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代々木公園

 都心にて就活の面接に行った時のこと。面接の出来できがどうもやるせなくて、フラフラと代々木公園に行った。何も考えず、「歩きたい」の一心で。
 公園の出入り口でギターを弾いている人がいた。平日の昼間とはいえ、たくさんの人がいた。代々木公園をとんがった革靴で歩く。足の甲が流石に痛かった。

  平日の昼過ぎにここにいる人たちは、普段は何をしてるんだろうと思い始めたら、悲しくなってきた。普段はどこかで仕事をしていて、それを就活で勝ち取った人たちなんだと思うと情けなくなってきた。自分はこんなとこで何してんだろうと情けない。とにかく情けない。
 花の写真を撮っている人がいた。ベンチに腰掛けて噴水を眺めている人がいた。レジャーシートを敷いてご飯を食べている人がいた。ランニングをしている人がいた。犬の散歩をしている人がいた。仲睦まじいカップルがいた。動画配信をしている観光客がいた。

 自分は"それ”にはなれないなと思った。

 土地柄もあり、若者が多かった。「平日のこの時間に自由に動ける高校生」という存在は、自分の性格の対極にある。でも間違いなく幸せなんだろうなと思う。楽しいんだろうなと思う。ライブ配信アプリのアドトラックを見て「フォー」と騒いでいる、おそらく高校生であろう男子二人組。あのくらいのメンタルで、高校生という時間を浪費する人生はさぞかし充実してるだろう。

 「この後ゲームしにいくから待ってて」なんていう小学生の声が、網戸を通り過ぎて聞こえてくると、「そのままの調子で満喫しといてくれよこのやろう」と思う。
 今になって思う。泳げないからプールの授業が嫌だとか、そんなことは本当にどうでもいいこと。夏休みの課題があるとかないとか、そんなことは本当にどうでもいいこと。定期試験があるかないかなんて、そんなことは本当にどうでもいいこと。
 自分が社会人にもしなれたとしたら、大学生に対しても同じように思うんだろうけど、今はそれらを満喫している人が羨ましくてたまらない。

 街で見かける彼らとの間の人生の充実度に、圧倒的な差を感じてしまう自分が心底嫌いだ。



 街をただ歩くだけで落ち込むことができる、しょうもない人生。



 代々木公園を出る。
 公園の出入り口でギターを弾いている人がいた。カバーかオリジナルかわからないが、弾き語りをしていた。
 街がうるさかったけど、ちゃんと聞こえた。「大人になっても楽しいから大丈夫だぜ」って。







 歌詞で検索してみた。代々木公園で検索したときはヒットしなかったけど、今やったらヒットした。
 どうやら、「Cats in the rocket」というインディーズバンドの「楽しいから大丈夫」という楽曲だということがわかった。ネット上に上がっていたので聞いてみたら、代々木公園で聞いた声と同じだった。
 インディーズバンド音楽配信サイトEggsに、楽曲解説が載っていた。

就活中と思われるスーツを着た学生が溜 息をついていたのを塀の上から見ていたニャ。 頑張って欲しくて、この歌が生まれたニャ。 tamaは、もう十分大人だけど、 毎日楽しくやっているニャ。














#362  代々木公園

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