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『雌蛇の罠&女豹の恩讐を振り返る』(9)格闘技、ジェンダー・レス時代到来か?

キック界の超天才ダン嶋原は10年に一人、否、同階級ならば史上最強との声もある超逸材である。そんな彼が敗れることは大波乱であり、ましてや、その相手がまだ二十歳の女子なのだから、、格闘技史上最大のジャイアントキリング。これは驚天動地の大事件といっても過言ではないだろう。

「嶋原までやられたのか? 誰かあの女を倒してやろうって奴はいないのか!?」

キックボクシングの名誉を傷つけられた協会上層部から檄が飛んだ。しかし、それは無理というもの。あの、嶋原、村椿というキック界の二大スーパースターでさえ惨敗したのだ。立ち上がる男などいない。

最強キックボクサー2人が女に倒された。
キックボクシングという格闘技の存在意義も問われたが、キックボクシングとて、ボクシング、ムエタイ、空手等から派生したものであり、柔術が主体のNOZOMIであるといっても、かなりのムエタイの使い手でもあることが嶋原、村椿戦で判明した。
同種の立ち技系打撃格闘技に敗れたのであって、決してキックボクシングの価値を下げるものではないだろう。

それよりも…。
その格闘技における最強の男が女にシュートマッチの末に敗れた。男が女に負けてしまった事実の方が問題になった。

“ 格闘技は、男は女より圧倒的に強い!という考えは迷信ではなかったのか? ”

そんな議論が識者の中でなされるようになってきた。NOZOMI言うところの『格闘技ジェンダー・レス論』である。

NOZOMIに敗れた傷心のキックボクサー二人、ダン嶋原と村椿和樹のその後は?

村椿はそのショックから精神を病んだと見られていたが、それから立ち直ると、ふつふつと復讐の炎を燃やす。以前の彼とは別人のように底なし沼のような暗い目をしてマスコミの前でリベンジを誓った。
嶋原は鎖骨粉砕骨折で手術を受けたが、後を引きずらない彼は、もう女に負けたら恥だ云々というプライドは捨て、謙虚な気持ちでNOZOMIともう一度戦いリベンジを果たすと宣言。嶋原と村椿はNOZOMIへの挑戦権を賭け再戦することになる。ふたりとも、肘や首相撲からの膝ありのムエタイルールで異存はないようだ。

それを観ていたNOZOMIは述懐している。

今度、あの二人と打撃ルールで戦ったら勝つ自信はない。女と戦うことに違和感なく真摯な気持ちで挑まれたら、私のトラップは通用しない。勝てない、、、。

NOZOMIは、今後は総合格闘技(MMA)ルールで男子格闘技界に殴り込むと宣言。

Nozomi ladies Fight school(NLFS)
の創設である。

そこでは全国から様々な格闘技で実績ある女子を広く集め “打倒男子” を合言葉に日々トレーニングを積んでいた。従来の男子が考えてきたノウ・ハウではなく、女子による女子のための新たな格闘技術を高めるためNOZOMIは格闘技界に革命を起こす。

そんなある日のこと。
長年、日本MMA界の第一人者であった渡瀬耕作が引退宣言。総合格闘技での無差別級絶対王者であった彼も、寄る年波(38)には勝てず最強の座を大田原慎二に譲る。更に若い力である川上力にもKO負け。
引退を決意した彼は、その引退試合の相手を探すも大田原と川上は次大会での対戦が決まっており、この二人以外に渡瀬の相手になる男など存在しない。

そんな渡瀬耕作に挑戦してきたのが、雌蛇ことNOZOMIであった。

彼女も対戦相手探しに困っていた。打撃ルールでさえ、あの村椿、嶋原を連続撃破したのだから、得意の総合ルールならどれ程強いのか? そんな得体の知れない女に戦いを挑もうとする男などいない。

「相手がいない者同士。渡瀬さん、引退試合を私とやりませんか?」

いくらNOZOMIが魔女のように強く、全盛期ではない渡瀬相手とはいえ、身長こそあまり違わないもののウエート差は歴然。
自分より約30㎏も重い男相手にどう戦うというのだろうか? そんな強気で怖いもの知らずの彼女に周囲も困惑する。

“この女、、本気で言ってるのか?”

最初は冗談と受け止めていた渡瀬、、本気であることが分かると顔色が変わった。
当のNOZOMIにしても  ”勝てる自信はない。怖い、、、“  というのが正直なところ。

“ NOZOMI選手の渡瀬耕作選手への挑戦は、
人道的に認めることは出来ない!”

一度は興行会社からそう告げられたのは容易に想像出来る。当たり前だ! まだ二十歳の女の子が、総合格闘技無差別級王者だった男と戦わせて、何かがあったなら責任問題では済まされない。ところが、どういう経緯があったかは知らないが、これは実現することになるのだ。

なぜ実現出来たのか?

それは、この物語は架空ファンタジー(笑)であるからとしか言い様がない。
そして、この物語前半最大のクライマックスは、NOZOMI 対 渡瀬耕作 となる。
これ以降、堂島源太郎の遺児、龍太、麻美を中心にストーリーは進むことになる。


NOZOMI 対 渡瀬耕作。
その前に。

男子を倒す女子格闘家はNOZOMIだけではなかった。NOZOMIが立ち上げたNLFSで、
打倒男子を合言葉に日々トレーニングに励んでいる雌蛇の遺伝子たち。
彼女らは男子格闘技界に衝撃を与えた。
黒船到来!? 次々雌蛇の遺伝子たちに敗れ去ってゆく男子格闘家。

とはいっても、私は一応リアリティに拘りがあったので、あまりにも女子ばかり勝ってしまうのもおかしい。だから、適当に負け試合も織り込みました。
ドラゴンボールじゃあるまいし、どんどん女子格闘家がインフレしてしまうと、まるでゲームみたいでミックスファイトを通じて被虐心を追求していきたいという当初の目的が失われてしまいます。
ミックスファイトをフェチシズムの視点から捉えるならば、アニメ的な大袈裟な表現や、プロレス的派手な攻防は禁物です。
予定調和の中から、女子に敗れる男たちの屈辱、恥辱、は感じることはない。
其辺の加減が難しかったように思います。

NLFS所属女子選手。

かつて、日本最強女子の座をNOZOMIと争った鎌田桃子。ケンカ空手少女シルヴィア滝田、レスリング日本代表候補桜木明日香、柔術マジシャン奥村美沙子etc…。

彼女らは、多くの男子格闘家と名勝負を演じます。その中で前半最大の名勝負と思っているのが、シルヴィア滝田が、元幕内力士、雷豪に挑んだ試合。
それから、キャラ的に私が最も好きだったのは奥村美沙子でした。

このふたりを中心に、次回から各ミックスファイトを検証したいと思います。

つづく。


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