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33歳自由人、サラリーマンになる。

20代に新卒で就職した会社をわずか5ヶ月でやめて、アウトサイダーな生き方を送ってきた。

仕事をやめ東京を離れ、旅にでた。すべてを手放して何も持たず無一文で京都から沖縄まで渡り歩いたり、中国を3000km徒歩横断したり、インド放浪したり、日本に戻ってきてからは自給自足と農的暮らしを営むコミュニティに居候しながらモバイルハウスという動く小さな家をつくった。そして、そのコミュニティで一緒に共同生活していた今の妻と交際ゼロ日で結婚して夫婦となり二人でモバイルハウスに乗って旅にでた矢先のこと。

旅の初っ端でまさかの横転事故に遭遇してしまい、車と家を同時に失い急遽ド田舎の限界集落に移住するも失敗。その間に子どもをさずかって大慌てで家探しして巡りあった廃屋のログハウスと土地を買い、自分でセルフリノベーションを試みるも1年で挫折して、そして33歳の誕生日に妻から離婚を告げられた。

妻に離婚を突きつけられて、ようやく自分のライフスタイルを再び選び直す決意ができた。それまでは、不幸を言い訳にして変われない自分を演じていたことに気づかされた。人生の分かれ道で、一人に戻って楽になるか、それとも家族と一緒に幸せになるのか。離婚という現実を目の当たりにして、ぼくは後者を選んだ。なかなか人は追い詰められないと変われない生き物だと思う。変わらない方が楽だし安全だし、ただ今まで通り生きればいい。たとえその生き方が辛く苦しかろうが生き方を変えるとは、つまり過去の自分と決別する(自分をいちど殺す)覚悟はなかなか簡単には持てないものだ。

20代から30代にかけて、自分は何者かになろうと必死にもがいてきた。その根底には、他者に認められたい、自分という存在を承認してほしいという承認欲が自分を突き動かす原動力となっていた。ところが、その承認欲を追えば追うほど生きるのが苦しくなっていった。自分に自信が持てず、恐れから出発した欲にはきりがなく満足を知らずに、いつも他者と自分を見比べて劣等感を抱いては自分を責めつづけた。こんな自分じゃ認められない、特別にならないと自分には存在してる価値すらないと思うほど強迫観念となって自分に襲いかかっていた。

なぜそれほどまでに、他者からの承認を求めるようになってしまったのか。原因は、母親が認めてくれないという恐怖がつくりあげた思い込みのせいだと思っていた。離婚を宣告され、この期に及んでやっと重い腰をあげて長年母親に打ち明けられず心のわだかまりとなって自分を苦しめていた"思い込み"と真っ向から対峙することにした。実家に帰り、母親とリビングのテーブルに向かい合って座り勇気を振り絞って震えながら母親に「あなたに認められなくてずっと苦しかった…」と打ち明けはじめたら話をすぐに遮られ、「いやいや知らんがな」と一蹴されてしまった。

母親には「大学までは親として面倒みたけど、それからの人生はあなたの自由。それに、わたしに認められる必要はない。あなたが幸せだと思う道を歩めばそれでいいじゃない」と至極真っ当な正論を諭されてしまった。この現実を前に、もう自分が不幸なのを親のせいにはできない。恐怖に怯え、思い込みと幻想に支配されて不幸を演じる言い訳ができなくなった。幸せになりたいなら、あとはもう自分が幸せになる勇気を持って、幸せを選ぶしかない。

愛する人生を選ぶ

自分にとって幸せであるには、家族の存在が必要不可欠だった。家族とともにハッピーに暮らすことが愛する人生の目的であり、自分にとっての幸せなのだと再認識した。愛し、自立し、自らの人生を選びとる。その道のりこそが幸福なのだとようやく分かった。

サラリーマンなんてありきたりで、特別な何者かになろうとしてた自分からすると縁がなく程遠い生き方だと思って嫌悪してきた。しかし承認欲を追い求めた結果、けっきょく自分は自分以外の何者にもなれなかった。そんな何者でもない自分にも大切な家族ができて、家族と幸せに暮らす目的のためなら手段は選びなおせばいいのだとやっと明らめられた。もう誰かに認められる必要はない。余計なプライドや、承認欲、思い込み、何者かになろうとする執着がようやく自分から剥がれ落ちて崩れさった。離婚という家族危機のピンチに今なら感謝したいとすら思う。危機は変化の促進剤だ。

普通であることを受け入れる勇気

特別じゃなくてもいい、普通の幸せを享受する。家族と幸せに暮らすという目的のために、今はサラリーマンという働き方を選んだ。廃屋ログハウスのセルフリノベーションは諦めて信頼できる大工さんにお願いすることにした。生活費と家の修繕費を工面するために、子育ては妻に任せて、父ちゃんは働くことに専念すると決めた。

新卒5ヶ月で会社をやめてろくに働かず自由人を10年謳歌してきた自分には、サラリーマンで正社員として働くなんてもう今世ぜったい無理だと決めつけていた。でも、今は家族のために、そして自分のためにもサラリーマンという働き方を選んだ自分を誇らしく思う。33歳にしてキャリアがなく社会人として会社で働いてこなかったけど、サラリーマンになる覚悟を決めて"仕事探しはIndeed"で就職先を探しはじめた。すると心配をよそに、とんとん拍子ですぐに面接が決まり、さらに面接に行った翌々日からベンチャー企業で採用してもらえることになり、9月から1ヶ月半の試用期間を経て来月から正社員として採用される見通しが立ったところだ。会社人としての経験はほぼ皆無だけど、自由奔放にやりたいことはやってきた自由人歴10年の間に培ったコミュ力と適応力を活かしてなんとか会社の仕事に食いついている。組織のなかで人と働くことの楽しさを噛みしめている。最後に、潔く自由人を会社の一員として迎え入れ、いまの会社で吸収できる限りのことを学べる機会を与えてもらったことに感謝したい。会長、ありがとうございます。


生きる実験はつづく