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『もういちど生まれる』

 今年の春休み中、地元の友人が一人就職するということで、友達何人かで焼肉を食べに行くことになった。
夕飯を食うだけかと思っていたら昼前に友人が車で迎えに来て、昼飯を食い、車で1時間以上かかるショッピングモールに行き、焼肉屋に着いたのは18時すぎくらいだった。
この日の発起人が運転手をしていたため、そいつはお酒を飲まなかった。(当たり前)
各々の実家から徒歩で行けなくもないくらいの距離の焼肉屋でみんなで酒を飲むのが一番良かったはずなのに、時短営業の影響でショッピングモールからの帰り道で寄らざるを得なくなりました。

焼肉も美味かったし、ショッピングモールもいい感じに広くて徘徊のしがいがあった。就職する友人とも会えた。ただ、「今日は10時間くらい拘束されたなぁ」という妙なもやもやが残った。
夕方くらいからみんなでダラダラ喋りながら歩いて焼肉屋に行くんだとばかり思っていたからなんか損をしたような気分になった。

 行ったことを心のどこかで後悔してしまっている自分がいるような気がした。




 朝井リョウさんの『もういちど生まれる』という小説を読み終わった。読み終わった時に変なしこりが残らない青々とした物語で、すごく良かった。今後「おすすめの本とかある?」と聞かれることがあったらこの本をおすすめしようと思う。個人的には、人物相関図を描きながら読むのをおすすめします。

 この本を買ったのはつい数ヶ月前、友人らとショッピングモールに行った時。そのショッピングモールは複雑な形をしていて、とても一筆書きで全体を回ることはできない形をしていた。ただ、わざわざ1時間以上車に揺られて行く価値のあるいい場所だった。
 車を運転してくれた友人は、モールに入っていた無印良品で買いたいものがあるらしかった。結構な時間その友人が買うものを吟味していて、買うつもりのないカレーや半生菓子、アカシアのお皿を眺めるのにも飽きた。
友人の吟味を待つ間に店内をうろちょろしていたら、隣接されている書店と店の中が繋がっていることがわかった。一応どちらのお店のレジでも会計ができる様子だった。無印良品のレジ前に、何かしらのランキング上位の本や書店員おすすめの本などが並んだ島があった。友人が会計待ちの列に並んでる5分ほどの間に、その島にあった小説を手に取った。ペラペラと立ち読みし、10ページほど読み進め、この小説に心を奪われた。
 会計を済ませた友人が、満足そうな顔をしながらでかい紙袋を持って僕らのところへ来た。サッとスマホのメモに「朝井リョウ・もう一度生まれる」とメモをし、本を戻した。


 焼肉屋を出た後の車内で、『もういちど生まれる』をネットで注文した。

 それからずっと積読状態が続き、先日読み始め、あっという間に読み終わった。家に届いてすぐ読んでおけば良かった。


 『もういちど生まれる』に僕が出会えたのは、あの日、昼前から外出して10時間拘束されたおかげだ。この小説を読んだことを微塵も後悔していないし、本当に読んで良かった。だから、「あの日、昼前から10時間拘束された」ということに関して、もう後悔はしていない。この小説を読んだおかげで、数ヶ月遅れでプラスにすることができた。


 あまり気が進まない何かへ行かないといけない場合、その最中や帰り道に”遅効性”のあるものを買う(今回の場合は小説)と、「結果的には意味があったな、と思うことができる」ということを学んだ。


#278  もういちど生まれる

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