零戦、友鶴、翔鶴 肉を切らせて骨を切る海軍の思想

 零戦は三菱重工業が製造したがエンジンは三菱より中島飛行機の方が優っていたので陸軍の隼と同じ栄エンジンを使用している。したがって、両機の性能を比較すると機体設計の優劣が判明するわけである。速度、火力はゼロ戦が優り、旋回性能は若干ながら隼が優っていたようだ。ただ性能比較には表れない弱点がゼロ戦にはある。それは防弾装備だ。隼はパイロットの後部には防弾板があり、主翼の燃料タンクには防弾装置があるが、零戦にはどちらもない。これは旧海軍の大型爆撃機でも同じで一式陸上攻撃機にも防弾装置はなく同機は機銃を撃ち込まれると直ぐに炎上するので「一式ライター」と呼ばれていたほどである。
 旧海軍の安全より攻撃能力を重視する姿勢は航空機に限った話ではなく艦艇に関しても同様であった。ロンドン条約により駆逐艦等の小型艦艇まで制限が広がると旧海軍は規制対象外の600トン以下の艦艇を重武装して駆逐艦の代替を図ったが悲劇が起こる。重装備の水雷艇である友鶴は重心が高くなり訓練中に転覆し100名以上の乗員が死亡してしまった。
また、航空母艦の翔鶴は排水量に比較して多量の航空機を搭載可能であるが、そのために船体の舷側の鋼板が通常よりも薄くなっていて高速で航行すると舷側の鋼板が凹み「ペコン」という音がしたという信じられないような話がある。
 これらの「攻撃性を優先し安全性は二の次にする」という考えは、私見ではあるが旧海軍のルーツである薩摩の示現流に影響されているのではないか。示現流ではひたすら攻撃のみを行い防御は行わない。「肉を切らせて骨を切る」で自己の被害を無視して徹底的に相手を攻撃するという訳である。
 確かに大戦の初期では相手の戦闘機とエンジンの出力では大差がなかったので防弾装置を無くしたことで重量軽減効果による重武装と旋回性能でかなりの戦果が上がったが、大戦の中期以降は高出力エンジンを搭載した敵の新型機が登場すると防弾機能がないことにより逆に直ぐに撃墜される結果となってしまった。「肉を切らせて骨を切る」にも限界があった訳である。
 

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