僕の大好きなボカロP、石風呂(=ネクライトーキー朝日)の話

僕はボカロが大好きだ。
ボカロのどこが好きか、敢えて言うならば「媚びてない」所。

高級な機材も、学問的素養も、コネも要らない。
日本のどこかで普通に暮らしてる社会人や学生が、家に籠もりたった1人で、
表現したい音楽を真っ直ぐに、不器用に、自由にネットの中に放り込む。

そんな音楽を「作る」ハードルと「見つける」ハードルを格段に下げてくれたのが、
ボーカロイドというソフトであり文化である。
そこには、愚直で生々しいからこその魅力が確かにあった。
ボカロ文化の中で生まれた名曲達は、多くの人を笑わせ、泣かせ、生きるエネルギーを与えてきた。
15年もの間発展し続け、今では音楽業界の中でもはや当たり前の存在に落ち着いていることが、何よりの証拠だろう。

勿論、歴史と共にボカロ文化は盛衰を繰り返しながらその形を絶えず変えてきた。
僕がボカロを知り、ハマり始めたのは2011〜2012年頃。中2〜中3。
その頃といえば、ヒットする曲の技術レベルがメキメキと上がり、且つ自由な遊び場的な空気も残っていた最大インフレの時期。
直後2013年頃からメジャーデビューするボカロPが大量に現れ、商業的な雰囲気が大きく流れ込み出した印象がある。
あくまで個人の印象だが、この直前の2011〜2012は1番”面白かった”時期ではないかと思う。

その頃に、界隈を席巻していたじん、kemu、トーマなどには劣るものの、
独特の作風で確かな存在感を放っていたボカロPがいた。
お笑いで言えば「テレビ露出は少ないが旧M-1の決勝に一度出た漫才師」くらいのポジションだろうか。

石風呂(敬称略で失礼します)

最大ヒット作は2011年10月投稿、「ゆるふわ樹海ガール」。
ジャンルはオルタナティヴロックと言われる、いわゆる泥臭い?感じのロックスタイルを踏襲。
当時から「コンテンポラリーな生活」というバンドでボーカルギターとしても活動しており、
それを本業とする傍らボカロPとしても活動していた、といった具合のようだ。

僕が初めて聴いた石風呂曲は「夕暮れ先生」。
忘れもしない、中学の同級生Kさんに勧めてもらったのがきっかけだった。

滑稽なのに、毒づいてて、切ない。
その両立性が、あまりにも衝撃的だった。

当時の自分は、J-POPなんてどれも綺麗すぎて自分の味方じゃないと捻くれていた。
最初にボカロは「媚びてない」所が好きだと言ったが、
それは言い換えれば、どことなく自分の味方であるような気がしていたのだ。

いじめられて育って、クラスでもうまく馴染めず、お昼休みは空き教室でオタク友達とつるんでいたような中学生活。
そんな自分と、どこか似た境遇で育ってきた人が投稿者にも視聴者にも沢山いるように(勝手に)思えていた。

石風呂の書く、リアルで毒づいて滑稽な言い回しの歌詞は、
誰かを救ってやろうみたいなあからさまな態度は微塵も見られない。
だからこそ、クスッと笑える。そして元気を貰える。
そんな歌詞を引き立たせる愉快で泥臭いロックサウンド、
そしてゆるかわなキャラクターと誤字ばかりの手書き歌詞を乗せた動画。

なんだこれ。
子供心溢れるのにNHKとかそういうのじゃない。
可愛さに毒を混ぜるとこんな化学反応が起きるのか。

そこから過去曲を漁り始めて、それからの中学生活は冗談抜きで石風呂さんに救われた。
君はいなせなガールきらいな人ロック屋さんのグダグダ毎日少年は教室がきらいだったのだ、、、
挙げていけばキリがない。

石風呂がよく使うボカロキャラに「開発コードmiki」がいる。
「開発コードmiki」、これ「初音ミク」と同じくキャラの名前なんですよ。
おそらく癖の強さ故あまり使われないのかもしれないが、
石風呂さんの曲風には見事に合う。
抜かりなくオルタナティヴ。
今思えば、そういう所も魅力だったなあ。
有名じゃないかもしれないけど、俺はmikiが1番得意だし1番好き。何か文句あるか。
聴く人に「自分らしく居ていいんだよ」と、どこか思わせてくれる要素だったかもしれない…。

石風呂さんは今、売れ始めている。
5年前に結成したバンド「ネクライトーキー」がバンバン再生を伸ばしており、
2年前には初のアニメ主題歌も担当した。

本人の活動を始めるとボカロとの繋がりを絶ってしまうアーティストも多いが、
僕はネクライトーキーが売れてきていると知っても全く寂しくはならなかった。

まずバンド名の「ネクラ」という言葉、
これは石風呂さんのボカロアルバムとその表題曲「ティーンエイジ・ネクラポップ」でも使われていたもので、
コンセプトは何も変わっていないのだな、と心から安心できた。

バンドでも石風呂名義のボカロ曲のカバーを度々演奏しており、
3年前には昔のボカロ曲のみからなるセルフカバーアルバム「MEMORIES」をリリースしている。
夕暮れ先生もゆるふわ樹海ガールも当時と変わらない雰囲気で収録されており、大歓喜であった。
勿論技術は格段に上がっている。

石風呂さんはボカロを捨てていない。
というより、彼の軸はずっと変わっていないのだ。

そして来月、待望の「MEMORIES2」リリース。
待望しすぎて収録曲のボカロ版をずっと聴き返している。

石風呂さんをこれからもずっと好きでいるかどうか、未来のことは分からない。
しかし、中3の頃から今まで10年間、僕の1番好きなボカロP、いや僕の1番好きな音楽アーティストは石風呂さんであり続けた。
自分の人生の中で外せない要素となることは、間違い無いと思う。


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