなどが所狭しと並べられており、よってらっしゃい見てらっしゃい感がすごい。

 開け放してある入口から中に入ると、目の前にショウケースが。「シベリア 1コ¥100」「限定品!つぶあんシベリア 1コ¥100-」……風立ちぬ効果だろうか、限定品が誕生している。

 そして件のたぬきケーキだが、ここでは「タヌキさん」として販売されている(280円)。ケーキ自体が、というより、さん付けしていることがかわいい。銀色のバットの上に並べられたタヌキさんたちは、みな上目遣いでこちらを見ている。かわいいような、ちょっとこわいような感じだ。

 すぐさま帰宅し、いよいよ念願の実食である。まずはシベリアから。ふわふわのカステラは素朴な甘さで、あくまで羊羹の引き立て役に徹している。甘いもの(カステラ)×甘いもの(羊羹)だから、もっと凶暴な食べ物だと思っていたけれど、ぜんぜんそんなことはない。羊羹もしっとりしていて美味しい。ただ、サン・ローザが洋菓子屋であることを考えると、うまい羊羹が作れるってなんだか変な気がするけど。ちなみに、ここのシベリアは、冷蔵庫で冷やして食べると、旨味が増す。牛乳と一緒に食べると最高である、と個人的には思う。

 そして、一匹だけ連れ帰ってきたタヌキさんだが、やぁ君、実に味わい深い顔をしてるね、と言いたくなるビジュアルである。たぶん目の位置に対して、耳(スライスアーモンド)の位置が後ろ過ぎるように思うのだが、そんなことを言うと、タヌキさんに失礼なので、もう黙る。

 そしてタヌキさんの味であるが、これはうまい/まずいではなく、「懐かしの味」だと言わせて欲しい。コーヒー味のスポンジに絡まる、バタークリームの濃厚な味わい。そこにあいの手を入れてくるチョコレート。その全体が「パティスリー」とか「ブーランジェリー」みたいなところで作られているケーキとはまるで違っていて、でも、それでいいんだと思わせる。タヌキさんは決して繊細なケーキではない、でも、これはこういうものなんだという、強烈な説得力に押されて食べ進む感じは、決して悪くない。編集のKくんも言っていた。「オシャレで本格的なものばかりの世界を想像すると、テンションあがりませんね」と……確かにそうかも。

 タヌキさんのインパクト(というか破壊力)が強すぎて、ついシベリアの話がお留守になったが、カステラで羊羹をサンドするというのも、よく考えるとかなりエキセントリックな発明である。にも関わらず、シベリアはわたしたちの暮らしにひっそりと居場所を確保している(これだけパティスリー的なものがもてはやされている時代にもかかわらず)。粘り腰のネオ日本食。よく考えると変なんだけど、おいしくて、なんだかほっとする味。これからも西武柳沢の片隅で、あるいは日本のどこかで、きっちり三等分されたあの端正な切り口をわたしたちに見せ続けて欲しい。

サン・ローザ
https://tabelog.com/tokyo/A1328/A132801/13167193/

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