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欧州都市でのマイクロモビリティの勃興

case | 事例

2010年代半ば以降、世界中の都市で、路上で自由に行き来する電動自転車やキックボードなどの爆発的な普及を目の当たりにしてきた。ドックレス(ポートがない形式)でシェアするマイクロモビリティの事業数で世界の上位10都市は、すべてヨーロッパに位置しているNUMO(New Urban Mobility alliance)はマイクロモビリティを追跡しているが、2019年から2023年の間に、ドックレスでシェアするマイクロモビリティを導入した都市の数は倍増し、事業数は70%増加したとのこと。市場の栄枯盛衰(2019年以降、94社が参入した一方で、63社が廃業または全事業を撤収)にもかかわらず、マイクロモビリティの普及が減速する兆しはない。

イタリア・ミラノではドックレス・マイクロモビリティの運行数はCOVIDのパンデミックの影響もあまり受けずに、2020年以降着実に事業者が増え、2023年6月現在なんと16の事業者が存在する。同市はマルチモーダル交通に注力しており、サイクリング・インフラの拡大の方向性を持つ中で、2035年までに首都圏の地方の郊外から都市の中心部まで伸びる750kmの自転車専用道路を整備する計画が承認されていおり、達成されれば、ヨーロッパで最も包括的な自転車専用道路ネットワークが構築されることになる。
バルセロナも都市デザインとインフラを通じて、アクティブ交通を推進しており、市内には10の事業者が運営する合計14のドックレス・マイクロモビリティ事業がある。ミラノと同様、バルセロナも自転車のインフラ整備に多額の投資を行っており、1996年にわずか10kmだったものが、2019年には209kmに伸びている。同市の2024年都市モビリティ計画(PMU)では、自動車移動の割合を減らしアクティブ交通を進める戦略が示されている。
ドイツは全土139の都市で360のドックレス・マイクロモビリティ事業が運営されている。世界最大のシェアリング電動キックボード会社であるライムのサービスも、ベルリンを含むドイツの複数の都市で利用できる。2022年から2023年にかけて撤退により事業者数は激減したが、ドイツのドックレス・マイクロモビリティ産業の大規模な成長は止まっていない。小型電気自動車規制(eKFV)により、連邦政府ではなく州政府がこれらの車両の取り扱い権限が与えられたのが大きい。ドイツも道路の新設・改修の際に自転車専用レーンを設置することを義務付ける方向にある。
ベルギー・ブリュッセルは、ドックレス・マイクロモビリティの人気が高かったが、事故の増加や歩行者・駐車場への影響を踏まえて2022年7月に歩道での使用を禁止し、特定の駐車エリアを指定するなどの規制を導入した。事業者は3年間のライセンスを取得するが義務付けられ、過密状態を避けるための運行車両数制限も設けられた。それでも自転車専用レーンの急速な拡大が、マイクロモビリティの繁栄につながっている。2021年現在、市内には513kmの自転車専用レーンがあり、2012年の約2倍となっている。

マイクロモビリティ業界が成長と変化を続ける中、各都市は、マイクロモビリティをマルチモーダル交通システムの一部として定着させ、気候変動目標の達成にも貢献する方法について考えているが、自転車専用レーン、特に分離された自転車専用レーンは、ドックレスや他のマイクロモビリティを促進する上で極めて重要であることが分かる。ドックレス・マイクロモビリティは、ブリュッセルのように規制強化の対象となっている都市も多く、パリではドックレスキックボードの完全禁止も実施されている。一方で、新たなルールとインフラのアップグレードによってドックレス・マイクロモビリティを再導入する都市も出てきている。低所得者層の必要な移動にかかるサービスでもあるからこそ、公共スペースを妨げることなく、安全で、利用しやすく、経済的に実現可能であることを保証することが不可欠である

insight | 知見

  • ドックレスは日本ではさすがにどの都市も導入されていないと思いますが、専用道があって駐車のルール・マナーが守られるのであれば、利用者にとってはドックレスがより便利なのは間違いなさそうですね。ヨーロッパで導入が進んでいるのは自転車専用道の整備が背景にありそうです。