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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』 (32)兄と妹、禁断の死闘。

更新は来週の予定でしたが時間が出来たので更新します。

“ 堂島兄妹による禁断のシュートマッチを仕組んだのはNOZOMIである。血を分けた兄と妹に真剣勝負させるなんて、、、なんて残酷なことを考えるのだろうか… ”

世間からはそんな声(批判)が少なからずあるのは知っていた。それでもNOZOMIはそれしか選択肢がないのだと思う。
あの兄妹の素質は認めていたが、まさかここまで上り詰めてくるとは、、、どちらか一方でも私(NOZOMI)の領域まで上がってくることを期待してはいたが、二人揃って信じられない成長を遂げてきたのだ。

もう、無視は出来ない。

それでも、二人両方の挑戦を受ける訳にはいかない。あの子達の父(源太郎)と私との死闘はそんな簡単なものではなかった。
兄が敗れたから妹が、妹が敗れたから兄がなんて、、、そんな甘いものではない。源太郎さんは人生全てを私との一戦にかけていた。兄と妹、挑戦者として相応しい方と私は戦う。それも一回っきりだ。しかし、あの兄妹は実力も実績も甲乙つけ難い。

 “実際に戦わせて、勝ち上がってきた方と私は戦う。どちらが挑戦者になっても、兄妹二人分の思いを背負って私にぶつかってきてほしい。それが私とあの兄妹の宿命”

妹の麻美から挑戦を受けた龍太は思い悩んでいた。父からは「男の拳は家族を守るためにある。龍太は男の子だから、お母さんと麻美を守ってやらないとな!」と、言われ続けてきた。龍太は家族思いなのだ。
そんな龍太が可愛い妹を殴ることなんて出来るのだろうか? 妹の挑戦を受けリングに上がるということは相当な覚悟が必要だ。
龍太は頭を抱えた。

そんな龍太の性格を母は知っていた。
” 龍太は麻美を殴ることなんて出来ない“
二人の母である佐知子は、兄が妹に挑戦権を譲ることを期待していた。麻美は言い出したら絶対聞かない娘。例え相手が兄であっても非情に徹するだろう。

思い悩んだ末  “これは宿命!” と、龍太は麻美の挑戦を受ける決心をした。

苦悩する母を見ていられない龍太は、家を出て大学柔道部の合宿所で年末の麻美戦に備え猛特訓を開始。いつもの格闘技戦前は今井、岩崎両トレーナーに指導を受けていたのだが、麻美が相手ではそういう訳にはいかない。今井は麻美の継父でもある。

佐知子は腹を括った。
そして、息子龍太、娘麻美を呼び出す。

「もう、お母さんも覚悟した。どっちが勝っても負けても後腐れなく思う存分やってきなさい! 但し、負けた方は格闘技を辞めて。これ以上心配したくないから、それでも続けるなら親子の縁を切るわよ」

龍太も麻美も神妙に聞き入る。

「龍太、変な意味に取らないでほしいんだけど、、仮にお前が負けたとしても長男であることに変わりはないの。恥じることなく堂々としていなさい! 麻美も例え勝ったとしてもお兄ちゃんはお兄ちゃんなの。尊敬の心は失わず、見下すようなことしたらお母さん許さないわよ…」

そして、最後に佐知子は「試合が終わったら、ふたりとも仲良く真っ直ぐ帰ってきなさい。お正月は皆でお節料理をつまみながら楽しくお喋りしようね。約束ね」

内心佐知子は兄である龍太に勝ってほしいと願っている。龍太は男だから仕方ない。麻美は女の子なのだから格闘技から身を引いてほしいのが正直なところ。しかし龍太は麻美を本気になって殴り締め上げその関節を破壊するなんてことは出来やしない。そんなことは分かっている
それに比べ麻美は一切の手加減はしない。
血の分けた兄相手でも勝つためなら非情に徹し殺すことさえ厭わない性格。

女、否、、母のカンなのか?
佐知子はこの勝負、龍太は麻美に負けてしまうような気がしてならない。そうなったなら男としての、兄としてのプライドはズタズタになるだろう。いくら ”負けても恥じることなく兄として堂々としていなさい!” と言い聞かせてもそんなものではないだろう。龍太のその後の人生に大きく影響するかもしれない。それでも、ふたりとも大きなケガなく無事に帰ってくることだけを願う母の愛であった。


兄 堂島龍太は21才の大学3年、妹 ASAMIこと堂島麻美は18才高校3年生。
試合前の計量では、龍太177.2cm 69.5kg
麻美174.5cm 62.5㎏
試合は何でもありの総合ルール。
5分×3Rで延長は最大で5Rまで行なわれる。
70以下級龍太と、65以下級麻美とでは体重差が7㎏もある。それでも麻美は無差別として戦いたいと申し入れ実現。この前の試合でも麻美は7㎏重い酒井篤をKOしている。

母佐知子は今井と共にリングサイドに招かれていたが、愛する息子と娘の死闘を目の前で観ることは出来ない。今井だけが観に来ていた。佐知子は正月のお節料理作りで気を紛らわせながら自宅テレビ観戦。

麻美はなんとミニスカート姿で入場するとリングイン。ブラックのハーフパンツ姿で既に戦闘体勢にある兄と、ミニスカート姿の妹がリングで睨み合うと場内が異様な雰囲気に包まれた。冷静で冷酷な麻美であっても相手は実の兄でありその緊張感は隠せない。麻美がミニスカートを脱ぎ捨てた。真紅の生地に豹柄のスポーツビキニ。

麻美の眼光が鋭くなった。女豹という魔物が降りてきたのか? それは堂島麻美の内部に取り憑き『女豹ASAMI』となった。
龍太は妹の鋭い眼光を見て “これが兄に向ける目なのか?” と、ゾッとした。これは男を食い殺しに来た女豹の目ではないか、、、。

母はリング上のふたりを見て、龍太は相当な特訓をしてきたのか?身体付きが変わり精悍になったのを感じたが、どこか妹と戦うことへの戸惑いの表情が見える。
それに比べ、麻美に一切の情を感じない。あの娘は兄の胸を借りようなんて甘い考えでリングに上がっていない。そこにあるのは “殺るかやられるか” の殺意?

佐知子は不吉な予感がした。
そして、兄と妹の禁断のゴングが鳴った。

この試合の模様は本編に詳しく。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』(63)お兄ちゃんを超えます。
〜 (67)早くお母さんのところへ帰ろう。
にありますので、そちらで読んでいただければ嬉しく思います。


結果は? 母 佐知子の「不吉な予感」が不幸にも当ってしまうのだった。

最後、妹は兄を肩に担ぎ上げると兄は天井を向く格好になった。妹はそのまま危険な角度で兄を頭からマットに叩きつけた。
この形はプロレスで云うところのパワーボムの変形を想像してみて下さい。
プロレスでのそれは、仕掛ける方も受ける方もお互い暗黙の了解で受け身が取れる形になるものだが、シュートマッチでのそれは仕留めるためのもので、受け身なんか取らせない。「形」がないだけに極めて危険であると思われる。

動かない兄、妹は兄の異変を感じた。
テレビの前で悲鳴を上げる母 佐知子。

堂島龍太は妹麻美に敗れたのである。

会場の片隅には、龍太の子を宿していた天海瞳の姿があった。

試合内容には深く触れませんが(本編を読んで下さい)、何故、兄 龍太は妹 麻美に敗れたのか? 次回ではそれを検証してみたいと思っています。

そして、本編ではあまり触れなかった植松拓哉 vs NOZOMIのことはもう少し詳しく。

そろそろ『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』も終わりに近づいてきました。
その後の、雌蛇の、女豹の、遺伝子たちのことも少し書く予定です。

つづく。









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