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グレート・コメット〜シンプルだけど、とっても美しい

公演は終わりましたが、相変わらずまだあれこれグレートコメット について考えを巡らせております。

今回改めて見たことで、いろいろ新たに気付かされることがたくさんありました。
その中でも物語の締めくくりのシーンについては、今まで以上に好きなシーンになりました。

※ネタバレします。

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ラストの簡単なあらすじ。

主人公の1人ナターシャはロストフ家という貴族の娘で婚約中の身ですが、アナトールという男に唆され婚約者を捨てて駆け落ちしようとします。
この駆け落ちが失敗し、実は既婚者だったアナトールに騙されていたことを知りショックで自殺未遂をしてしまいます。

一方、ロストフ家と昔から親交があり、伯爵家の私生児ですが家を継いだもう1人の主人公ピエール。
優しいためにお金はたかられるし、妻はピエールの金目当ての愛のない結婚をし人生に意味を感じられず家で読書と酒の日々。

物語の終盤、ナターシャの駆け落ち未遂を聞き、ピエールはアナトールをモスクワから追い出します。そして、倒れたナターシャを見舞うところでやっと劇中で2人が出会います。

この時の会話で2人の心が少し救われる、というのが物語のクライマックス。
婚約者にも見捨てられ「全てが終わった」と嘆き全てを諦め泣いている、そんなナターシャを見てピエールは愛情を感じるようになります。

そこでかけた言葉が
「もし、自分がこんな自分では無くもっとハンサムで、素晴らしい人間で、自由の身だったら、今この場にひざまづいてナターシャの愛を求めただろう」
という、ものすごく回りくどいセリフ。(一言一句覚えられませんでしたが、こんな感じの意味でした)

この、不器用でめんどくさい愛の告白とも言っていい言葉ですが、全てを失った(と思っている)ナターシャにとって救われる一言となり、微笑んで感謝の涙を流します。
また、愛のない生活を送っていたピエールにとっても、ナターシャからの感謝の気持ちに愛を感じて涙を流します。

この後にタイトルにもなっている彗星が現れるのですが、この時ピエールが感じた心の温かさが、彗星の輝きと重なって幕となります。

全てが解決する結末ではありません。ロストフ家の家名は地に落ちて大変でしょうし、駆け落ちを巡って喧嘩別れしたナターシャの親友とのその後は描かれていませんし。(原作小説を読めばその後どうなったかはわかると思いますが…)

そしてこの2時間半ほどあるこのミュージカル中、主人公である2人の会話シーンはたったのこの1曲のみ。時間にして7分51秒(BW版のサウンドトラックより)
そしてこのナターシャとピエールの会話のシーンの伴奏は、静かなピアノのアルペジオのみであり、淡々としたメロディーで進みます。

この7分51秒のシンプルな曲に全てが詰まっていました。
(正確には、この後にピエールによる締めくくりの1曲がありますが。)

私がにくいなあ、と思ったのが前述のピエールの告白のセリフ。
今までセリフのないオペラ形式でほぼずっと歌って展開してきたのに、よりによってこの告白だけ音楽が無くなりただのセリフとして話されるのです。
ミュージカルなので重要なセリフだからこそ歌で表現する、ということもできたはずなのに。
だからこそ際立つし、とても美しいと感じました。

感動で涙が止まらない!というタイプの感動では無く、私たち観客の心にじんわりとした温かい光が灯るような感覚。
まさにその後で彗星(グレート・コメット)が現れるので、そこでピエールと同じように私たちの心もシンクロするのですよね。

今まで散々音楽やらダンスやら観客への絡みやら、面白い演出で楽しまされてきたのに、最後の最後で感動させられたのはこんなにシンプルな演出だった、ということに改めて考えると驚きます。
ピエールが求めていたものが単純に愛だったように、 大事なことは実はとってもシンプルだと表されているようにも感じます。

最初に見たときはやはりその派手な演出の魅力に釘付けになりましたが、今回、何回か公演を見たことで改めて実はとってもシンプルで、そこが美しい物語だったのだと気付かされました。

***

こうやって考えていると、その後彼らはどうなるのか?今回登場しなかった人物(ニコライなど)はどう関わってくるのか?いろいろ気になってきます。
特に今回は戦争は遠いところで起こっている話、という印象であまり直接舞台のモスクワに影響はしていませんでしたし。
グレートコメット はグレートコメット で、あくまで一つの独立した作品ではありますが、やっぱり原作小説を読んでいた方が理解が深まると思い知らされました。

レ・ミゼラブルを第1巻で挫折し児童書版で読んだ過去を持つ読書苦手民としては、なかなか手が出せずにいましたが…そうも言っていられませんよね。頑張ろう。


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