LL教室#1

森野(以下、森):「えーと、記念すべき第1回目の活動ということで、とりあえず自己紹介からしましょうか。」

ハシノ(以下、ハ):「誰からやります?」

矢野(以下、矢):「じゃ、年齢順で。」

森:「はい、森野といいます。普段は構成作家とライター、主に音楽に関することをやってます。」

矢:「ここでの森野さんは本名になるんですか? スーパーモリノもありますよね。」

森:「ああ、そうか。じゃあ、マキタスポーツの音楽活動をプロデュースしたり、一緒にステージに立ったりしてます。共同作業者ですね。」

ハ:「ハシノです。今は会社員をやってるんですが、昔から音楽をやってたり、あとレコードを掘るのがライフワークです。その縁でラジオ(※1)に出してもらったりして、気が付けば番組最多出演なんてさせてもらって。」

森:「ディグダグ・ハシノ先生として”J-POPの墓掘り人”の異名をとるくらいだったからね(笑)」

矢:「矢野利裕です、本業は別にあるんですが、ライターと評論を書いたりしています。あとは、都内でDJをずっとやっています。ハシノさんと同じく番組にちょこちょこ出してもらってました。」

森:「それが、このユニットを結成する経緯でもあったしね。」

ハ:「ライターとしての最近の活動はどんなのがあるの?」

矢:「ネット上での連載では『Real Sound』でジャニーズ批評をしているのと、あとは『レコード・コレクターズ』とか『ele-king』とかでたまに書いています。」

森:「矢野くんは去年、群像文学新人賞(※2)を獲ってるから、もう作家先生なんだよね。」

矢:「作家先生というのはアレですが(笑)、文芸批評なんかもやります。」

森:「活動のコンセプトとしてはDJとか評論とかイベントをやってみようという話だったんだけど。」

矢:「コンピを出したいですよね。」

ハ:「この前、2人が出てたTBSラジオの文化系トークラジオ『LIFE』(※3)でも話が出てたけど、DJとか選曲家みたいな存在って今どうなの?ってのがあったでしょ。」

矢:「ありましたね、コンピューターに取って代わられたりね。」

ハ:「コンピューターレコメンドで充分なのか?って。」

矢:「でも、ハシノさんが『はたおじ』でかけてたあの並びは、コンピューターにはまだ出せないでしょ(笑)」

ハ:「あれはタグを付けられないと思うよ。」

矢:「そういうのを出していきたいですよね。」

ハ:「羽生名人みたいに機械と戦い続けたりしてね。」

矢:「DJ電脳戦(笑)」

ハ:「今回もDJとしてやらせてもらうんですけど、主催の方からテーマをもらったんですよね?」

森:「そう、そしたらイベントのサブタイトルが『フレンズ・アゲイン&シークレット・ミッション』ってことだったのね。」

矢:「1回目からすごい難題だなあ~(笑)」

森:「漠然としすぎてるよね。」

ハ:「手応えあるな~(笑)」

森:「実はイベントとしては意図があったみたいけど、あえてそれは関係なく言葉だけでいってみようかなと思ってね。」

ハ:「意図的に誤読していくっていうことね。」

森:「シークレット・ミッションって直訳すると何なの?」

矢:「秘密指令ですかね、いいサブタイトルですよね。」

森:「フレンズアゲインは?」

ハ:「その辺、どうとりました?」

森:「再会みたいなこと?他の解釈ってあるのかな、オレ全く英語できないからさ。単語3つあるともうわかんないよ。」

矢:「いや、そういうことでいいんじゃないですか?(笑)」

ハ:「言葉通り捉えるなら、再結成とかそういうふうに考えるのもアリだし、今回自分的にはシークレット・ミッションに重きを置いてみようと思ったんですよ。」

矢:「ほう。」

ハ:「なんか、ミュージシャンってなんで音楽やってるのか?って、いろんなこと言うでしょ。」

森:「大義名分みたいなこと?」

ハ:「そうそう。それで思い出したのが、たまに音楽自体というか活動を通じて伝えたいことが明確にある人ってのがたまにいて、しかもそれがアーティスティックなことじゃなくて、『音楽の聴き方を提唱したい』っていう人がいるんですよ。それで思い出したのが王様(※4)。」

矢「はいはい、いましたね」

ハ:「日本語カバーをやってるんだけど、その界隈では避けて通れないんですよ。あの人は、直訳した”可笑しみ”みたいなのをキャッチーなものとしてるんだけど、本当の目的は『洋楽を聴いてほしい』ってことで。それってシークレット・ミッションなんじゃないかな?って結びついたんですよ。」

矢:「なるほど、秘密指令があったわけね。」

ハ:「それで、今回王様をかけようかなと思って。」

森:「そうかー、シークレット・ミッションでまず考えたのはデュークス・オブ・ストラトスフィア(※5)だったのね。これはXTCの変名バンドなんだけど、今のハシノ君の話を聴いたあとだとカッコつけすぎたなあ。(笑)」

ハ:「あれって当時伏せてたんでしょ?」

森:「確かに手つきはXTCなんだけど、わかった上で聴いてるのとでは全然違うよね。95年くらいにビートルズリバイバルがあったでしょ、新曲が出てさ。」

ハ:「はいはい。」

森:「ミスチルとかも中期ビートルズみたいなアプローチだったし、奥田民生のソロもやっぱりビートルズだし、そういう流れでXTCとかを追っていくとこのバンドが出てきてさ。」

矢:「なるほど、変名バンドはいいですね。」

ハ:「タイマーズ(※6)とかね。」

矢:「タイマーズも日本語カバーでしたね。」

ハ:「素性が分かってる人には変名バンドって分かったのかもしれないけど、地方のラジオ局で知らないままかけられてたりとかもあったんじゃないですかね。」

矢:「椎名林檎かと思ってたら、矢井田瞳だったみたいな話もあるしね(笑)」

森:「でも、変名バンドって言いたい欲とかないのかな?やってみたはいいけど、誰も気づいてくれないってもどかしいんじゃないのかな?」

矢:「それで言ったら、森野さんも変名バンドでしょ。あれは別人なんですよね?」

森:「ああ、そうか。知り合いのV系バンド(※7)がね(笑)。でもそういうケースで売れるとかあるよね?本気じゃなくて遊びでやってた方がうまくいったりとか。」

ハ:「ありますねー、変に肩の力が抜けてやりたいことがまとまってたりして。」

森:「企画力が勝つんだと思うよ。」

ハ:「意外と自己顕示欲みたいなのが邪魔をしてるからね。」

矢:「そうかー、自我を求めすぎるより、お客さんの要望にあってたほうがいい場合もあるかもしれないですね。」

森:「90年代って演ってる側がクールに見えたし、その温度にお客さんが翻弄されてるというか、なんとか追いつこうとして、追いかけてたんじゃない?」

矢:「今はそういう時代じゃないですよね、『わかるやつちょうだい』って言われるし。」

ハ:「アーティストの人間性をフックにして聴かせるとかってもうあんまりないですよね。2万字インタビュー(※8)的な。」

矢:「90年代的な、ミュージシャンがリスナーを教育していく感じはないんですかね?」

森:「やってる人もいると思うけど、ヒットチャートにはあんまりないよね。啓蒙していく感じでしょ?」

矢:「昔はやっぱりありましたよね、ミスチルだってそういうふうに機能していた。」

ハ:「僕にとっての渋谷系ってそういうもので、音楽性とかよりは掘らせたい、引用してるところを…。」

森:「目配せだよね。ヒップホップ的な解釈。」

矢:「今日、僕が持ってきたのは『黄金の7人』のサウンドトラックです。『フレンズ・アゲイン』はやっぱりフリッパーズ・ギターを連想するわけじゃないですか。これは、「恋とマシンガン」の元ネタ。フリッパーズを聴いて僕はこれを買った、という教育された感があります。渋谷系的なノリですよね。盤としても、なんとなくシークレット・ミッション感があるかな、と。」

森:「なるほど。」

ハ:「元ネタっていう表現自体のニュアンスが変わってるよね。ちょっと聞き手が音楽に対して向き合うのを止めてるのと同時に、そういうやり方が一回鼻に付いた反動があったんじゃないかな。もっと音そのものを聴けよ、みたいなのが有効になった時代があると思うんですよ。」

矢:「あと、オレンジレンジが全部刈り取ってしまった感がありましたね。」

ハ:「そうそう、オレンジレンジがネットで叩かれてたときに、自分たちでやってきた音楽の聴き方と違う世代になってきたって思ったな。」

矢:「でも、オレンジレンジの見せ方も、いわゆる渋谷系的なノリとは違いましたよね。」

ハ:「自分たちからすれば、あそこの部分があれね、ってニヤリとするとかだったんだけどね。」

森:「そういえば、最近オリジナルラブのファンの人から教えてもらったんだけど、ちょうど1年くらい前にパクリ騒動で話題になったSPICY CHOCOLATE feat. HAN-KUN&TEEの「ずっと」がJASRACのデータベースで調べると作曲のクレジットに田島貴男が入ってるんだよね。」

矢:「オレンジレンジと同じパターン?(※9)」

ハ:「そっかー、なんか世知辛いなあ(笑)」

矢:「オレンジレンジは最初聴いたときに、渋谷系的なものが前面化していて嬉しかったんですよ。やっとそういう作り方が市民権を得たのかというのがあって。」

森:「実際、レコード会社と所属事務所とかの法務的なやりとりが裏側であったりして、本人が知らないパターンとかもあるからね。カバー扱いになってたりとか。まあ、手打ちみたいなものだと思うんだけど。」

ハ:「キワキワな話になってるね(笑)」

矢:「伏字にしときます?」

ハ:「そう考えたら『レモンティー』(※10)って裏でお金動いてたんですかね?(笑)」


森「ちょっと話変わるけど、『SHOUT TO THE TOP』も日本人が作ってたんじゃないか?っていう噂をこの前聞いたよ(笑)」

矢:「西寺郷太の『噂のメロディメイカー』みたいな?」

ハ:「都市伝説みたいな話ですよね。」

森:「あれだけジャケットのセンスがおかしい!とか言ってて。実は佐野元春が先に作ってた!?とかだったら、ちょっとワクワクするよね(笑)」

矢:「ヒップホップでも90年代半ば頃から権利を言われだしたのかな。アメリカでもそうだったし。」

ハ:「いつ頃からかクリアランスって言い方をされるようになったよね。」

矢:「ヴァニラ・アイスっていうラッパーがクイーンに訴えられた事件があって、その辺りからですかね。」

ハ:「あの、デヴィット・ボウイと共作したやつね」

矢:「実際、音作り自体も、クラブ音楽が訴えられるようになってからはプリセット音に変わっていったからね。」

森:「昔、ニューオーダーがキュアーにパクられたから、パクり返したみたいなエピソードあったよね?」

矢:「そうやってエンタメにしてくれると、リスナーとしては嬉しいですよね(笑)。でも、この間エイフェックス・ツインがカニエ・ウエストにパクられたってのもありました。」

ハ:「それはまた額のデカそうな…、敏腕弁護士が張り切ってやりそうだ(笑)」

矢:「確かに(笑)。そういう案件だよね。」

ハ:「他にどんな曲かけるとかある?」

矢:「じゃあ、一人ずつやりますか?」

森:「さっき言ってた『再結成』で挙げようと思ってたのはストーン・ローゼス。2枚目の『Second Coming』なんだけど、当時はロッキン・オンの煽りに対して、全然ノれなかったんだよね。」

ハ:「はいはい、ローゼスはお前らの届かないところに進化してるぞ!みたいな(笑)」

森:「でも、評価はされてるから、何度も買い直してさ。5年くらいの間に4回くらい買っては売ったりあげたりしてたんだよ。」

矢・ハ:「頑張ってる!(笑)」

森:「でも、これが意外と売値が下がらなくて90年代は常に700円くらいで売れてたの。だから1200円くらいで輸入盤を買っては、友達にあげたり売ったり。だからフレンズとアゲイン(笑)」

ハ:「個人史の中でね(笑)」

森:「しかも、『Second Coming』って隠しトラックが入ってたでしょ?」

矢:「あー、シークレット・ミッション。ただのよくできた三題噺じゃないですか(笑)」

ハ:「90年代、隠しトラック流行ったよね~。ニルヴァーナがああいうのの出だしだったかな」

矢:「しかも、初めを巻き戻すと出てくるとかもあったよね」

ハ:「CDの機能でね。」

森:「当時の記憶でいうとストックハウゼンなんとかって溝が進まないやつあったなあ。」

矢:「ああ、サージェントペパーズの最後みたいなやつですよね。」

ハ:「それで思い出しましたけどねー。」

森:「なにかあった?」

ハ:「なめ猫あったじゃないですか。なめ猫がレコードを出してて、よくわかんないロカビリーぽい人を連れてきて歌わせてるんですけど、7インチの曲の最後まで行ったら延々ループして進まないんだけど、ずっと猫の鳴き声が入ってるの。」

矢:「それ、何年くらいですか?」

ハ:「83年とかかな? まさかサージェントペパーズからなめ猫までね…(笑)」

矢:「隠しトラック特集いいかも、やりたいですね~。」

ハ:「CDになってから何百曲もトラックがあって、収録曲が終わっても無音のトラックがずっと続いてるとかあったよね。」

矢:「コーネリアス的なやつですよね。96曲目の。」

森:「ああ、そうだったっけ、同時再生もあったよね。」

ハ:「そう、スターフルーツ・サーフライダーを2枚がけするという。懐かしいなあ~。」

矢:「あの2枚がけはDJでターンテーブルでミックスするってことが前提ですもんね。あの時代だからこそ。」

ハ:「渋谷系っぽいなあ。」

森:「スターフルーツ・サーフライダーがプライマル・スクリームの曲名だったしね。」

矢:「そうか、それも目配せだ。」

矢:「とりあえず、イベント的に90年代渋谷系的なとか、あるいはああいう感性と『フレンズ』を組み合わせたときに思ったのが、ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズ。パッと出てきて、もうこれだと思いました。」

森:「よく学校にこのジャケが貼ってあったよ。サークルの宣伝とかに使っておけば、オシャレだってわかるから。」

ハ:「わかる!そういうアイコンになってたよね(笑)」

矢:「A&Mレコーズ、いわゆるソフトロックですよね。ピチカートとかも参考にしてただろうし、それこそポップンミュージックの『ソフトロック』っていう曲はまんまロジャニコですから。」

森:「またそのリバイバルで皆が聴きはじめて普及しきったくらいに、ロジャーニコルズが新譜出したでしょ?

矢:「出ましたね。」

森:「でも、全然ピンとこなかったんだよ。今、やりたいことをやっちゃったのかな?って感じだったよね。」

ハ:「ちょっと話逸れますけど、『今、やりたいことやっちゃった』で思い出したんですけど、トッド・ラングレンが4、5年くらい前に朝霧ジャムに出たんですよ。”今、やりたいことをやるモード”に完全になってて、ブルースとかブギとかをニコニコしてやるんです。「イエーイ!」とか言って、自分に正直みたいな感じで(笑)。でも、1曲だけ渋々くらいな感じで「I SAW THE LIGHT」をやってて。」

矢:「渋々(笑)」

ハ:「やっとここからいくぞ!お待ちかね!みたいに期待が高まったと思ったら、『よし、ブギの時間だ!』とか言ってまた元に戻っちゃって(笑)」

森:「(笑)。永ちゃんもお晦日の格闘技イベントに出てきて、ヒートアップさせてくれるのかと思ったら、しっとりバラード歌ってたことあったよね。」

矢:「何百回もやってるからね~、まあ、気持ちはわかりますよ(笑)。」

ハ:「あのジャケもロジャニコと同じくらいおしゃれアイコンとして機能してたよね。」

矢:「S.L.A.C.Kがトッド・ラングレンのサンプリングをやってるんですけど、90年代とはまた違う感じがあります。レコードから取ると、ピッチ変えると音が高くなるところまで含めてたんだけど、S.L.A.C.Kは同じピッチのまま早くなっていて、それをサンプリングしてましたね。CDJ以降の発想で、聴いたとき時代が変わった感あったなあ。」

ハ:「確かにね~。」

矢:「というわけで、僕はロジャニコでした。」

ハ:「無理矢理に、『フレンズ・アゲイン』に持っていくとしたら、今ちょっとオアシスどうなのか?ってのがあるんですよ。なんかちょっと弟にエールを送るとかあったでしょ。」

森:「仲直りとか?」

ハ:「そう、それがあと何年かしたら再結成してもいいのかな?って、兄の方からサインを送ってんのかなと思ってさ。ということで、オアシスのカバーをね。」

森:「『Don’t Look Back in Anger』だ?」

ハ:「そうそう。」

矢:「誰がやってるんですか?」

ハ:「LUVandSOULっていうどっちかというと、ゴスペラーズ的な人たちなんだけど。」

森:「これがすごくいいんだよね~。」

森:「再結成を匂わせるっていうと、多分しないと思うんだけど、この前ジョニー・マーがスミスの曲を自分で歌ってる動画があってさ。」

ハ:「へー!」

森:「しかも、そのスミスの記事はヒクソンと死闘を演じた格闘家の中井祐樹がリツイートしてて知ったんだけど。」

ハ:「ほう。いいすねー、それ。」

森:「さっきのローゼスでいうと、RINGSの高坂剛の入場曲が『Driving South』だったり。」

矢:「会場で聴いてたらかなりグッと来ますよね。」

森:「ギターのリフが印象的な曲だからね。」

ハ:「確かに入場曲っていう掘り下げ方もあるよね?」

森:「最近はプロ野球名鑑とかに載ってたりもするよね。」

ハ:「昔、阪神の球団事務所で働いてる人に聞いたんだけど、自分でこれがいいって持ってくる人もいるんだけど、ほとんどは候補曲がピックアップされてて、これでいいやみたいなんだって。」

矢:「自我が入ってる人とそうでない人と。」

ハ:「それを聞いてから、これは本人チョイスじゃないか?って予想するのが楽しみになった。」

森:「野球選手とか純粋に流行ってる曲聴いてそうだもんね。」

ハ:「Jリーガーほど音楽好きな人は少なそうだよ。」

矢:「ヴェルディ川崎の選手なんて試合後にいつも芝浦GOLDに行ってたっていいますよね。で、そこにはとんねるずもいたりして。」

森:「六本木人脈だ!」

矢:「それは宇治田みのるがラジオで言ってました(笑)。自分で語る人じゃないし、遊んでおしまいだから、あんまり世に出ない話ですよね。」

森:「確かに(笑)」

矢:「もうひと回しくらい言っておきます?」

森:「フレンズ・アゲインってそのままのバンドがあったから、それを紹介しようと思ったんだけど、これって高値なレコードだったんだよね。CDで再発されたんだけど、それも高値になってたから諦めたの(笑)。でもフレンズ・アゲインってグラスゴーのバンドなので、グラスゴーのレジェンドってことでBMXバンディッツ。」

ハ:「ほうほう。」

森:「一昨年なんだけど、BMXバンディッツのダグラス・スチュワートが来日してて、名古屋で共演させてもらったんだけど。そのときのメンバーがティーンエイジ・ファンクラブのノーマン・ブレイクとヴァセリンズのユージン・ケリーでさ。知り合いがそのイベントを主催するっていうんで、観に行くよ!って言ったら、せっかくなのでベース弾いてって頼まれたの。」

矢:「おー、すごい!」

森:「そのセットリストに「モーリーズ・リップス」があって、知ってる曲だったらやりたいなあって話をしてたんだけど、それに関してはユージンがすごく人見知りで、初めて会う人と一緒にやるのはちょっとごめんなさい、って断られたのね(笑)」

ハ:「めっちゃ、いい話だ~(笑)」

森:「実際に会っても彼だけやっぱり人見知りで、俺も英語ができないからコミュニケーションが全然取れなくて。でも、楽屋で他のバンドが演奏してる音が聴こえてくるのに合わせてめちゃくちゃ身体動かしてノッてるんだよ。日本人ってノってる自分を気にして踊ったりしないとかもあるでしょ?」

ハ:「はいはい、確かに。」

矢:「人見知りとそこは切り離されてるんだ。」

森:「これチャンスかな?と思って近づいてみたら、結局流れで一緒に演奏させてもらったんだよね。で、その日のホテルは主催の人が同じところに取ってくれてたんだけど、翌朝早く帰ろうとするときにエレベーター前でユージンに会ったの。そしたら、会釈してくれて、なんていうんだっけ?シーユー?。挨拶してさ。」

ハ:「めっちゃいい話じゃないですか!」

森:「なかなかできない経験したよ(笑)」

矢:「僕はあと2枚持ってきてるんですけど、一つはビズ・マーキーの『Just A Friend』っていうやつで、これもフレンドが付いてるんですけど。むりやり渋谷系的なところに持って行くとするなら、スチャダラパーの『スチャダラ外伝』というミニアルバムに、『ついてる男』って曲がありますよね。」

森:「うんうん。」

矢:「この曲のなかで渡辺満里奈が『友達でいましょ』っていうセリフがあるんですよ。あれはビズ・マーキーの『Just A Friend』のパロディーなんですよね。」

森:「意味ありげだよね。」

矢:「そういう遊び心がね。」

ハ:「”性別すら超えたっつうこと?”(笑)」

矢:「都市伝説の謎かけは渋谷系っぽいね。」

矢:「もう一つはシークレットミッションってことで覆面バンド。今日はレコードを持ってきたんですけど、5年前にやっとCD化されたらしい謎のアルバムです。ビートルズが他のバンドに提供した曲を集めて、それを素性のわからないバンドが完コピでやるっていう企画。だから、ここに収録されてるのはレノン&マッカートニーが作曲したものなんだけど、他のバンドが演奏してるという。」

森:「へー。なんていうバンドなの?」

矢:「REVOLVERっていうバンドで、『NORTHERN SONGS』っていう企画盤なんですけど、結構いいんですよ。」

森:「企画物ってこと?」

矢:「企画物っていうか、誰がやってるかもわからなくて、79年にLPがリリースされているんだけど、話題になったのかどうかもよくわからない。昨日調べていたら、5年前にCDが出てたのを初めて知ったんです。ビートルズが楽曲提供してた曲を、もしビートルズが自分たちで歌ってたら、といういわゆる『If…』ものですね。」

森:「なるほど。」

矢:「声も似てるし、僕が一番好きなのはThe Fourmostっていうリバプールのバンドに提供した曲で、ブライアン・エプスタインとジョージ・マーティンが関わっている『Hello Little Girl』って曲です。ビートルズと同時期に売り出していて、微妙に『Hard Day’s Night』 からアレンジを借用してたりとか芸が細かいんですよ。しかも驚くのは、『Hello Little Girl」は同時代に中尾ミエが日本語でカバーしてるんですよね。」

森:「じゃあ、それなりに売れてたってこと?」

矢:「それなりには売れてたんですかね。でも、The Fourmostって全然聞かないですよねえ。」

森:「当時の中尾ミエっていったら、ヒット曲のカバーだもんね。」

矢:「完全に同時代だから『夢見るシャンソン人形』みたいなノリでやってたと思うんですけど、全体的に謎めいています。シークレットミッション感ですね。」

森:「じゃあ、そろそろ締めましょうか。それぞれの方向性を。」

ハ:「基本的に日本語カバーでいこうかなと思ってます。ラジオでかけたりしてたのはインパクト重視だったんだけど、今回は音楽好きそうな人が集まってると思うので。当時のギターポップ系の雰囲気も意識しつつ。」

森:「俺はわりとミドルテンポくらいまでのアゲアゲじゃない感じにしようかな、キラキラしてる感じのやつとか好きでしょ。『THERE SHE GOES』とか(笑)」

ハ:「(笑)」

矢:「キラキラ押しは、僕もちょっと思ってました(笑)」

森:「そういうイメージの曲をね。」

ハ:「当時、大学生のとき結構ギターポップ系イベントとか盛んでしたよね。」

森:「ハシノくんとは同学年だよね?」

ハ:「そうそう。で、関西でも本当に『ELEPHANT STONE』とか『THERS SHE GOES』とかかかってね。で、ギターポップじゃないけど、『Break-a-way』とかはアリだったりとかのその感じを、シュープリームスとか。」

矢:「やっぱり”信藤三雄感”ですかね。」

森:「ああ、そうかも。」

矢:「僕はそれなりにソフトロックも集めてたんですけど、全然人前でかける機会がなかったんでこれを機にかけたいなと思っています。」

森:「俺も再発ブームだったからソフトロック集めたなあ。大学時代にミスドでバイトしてたんだけど、店でかかるのは決められててフィフティーズなんだよね。で、夜中に1人で持ち込んだCOWSILSっていうソフトロックのバンドをかけて働いてたんだけど、そのままオープンしてかけてても気づかれなかったりしてさ。」

ハ:「早すぎたカフェDJだ(笑)」

矢:「実はミスドから始まったかもしれなかった?(笑)」


TEXT(森野誠一、ハシノイチロウ、矢野利裕)

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