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プログレの生産性(プログレッシヴ・エッセイ 第10回)

「プログレッシヴ・ロック」はアンビバレントなジャンルだ。本来、プログレス(進歩・前進)しなければプログレではないのだが、実際にはプログレスしてしまうとプログレという音楽ジャンルではなくなる。

同様なジレンマを抱えるジャンルに現代音楽がある。20世紀にとっての「現代」的手法を用いるジャンルだが、今はもはや21世紀。

ハード・ロック(硬い)、ヘヴィ・メタル(重い)など、音そのものを形容するのではなく、プログレも現代音楽も時間を軸とした形容詞である。よって時を経るに従い意味が形骸化していくのは避けられない。


金属恵比須はプログレ・バンドだが、プログレスしていない音楽である。1970年代のころに進歩的だった手法を取り入れているので当然だ。「レトロ・フューチャー」の感覚と近いかもしれない。「プログレッシヴ」とは真逆の「ノスタルジック」という言葉がしっくりくるかも。
時間の矢は常に未来へ進んで過去は堆積していく。クラシックやノスタルジックなど、時間軸の形容詞だが、未来と逆に行く言葉は便利かもしれない。

実際、使用している楽器も古いものが多い。世界最初のコンパクト・シンセサイザーである「ミニモーグ」を多用しているが、こちらの発売開始は1970年だ。



54年前の技術だから、和音が出せず、単音しか鳴らせない。外見はツマミとスイッチばかりで宇宙船のコックピットのようだ。まさにSF世界のレトロ・フューチャー。


なお、楽譜もノートに手書きで採譜ソフトを使用しない。何ならこの原稿も縦書きノートに下書きしている。

日本経済新聞でこのような記事があった。

「日本の設備、進まぬ更新」
「古さ、G7で下から2番目」
「生産性向上へ『若返り』必須」

日本企業の設備の「平均年齢」は11.8年(2019年)で、積極的な設備投資に踏み切れない状況。

「最新設備で生産性を高められるかが成長のカギを握っている」という言葉で締められた記事。50年以上前の楽器を積極的に導入しているバンドは、結論、生産性が悪いのだ。

ちなみにG7の最下位は、13.3年のイタリアだそうだ。

日本もイタリアもプログレ大国じゃん。

プログレは進歩も成長もしていないのだ。

【参考資料】
日本経済新聞 2024年3月15日 5面

     ※

雑誌『モノ・マガジン』にて連載中の「狂気の楽器塾」。
2024年3月15日発売号は、
「トンガってるギター グレコ Mシリーズ登場!」
と題して、グレコの最新ギターを試し弾きレポート。グレコ・オフィシャル・ユーザーとしての矜持を見せました。書店・コンビニにて発売中。


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