『ままならないから私とあなた』
朝井リョウさんの著書『ままならないから私とあなた』を読み終わりました。
読み終わった時に頭に浮かんだのは「アイデンティティやその人らしさは、”出来ないこと”の方に宿るのかもなぁ」という考えでした。
以下、ストーリーのとある要素について要約した文章です。
技術の進歩を受け入れる人。
技術の進歩の『都合の良い部分』だけを受け入れる人。
「昔の方が良かった」とか。
「俺たち/私たちが子供の頃なんてさぁ」とか。
雪子の言い分も分かる。
薫の「電子黒板は嫌だけど車や電車には乗る、なんて都合が良すぎる」という圧倒的な正論も分かる。
”エモい”は、記憶に紐付いている。
状況というわけではなく、それに紐づいている体験・思い出がそれらを美化して見させる。
薫が描く未来は、新技術が世の中を合理的にしていき、できないことがどんどんできるようになっていく。
「ボタン1つ押すだけでイメージに沿ったイラストを描画してくれるソフト」が開発されるかもしれない。
「ボタン1つ押すだけで小説の続きを書いてくれるソフト」が開発されるかもしれない。
「ボタン1つ押すだけで出演者の特性に則したテレビ番組の企画を立案してくれるソフト」が開発されるかもしれない。
その人にしか出来ないこと。
その人でないといけないこと。
そういったもの意味や存在が、技術の進歩でどんどん薄れていくような気がする。
能力が技術力によってどんどん平されていくこの先の未来で、本当の意味での”アイデンティティやその人らしさ”はどこに宿ってくれるんだろうと考えた時に、漠然と「苦手なこと・不得意なことなのかもしれないな」と思いました。
この小説は、表題にもなっている「ままならないから私とあなた」の前に、「レンタル世界」という短編が収録されている。
レンタル”家族”やレンタル”彼女”という、レンタル〇〇が話の軸になっている。
著者は自身のエッセイ『風と共にゆとりぬ」にレンタル〇〇を利用した話をおもしろ話として書いている。
そことのギャップもあり、めちゃくちゃ喰らってしまった。
ままならないから、私、と、あなた。
#299 『ままならないから私とあなた』
#読書の秋2022
この本を読んだ後、go!go!vanillasの『アメイジングレース』という曲が頭をよぎりました。
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