浮世

 YouTubeかなんかでライブ映像を見た時、全員が思い思いに腕を振って音楽にノっている姿に感動する。そしてその感動は外出自粛などを経たことでより際立っている。
 適当にライブ会場の客のフリー素材を検索すると、両手を上げている人、ピースしている人、飛び跳ねている人、ゴンフィンガーをしている人、という具合に思い思いのリアクションが出ていて、それがライブの良さなんだろうなと僕は思う。
 目の前のパフォーマンスに没入して、心の底から純粋に楽しむのが一番良いはずなのは分かっている。あそこは「隣の人が右手上げてるから、左手を上げるのはやめよう」「自分の座席の真正面にちゃんと立ってるかな」「俺の腕を振るタイミングずれてないかな」「前の人の腕を振るタイミング、ずっと曲のリズムからちょっとずれてるな」「みんな手拍子するのやめたから俺もやめよ」なんて邪念はいらないはずの場所なのに、どうしても持ち込んでしまう。(一概に括っていいものではないのは分かっているが、アイドルのライブのペンライトは僕からすると相当怖い物に見える。)
 だから僕は「ライブには一人で行きたい」と思ってしまう。連番なんてもってのほか、友人と一緒に行くとかも気は乗らない。周り全員赤の他人の方が気が楽で、一人で行けば単純に邪念が1つなくなってくれる。

 ワクワクしている人を見るのが僕はあまり得意ではない。見てられない、に近い。プレゼントを貰って過剰なリアクションをしてる人を見ると、恥ずかしくなってくる。変な調子乗りで父親に怒られた幼少期の経験がトラウマのように思い出されてしまうから、テンションを上げるのが得意じゃない。
 ライブ会場で自分の周りに座っている数人組がワイワイと「楽しみだなぁーグッズ買っちゃったー」なんて会話をしていると、自然とイヤホンで耳を塞ぎノイズをキャンセルしたくなってしまう。自分がワクワクしてると思われ悟られるくらいなら「一人で寂しくライブに来て、ライブ会場でもずっとイヤホンをしているつまらない人」と思ってもらった方が良い。
 グッズの衣類もなるべく周りから見えないように着たいし、ラバーバンドを持っていたとしても暗くなってから腕につけたいし、電車で同じグッズを着ている人を見かけたら逃げたくなってしまう。ライブが終わり明天したら、ライブ会場から出たら、電車に乗ったら、家に着いたら、自分はあくまでよくある日常の一コマの中であるかのようにしていたい。
 何かしらで俗世から切り離された空間の奥の奥に、ワクワクしている自分は隔離しておきたい。


#331  浮世

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