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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』(3)残酷な雌蛇のテーゼ。

まるで、東京ガールズコレクションを思わせるような入場パフォーマンス。
セーラー服姿のNOZOMIは、コーナーポストから鮮やかに宙で一回転するとリングに舞い降りた。その両手にはオープンフィンガーグローブがはめられている。セーラー服でのそれは異様である。

” この女の子は、これで本気で俺を殴り倒すつもりでいるのか? “

NOZOMIのセコンドに入ったのは、これもセーラー服姿の少女ふたり。そして、ふたりの少女がサッとNOZOMIのセーラー服を脱衣させると、なんと、その下はスポーツビキニでありその素材は蛇革なのだ。
(リング衣装の形状は、女子ビーチバレーの水着を想像下さい。素材は蛇革)
その17才とは思えないセクシーさに、堂島は今更ながら女子と戦うことの違和感で落ち着かない気分になる。
(最初の方で、この物語は極力エロ的な部分を排除したと書きましたが、それは戦いの場においてという意味でご容赦下さい)

堂島は雌蛇と形容されるNOZOMIの魔女的強さを噂で知っていた。テイクダウンを奪われ寝技から密着されたなら、関節を破壊されるか絞め落とされるだろう。
そうであっても、堂島は35年人生の大半を格闘技に捧げてきた男。格闘技こそ人生でありそれが生きる支えだった。そんな自分が、まだ高校生の女の子に負けるなんて事態になったなら、、、。

堂島源太郎は急に怖くなった。

リング上でNOZOMIと相対すると、こんな女の子に負けてしまったなら、、借金は返せるかもしれないが、格闘技に命を懸けてきた男としての誇りは失われ生き恥を晒すことになるのだ。そんな屈辱、恥辱の中で、その後の人生やっていけるのだろうか?

もうすぐゴングは鳴る。

堂島源太郎はレフェリーからチェックを受けている間も足が震え、この場から恥も外聞もなく逃げ出してしまおうか?と弱気になる。そんな彼をNOZOMIは睨み付ける。

その時だった。

「パパ! 頑張ってぇ〜!」

リング下から娘の絶叫が聞こえてきた。
我に返った堂島が目を向けると、娘の麻美が目に涙をため父に声援を送っている。
麻美はモデルNOZOMIに憧れており、父である自分とNOZOMIのどっちを応援しているのか?と思うこともあった。
“ やはり、麻美は俺の娘だ…”
娘の声援に堂島源太郎は覚悟が決まった。
俺は男だ! キックボクサーとして10年以上も飯を食ってきた。そんな俺が何をビクビクしている。こんな高校生の女の子に負けるわけないじゃないか!

堂島源太郎は鬼になった。
目の前にいる敵を女の子だと思わず、只、ぶっ倒すことだけに集中する。
そして、禁断の男女シュートマッチのゴングが大歓声の中打ち鳴らされた。

この試合の模様、詳細は?『雌蛇の罠』(11)ゴングは鳴った! 〜 (17)決着! 迄を読んで頂ければ嬉しく思います。


結末の部分だけ抜粋します。

堂島の身体はNOZOMIの長い腕に首を巻かれ抱え上げられたまま全身の力が抜け両手をダラーンと下げ、膝も抜けた状態なので宙に浮いている。
長身のNOZOMIによる、これは完全なる宙吊り公開絞首刑である。 
それを見たレフェリーが手を振るのとセコンドがタオルを投げるのは同時だった。NOZOMIが腕を離し堂島の身体を解放すると、堂島は前のめりにドオっとうつ伏せに倒れた。

うおおおおおおお!!!

場内はこの衝撃的な結末に歓声とも悲鳴ともつかない騒然としたムードに包まれた。
( 雌蛇の罠(17)決着! より抜粋)

なんという残酷な結末でしょうか?

この衝撃的な結末に、場内は歓声でも悲鳴でもなく騒然としたムードに包まれる。
それはそうですよね?  かつて日本王者にまでなった男子キックボクサーが、セーラー服で入場してきた高校2年の少女に絞め落とされ失神しているのですから、、誰もが目の前で起こった光景が信じられない。
そんな観客、全国生中継での視聴者以上に自分の目を疑ったのは堂島の家族。
目の前で自分の夫が、父が、17才の女の子の腕の中で失神したのだから、、、。こんな残酷な結末は、自分で書いていながらもやり過ぎではないか?と思った程です。

物語の中では描写しませんでしたが、レフェリーが手を振り、セコンドがタオルを投げ堂島の身体がNOZOMIの腕から解放、前のめりにドオっと倒れた瞬間は…。
きっと、妻の佐知子は両手で顔を覆いリング上で倒れている夫を凝視している。娘の麻美は立ち上がり「パパぁ〜!」と泣き叫んでいる。息子の龍太はリングから目を逸らし、膝の上で拳を握りしめ悔し涙を流していたことでしょうね?

最初の方でも書いた通り、このNOZOMIと堂島源太郎の試合は徹底した真剣勝負に拘りました。飛んだり跳ねたりの派手なプロレス的攻防や、相手の協力なくして決まるはずのない派手な技はありません。そうなるとリアリティに欠けますからね。
ガチンコでの試合は大抵の場合、地味な殴打や蹴撃、又は関節技、絞め技で決着が尽く? そこに至る過程でタックルや投げ技等のテイクダウン技術が大切ではないかと思うのですが、私はSMプレイ(笑)でしか格闘技経験がなく違ってたらごめんなさい。
この戦いは、ミックスファイト物にありがちな、「ほうら、もう終わり?かかってきなさいよ!」「男なのにだらしないのね、、」なんていう、女子選手が男子選手を挑発し、からかうような場面は絶対に書きたくなかった。お互い相手をリスペクトしており、人生をかけた真剣勝負だからです。

堂島源太郎は女子高生格闘家NOZOMIに屈辱の失神KO負けを喫した。そして、意識を取り戻すことなくあの世に旅立った。
(KOとは打撃によるものを指すのですが、敢えてここではKOと表現しました)
私は堂島本人だけではなく、家族にとってもこんな屈辱的で残酷な結末だけで終わらせてしまうには忍びない。それが、次作『女豹の恩讐』に繋がるのです。

『雌蛇の罠』堂島源太郎vsNOZOMIの回顧は次回もう一回だけ続ける予定です。
それから、『女豹の恩讐』に移ります。
そこでNOZOMIが堂島の次にターゲットとするのはダン嶋原と村椿和樹。

次回に続きます。



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