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人が集まる場所をつくるには、まずその地域で暮らす人々が楽しくあること。

子どもの頃好きだった島の景色を取り戻すため、島で暮らす人々を笑顔にするため、鹿児島県の離島でさまざまな仕掛けを展開している山下賢太さん。10年以上経った今でも変わらぬ熱い想いで走り続けている山下さんの原動力とは…。

能登ローカルシフトアカデミー第4講座
■開催:2021年10月14日(木)19:30~21:30 オンライン開催
■講座テーマ:地域ブランディングと商品開発
■ゲスト講師 ※敬称略
山下賢太(東シナ海の小さな島ブランド株式会社 代表取締役)
■モデレーター
稲田佑太朗(能登ローカルシフトアカデミープロデューサー)

ゲスト講師紹介

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山下賢太(やました けんた)氏
東シナ海の小さな島ブランド株式会社 代表取締役/九州地域間連携推進機構 取締役/三麓株式会社 取締役/鹿児島離島文化経済圏プロデューサー

1985年、鹿児島県上甑島生まれ34歳2児の父。JRA日本中央競馬会競馬学校騎手課程20期生中退後、きびなご漁船の乗組員を経て京都造形芸術大学環境デザイン学科卒。2012年、人口およそ1,000人・高齢化率52%を超える村を拠点に「世界で一番暮らしたくなる集落づくり」を目指す地域デザインカンパニーとして、東シナ海の小さな島ブランド株式会社を創業。

たった一人で始めたから見えた
本当に大切なもの

「世界で一番暮らしたくなる集落づくり」を目指し、自身の故郷、甑島列島北部の「上甑島」を中心に17もの事業を展開している山下さん。まずは山下さんが現在に至るまで、どのような取り組みを行ってきたのか話を聞きました。

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山下さんの活動の原点となるのが、13年前にたった一人で始めた農業
島では農業が産業として成り立たっておらず、田畑が増えていく。農家の支援団体も統合・縮小し、農地の管理や肥料や農機具もままならない状態。栽培から販売先の確保まで全て自分で行わなければならない中でたどり着いたのが、無人販売だったそう。「島で農業は無理だ」と周囲から反対されながらも続けているうち、見かねて手伝ってくれる人、差し入れをしてくれる人が現れ、本当に大事なのは作物を収穫することだけではなく、助け合いの心や世代を超えたコミュニケーション、受け継がれてきた農法など、副次的な価値に気づいたと話します。

その経験をきっかけに、米そのものを売るだけでなく、米づくりの過程での島の雰囲気や人々の暮らしの様子などを一緒に伝えていく通販サイトを開始。さらには、古民家をリノベーションして、豆腐の製造・販売を行う「山下商店」を開業。豆腐を商品ではなくコミュニケーションツールとし、一丁一丁手渡しでの販売や、各集落を回って住民と話をして交流を深めながらの販売を行っています。

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観光事業は
地域の人々の生活があってこそ

山下さんの活動が広がっていくと、次第に噂を聞きつけた人が島を訪れるように。観光客を受け入れるための宿やカフェレストランを開く一方、観光を重視しすぎて、甑島ならではの良さがなくなってしまったり、人々の生活に負担が出たりしてしまっては本末転倒だと葛藤していた山下さん。

その結果生まれたのが、営業時間外は無料で開放し、スクールや高齢者サロンなど島の人たちがやりたいことが行えるパン屋さん。他にも、島の漁師たちの日常や普段食べている魚がどうやって食卓に届いているか、魚を食べながら漁師たちと直接交流して知ることができるイベント「フィッシャーマンズフェス」も開催。

決して無理はせず、提供するのはあくまで島の日常。
「お金のために観光事業をやるのではなく、『自分たちがどういう町で暮らしたいか』『どういう暮らしが甑島らしいか』が大前提。観光はそれを支えるもの」だと話します。

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利益を考えるよりも
大切な人の笑顔のために行動する

山下さんが行ってきたプロジェクトについて話を聞いた後、事前に寄せられていた受講生からの質問を稲田が問いかけます。

稲田「観光が生活を支えるという話もありましたが、利益を得ることと、島を良くすることのバランスはどのように考えていますか」

山下「そもそも僕は経営的なことを学んできてないんです。初めて自分が作った作物でお金を得たときに感じたのは、これは対価ではなく応援だと。本当に僕の作った作物がほしくて買ったわけじゃなく、作る姿勢に共感してくれたんだと思いました。なので、お金のことは考えずとにかくやってみる。それを大切にしています」

稲田「山下さんが考える地域の課題解決ということはどういうことですか」

山下地域というのは一人一人の集まり。地域を活性化するではなく、『あの人が笑顔になる』『あの人の悩みが解決する』『あの人の居場所ができる』。そういう『あの人』がいることがすごく大事です。採算が合わないからといって何もしなければ、『あの人』の笑顔がなくなってしまう。誰もが諦めた光の当たらないところに光を当てていく、最後の砦になりたいですね」

稲田「地域の課題を解決する時に、地域外から来た余所者だからこその強みや活かし方って何だと思いますか」

山下「人と関わる時に、別に出身地で付き合う人を決めるわけではない。その人の内面や能力を見て付き合うので、余所者という言葉で逃げずに、まずは強みや弱みを知ったり、何ができるかを考えたり、自分自身と向き合うことを最初にすべきだと思います」

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ないものを受け入れ
それを超える価値や方法を生み出す

続いて、受講生から直接山下さんへ質問を投げかけます。

受講生「山下さんを突き動かす原動力となっているのは何ですか」

山下「周りからはよく『甑島がすごく好きなんだね』と言われますが、始まりはその逆。子どもの頃、好きだった島の原風景が更地になっていくのを見て、何でこうなってしまったんだと憤りを感じていました。じゃあどうやったら失った風景を自分たちが作っていけるのか、どうやったら好きになれるのか。ただ、失ったことを批判するのではなく受け入れたくて、それ以上の価値を生み出すためのプロジェクトに取り組んでいます」

受講生「経営について何も分からないとこから、どうやってさまざまな事業を展開してこれたのですか。また、失敗することもあったかと思いますが、どうやって事業につなげてきましたか」

山下「会社って、自分にないものを持っている人たちとの集まりなので、大事なのは自分にできないことを認めることです。僕は初め誰の手も借りず一人でやる覚悟でした。皆を巻き込むのが申し訳ない気持ちがあったし、何より仲間がいないからできないと言い訳したくなかった。結果、人との繋がりを失ってしまったこともありました。なので、自分にできないことはできる人に任せる。役割分担なんだと思うようになってからはとても気持ちが楽になりましたね」

自分の居場所を楽しくするために
走り続けている仲間

質問タイムが終了したところで、事前に受講生が提出していた、現時点で考えている能登町でのビジネスプランについて、3人に発表してもらうことに。それを受けて、山下さんから「能登町だからこそできることをもっと掘り下げてみる」「ただ売れそうな商品をつくるだけでなく、地域との関連性を深める」などのフィードバックをもらいました。
突然の発表タイムで、初めはとまどっていた受講生でしたが、現状のビジネスプランをブラッシュアップする良いきっかけになった様子でした。

最後に山下さんから、
「僕は別に何かを成し遂げた立場ではない。皆さんと同じように、自分の人生や地域を良くしたいとそれぞれのフィールドで戦っている途中です。『井の中の蛙』って、普通はあまり良い意味で使われませんが、井の中、自分の居場所をめちゃくちゃ楽しい場所にしていると、周りが気になって覗きたくなるんです。その道のりはとっても楽しくて苦しいですが、井の中の蛙になって『こっちの井戸は楽しいよ!』と笑って言えるような場所づくりを目指しましょう。そしてうちの井戸も覗きに来てください!」
との言葉をもらい終了しました。

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本講座も、最終発表会を除いてあと2回。
残りの講座の様子もお楽しみに♪

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