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素人の考古学ー「霧の子孫たち」 新田次郎 感想

「霧の子孫たち」 新田次郎 文春文庫

長野県・霧ヶ峰を通る有料自動車道路(ビーナスライン)建設に反対する運動を取材した事実に基づく小説である。


 (ビーナスラインは茅野市から白樺湖、車山高原、霧ヶ峰、美ヶ原高原まで、全長約88キロメートルにおよぶ絶景ドライブルート)

古代からの聖地である霧ヶ峰・旧御射山(もとみさやま)遺跡を貫き、高層湿原地帯のすぐ脇を通るはずだった建設ルートを、地元の文化人たちが中心となって迂回させた。が、結局、道路の建設自体はくつがえすことはできなかった。

旧御射山遺跡は、標高千六百メートルの高原に開かれた、縄文弥生時代からの円形桟敷式野天会場であって、国史跡に指定されている。
 (円形桟敷式野天会場は350x250mの三方の丘の中腹に設けられた桟敷。収容人員は約10万人と推定。諏訪神社の祭礼との関連)


また高層湿原地帯は、亜寒帯植物と温帯植物との接点にあり、非常に多くの植物が共存し、雑交し、霧ヶ峰植物という新種を創造し群生している。特にスミレの種類が多い。
(高層湿原)


反対運動の中心人物は地元の考古学者と天文学愛好家産婦人科医師、高校の生物教師であり、敵役として、巧妙に手練手管を使って建設を推し進めていく長野県企業局長やその部下の官僚、市長や町長である。
 
企業局長は「いかに美しい自然があろうとも、その美しい自然を万人に開放してやってこそ初めてその自然の存在価値は現れてくる」
一方建設反対側は「人間があってこそ自然があるという人間中心主義の考え方は、人間以外の生物の生命を軽視する考えに直結する。自然の中に人間がある。人間以外の生命を愛する気持ちがあってこそ人間愛を口にすることができるのだと思う」
 
建設反対運動は勝利したもののその術策にまんまとはまってしまったことに気づいた。
「改革」とか「自由」とか一見正しい言葉を政治家や官僚など権力を持った人が使うときは用心しなければならない。
40年前の運動が全国に知れわたり自然と文化を守る運動の原点となった。
                         以上
                         小兵衛


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