クラスメート

吸引力がある人

この世には、吸引力という才能を持った人がいると思う。

その場にいるだけで何か気になる存在、

どうしてもそこに目がいき、惹かれてしまう存在。

本人は自覚がない。普通にしているだけでその吸引力を発揮している。

羨ましい。

目立とう!という意思がないと
必ず埋もれてしまう人だっているのだ
私みたいに。

少数の、特別な人だけが持つ

吸引力。という力には魔力がある気がする。



小学校のとき、尾上くんという男がいた。

五年生のときに転校してきた。

こいつは運動神経もそこそこ。
眼鏡をかけた素朴で地味な奴だ。

どっちかというとインドアで少食。

空想科学読本。とかを夢中で読んでるやつだった。

だが彼には不思議な魅力がある。

そこにいるだけで彼は
特別な存在感を発揮するのだ。

徐々に気になる存在になり、
放って置けなくなる。

初めはふーん。という感じでも
いつのまにか皆、彼の虜。

そういう人だった。

苗字が尾上だから。おのちゃんと呼ばれていた。

おのちゃん、いっしょに遊びにいこーぜ!とよく誘われる。

人気があるだけじゃない。
尊敬されている。

すげーなおのちゃん!
おのちゃんが立候補しろよ!

という風に、事あるごとに役職とかに推薦される。

それを迷惑そうに断るおのちゃん。

いや、またそれでモテてるぜあいつ。

男にも、女にも。


彼は面食いで女との距離感が近い。

女と恐ろしく顔を近づけて話す。
スケベナヤツダ。

だが、女の子が嫌がる素振りを見せる所。一度も見たことがない。

拒否してるところも。

不思議だ。嫌悪感を抱かせないらしい。

あんなに近づいて話したら、嫌な人が多いだろうに、

満更ではない。という顔でニコニコ。
むしろ嬉しそうに話している!?

習字と算盤を習っていた尾上くん。
あと、プールか?

他にも同じ習い事のやつはいくらでもいる。

それなのにやたらと彼は女子から
字が綺麗。字が綺麗。と褒められる。

羨ましい。

他の習字してる男子は見向きもされない。

正に、吸引力のなせる技。

足が速くて、スポーツマンでイケメン。
というわけじゃない。

それでモテるなら分かるけど。

特になんの特徴もない平凡感あふれる男。

そんなやつがモテるのは

本当に悔しかった。


手が届かない。と諦めがつくならいいけど。

彼は違う。すごく普通に見える。

だから羨ましい。
何がこんなに自分と違うのか、一晩中考えた日もあった。

でも、心から普通にしていても、
吸引力。という武器があるからには

あいつには勝てないのだ。一生。

そう思った。


尾上くんは自分にとっても憧れの存在だった。

まんまと自分も彼の吸引力に魅了された一人だったのだ。

元気にしているかな。尾上くん。

今も吸引力。発揮しているかな。

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