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心にチャッカマンを灯された日

25歳の時に結婚を考えた彼女が居ました
僕は横浜とは言え中心部から少し離れたアーケードがある街の美容室で働いていたどこにでも居る普通の美容師さんでした

初めて一人暮らしでのアパート生活が始まってから縁があってお付き合いが始まった彼女との日々は青春そのものでした
週末に彼女が泊まりに来て食事を作ってくれ翌日は色々な場所にデートに出掛け沢山の思い出が作れました
最初は応援してくれていた彼女の母親がまだ若く経済力も
無い私が結婚の言葉を表に出し始めた頃からある事を画策しました。それは彼女をアメリカに留学させる事でした。
彼女自身も半ば強引な私のペースには心のどこかで大きな葛藤をしていたんだと思います

ある時に彼女が突然泣き出して「私が居なくなったらどうする」と言いました
何が何だか分からずに「なぜ急にそんな事を言うの」と聞いても泣きじゃくるだけでした
そして、部屋を出て駅に向かって駆け出した彼女
名前を呼び追いかけるけれど、ショックで足に力が全く入らず追えない
彼女は横浜線の駅舎に吸い込まれホームへと消えました

共通の友人も居なかったので、助けを求める様に彼女の実家に電話を入れ、母親に理由を聞くと彼女はこう言った
「カズくん、知らなかったの優子はアメリカに留学するの
今日はお別れを伝えに行ったのよ」と
私はついこう言ってしまった「本気で彼女と結婚したいと考えていて、将来は一緒にお店を出したいんです」と
それに対し母親がこう言った
「カズくん、あなたは馬鹿じゃ無いけどただの美容師でしょ!あの子との結婚なんて無理よ」と
心をえぐる言葉、でも本当にその通りだったから何も言えなかった
「これまでありがとうございました、分かりました」と言うのが精一杯だった
電話を切り電話ボックスから出た後の事はよく覚えていなかったが、
気がつくと私は横浜駅の東海道線のホームに居ました
来る電車、来る電車、発車する電車を何本も見送り
呆然とする空虚な時間が過ぎ去りました
この東海道線に乗れば彼女の住む藤沢に行ける
でも、行ったところできっと会ってはくれまい

この日を境に決めた事が出来た、絶対に独立してBMWに乗り付けて彼女の家のブザーを押すのだと





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