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名前、記憶、場所、そして家族──マジ肉開幕直前!三浦直之インタビュー

いよいよ1月12日から始まる、ロロ『マジカル肉じゃがファミリーツアー』。2017年9月から始まった「旅シリーズ3部作」ラストを飾る本作は、果たしてどんな「旅」をつくりだすのか。ロロ主宰・三浦直之に本作へ込めた思いについて尋ねた。

──『マジカル肉じゃがファミリーツアー』(以下、『マジ肉』)は2017年9月に上演された『BGM』と11月の『父母姉僕弟君』(以下、『父母』)に続く、「旅シリーズ3部作」のラストとなる作品です。元々は2010年に上演された『旅、旅旅』という作品を再演する予定が、同作をベースに新作を書き下ろしたんですよね。

そもそも「旅シリーズ」というフォーマットが、積極的につくったものではなく流れで生まれたようなところがあって。9月、11月、1月と短期間に3つの公演を行うことが決まり、まず9月の『BGM』が決まったあと、1月に『旅、旅旅』の再演を行うことが決まった。11月の内容を決めかねていたんだけど、『BGM』と『旅、旅旅』はどちらも旅の作品だということに気づいて、折角だから3つの公演を「旅シリーズ」としてまとめるのはどうかと。それで11月に『父母』を上演したんだよね。

だから、どの作品も明確に「旅」を意識してつくっているわけではなかったりする。9月の『BGM』では、「過去から現在」や「記憶を拾っていく」みたいなここ数年の本公演で扱っていたモチーフを活かしつつライトな作品をつくろうとして「ロードムービー」というモチーフにたどり着いた。だから、最初から「旅」というテーマに対して強いモチベーションがあったわけでもなくて。
そのあとの『父母』は、過去を忘れないことをテーマに旅を続ける作品だったこともあって、再演にあたってリライトはほぼしないことに決めていた。5年前に書かれたことと向き合おう、と。それは自分としてもすごくいい体験だったけど、一方ではそこで「再演」というやり方には満足してしまった。

『旅、旅旅』も当初は再演の予定だったんだけど、また同じようなことをするのは意味がないかなと思ったんだよね。『父母』ではかつての自分が作家でいまの自分が演出家として臨んだけれど、次はかつての自分といまの自分が同居するような作品になるといいなと思った。だったらタイトルを変えた方がいいねという話になって、「家族」と「旅」というテーマから今回のタイトルが決まったっていう。結局『マジ肉』は、登場人物や設定は『旅、旅旅』と同じだけど、戯曲に関してはほぼ全部新しくなってる。

──テーマありきってわけじゃなかったんですね。あえて旅という枠組みをつくった上で2作品上演したわけですけど、手応えみたいなものはありましたか?

『BGM』がいままでの自分の作品のなかにどう位置づけられるのかは、正直まだよくわかっていなくて。でも、いわきとかさざえ堂みたいに具体的な場所をロロの作品で扱ったのは初めてだったから、それは発見だったなあ。それと、ツアー公演だったのもよかった。最初に下北沢スズナリでの公演を終えたあとは、自分がこれを続けていいのか結構不安があったんだけど、俳優たちと共同生活をしながら三重、仙台と旅先で上演を重ねることで、この作品がある程度完結したんだなと思った。

そのあとの『父母』のときは、もっと分かりやすく手応えがあった気がする。5年前の作品だからいまの自分が書くセリフや構成と全然違うし、時系列も混濁していて、サンプリングもはちゃめちゃ。とっちらかってる(笑)。でも、当時の自分に「これを書かないと死んじゃう」みたいな切実さがあったのが逆に羨ましくて。再演にあたってきちんとその切実さをすくい取って舞台上にあげることはできたかなと思う。

旅というテーマに関しても、『父母』はうまく描きなおせたんじゃないかなと。あの作品はよくラブストーリーとして捉えられがちなんだけど、台本を読み返していたら、ラブストーリーじゃない部分の方にむしろ可能性を感じたんだよね。初演のときは主役っぽい役どころのキッドがずっと過去を向いている感じだったんだけど、もっと未来を肯定したくて。過去へ向かう旅と未来へ向かう旅をうまく並走させたかった。、単に過去を忘れないだけじゃなく、旅をしながら色々な人と出会うことで生まれる新しい関係性を描けたのはすごくよかったな。

──旅シリーズというだけあって3作品とも旅の作品ですが、リライトしているとはいえ時系列としては1作目から3作目で2017年→2012年→2010年と遡ってますよね。そのなかで三浦さんの関心も変化してると思うんです。特に、ロロの初期にあたる2010年〜2012年はかなり多作だった時期じゃないですか。

2010年と2012年を比べてみると、『LOVE02』って作品が間に挟まってるのは心境の変化として結構大きいと思う。それまでずっと片思いを引きずって「恋」をロロの作品のテーマにしていたのが、『LOVE02』ができたことで一区切りついたようなところがあったから。『旅、旅旅』を読み返してみると、まだ片思い引きずってる感じがするからね(笑)。あとは震災もやっぱり大きい。自分の生まれ育った女川の街が流されてしまったのを見て、そこで過ごした記憶もなくなってしまったことに気づいた。それで記憶と場所について考えるようになって『父母』が生まれたということもあるし。震災直後の不思議なムードのなかで、「夏」シリーズという作品をつくって上演していた記憶も結構強く残ってる。

ただ、その間の作品に「旅」ってモチーフは全然出てこなかった(笑)。当時は旅が好きなわけでもないし、旅をしているわけでもなかったし。『旅、旅旅』は演劇的な見立てで場所を変えて旅をするのが面白かっただけだし、『父母』のときはロードムービーっぽいパッケージに興味があっただけだから。どっちも旅の作品をつくっているという感覚はあんまなかったと思う。その証拠に、『旅、旅旅』は家族がフランスに旅行する物語になっているんだけど、めちゃくちゃ旅先の設定が適当なんだよね。旅行に興味がなかったから、行き先はどこでもよかったんだろうな。

『BGM』も『父母』もロードムービーだからという話ではあるけど、「移動」の時間を丁寧に描いている。でも『旅、旅旅』のときは全然そういう時間が描かれていなくて、移動に興味がない感じが出ている。旅行が好きじゃなかったんだなと(笑)。旅行のプロセスはいらなくて、情報だけ手に入ればいいと思っていた気がする。

──そのあと2016年につくられた『あなたがいなかった頃の物語と、いなくなってからの物語』は「一代記」モノでしたが、旅の作品ともいえますよね。だから折に触れて旅っぽい作品をつくられている気はするんです。

『あなたが〜』も確かにそうだね。ロロではよく場をつくり変えたり空間を動かしたりしているけど、そういう自分のつくり方が旅みたいなモチーフとそもそも相性がいいのかもしれない。

でも、ちゃんと旅に興味が湧いてきたのは、ワークショップとかの依頼を受けて色々なところへ行く機会が増えてきたここ数年のことだと思う。特にいわき総合高校芸術・表現系列 演劇で高校生と作品をつくることになって、いわきへ通いだしたのはすごく大きかった。全然知らない場所で知らない人と出会えたのがよかったと思うんだよね。

あとは、東京が好きじゃないから旅に惹かれるのかなと最近思ったりもする。よく自分の地元が閉塞的で嫌だから東京に出てくる人がいるじゃない? でも、俺の場合は逆で。ずっと地元でいいと思ってたんだけど、東京の方が演劇をやりやすいから出てきてるという意識がある。なんなら地元ごと東京に移ってきちゃえばいいのにと思ってるくらいで(笑)。だから東京が自分の居場所じゃないという感覚がいまだにあるんだよね。旅に出ると東京から逃げられたなって感じがして、その感覚が旅みたいなものに惹かれる理由のひとつなのかなと。

──さっき「見立て」で旅をするという話が出ましたけど、『マジ肉』にもそのテーマは引き継がれているんでしょうか。

『旅、旅旅』をつくっていたときは、舞台上のモノに名付けて何かに見立てるっていう演劇の原始的な機能に感動してたけど、いまの自分にとって見立ては当たり前のものになっちゃったからね。だから、テーマとしては当時より濃度が薄まるような気がしてる。

『マジ肉』は、見立てというより「名前」と「記憶」がテーマになっているんじゃないかな。2010年の自分には名付ける(見立てる)ことが大きなモチーフとしてあって、2017年の自分は旅シリーズを通じて記憶というモチーフを繰り返し使っている。2010年と2017年の自分のモチーフが結びついた感じというか。

ほとんどの人にとって、最初の名付け体験って自分に名前がつけられることだと思うんだよね。だから、自分の記憶、あるいは自分以前の記憶を拾っていきながら、名付けることについて考えていけたらなと。あとは、さっきも話したように『旅、旅旅』はどこかに旅することだけが描ければよかったけど、いまはもっと場所とか過程に意味を見出したいと思ってる。そこも大きな違い。そういう意味では、「場所」もテーマのひとつといえるかもしれない。

──『旅、旅旅』から引き継いでいる部分もあるし、旅シリーズの2作品に通じている部分もある、と。

でも、これまでの2作品とは方向性が異なる部分も多いけどね。例えば、『BGM』は江本(祐介)さん、『父母』は曽我部(恵一)さんにオリジナルの楽曲をつくっていただいたけど、今回はみんなが知ってる既存の曲を使う予定だし。それはロロが初期作品で行っていたような、音楽を使ったフレーミングをまたやってみようと思ったからで。

ほかにも、これまでの2作品はどちらも旅を通じてゼロから他者と関係が生成されていく様子が描かれていたけど、『マジ肉』は登場人物がベタに家族だから最初から関係性ができあがっている。だから、今回はゼロから関係性をつくるのではなく、固定された関係性から解放されていくような物語になっていると思う。

もちろん、既存の関係性から解放されたあり方を描くという点では旅シリーズに限らずロロが一貫して扱ってきたモチーフではあるんだけど。特に色々な関係性のなかでも(擬似)家族はずっと自分が惹かれてきたものだし。それが何故なのかはいまだにわからないんだけどね。最近は劇団が擬似家族っぽいなというか、劇団というものがよくわからないなという感覚が関係してるのかもと思うんだけど。

それと、今回は旅シリーズというよりいままでロロがやってきたことを作品に詰め込もうと思ってる。『BGM』や『父母』だけじゃなくて、「いつ高」シリーズでやってきたようなことも含めて詰め込もうと。いままでは外部のカルチャーや作品をサンプリングしていたけど、今回はある種自分の作品をサンプリングするような感覚がある。もちろん、自己模倣にならないようにはしなきゃいけないんだけど。

ただ、シリーズ最後だからといっていわゆる「集大成」って感じの重いものにはしたくないし、ならないと思う。実を言うと「記憶」みたいなテーマに関しては『BGM』で一区切りついた気もしていて、そういう意味でも、「集大成」というよりは新しいものを見つけるような、次に進む作品になればいいなと。それに、『マジ肉』はジュブナイルっぽい要素が結構強かったり青春映画っぽいところもあったりするし、上演時間も『BGM』や『父母』は2時間超えだったけど今回はもっと短いし(笑)、見やすい作品になっていると思う。当初「ピクニック」をキーワードに掲げてたのも、ピクニックって単語に明るい雰囲気を感じるのがいいなと思ったから。楽しそうじゃん、ピクニックって。響きが。家族が最後に目指すのは明るさであってほしいから、作品自体もライトに楽しめるものになるといいな。

2018年1月12日(金)〜21日(日)『マジ肉』チケット好評発売中!

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