ゴミの目標値こそゴミ!【再資源化事業高度化法案】
■はじめに
時代は100%リサイクルPETボトルへ。これはコカ・コーラだけの話ではありません。日本の大手飲料メーカーの工場も、以前は充填と包装だけでしたが、いまやペットボトルも充填工場内で同時に生産して充填するシステムを導入しています。
他にも、プラスチック製品を容器に使用する商品を扱う企業たちが、こぞって再生資源、いや循環資源を使うことを競っています。セブンイレブンも同社で回収するペットボトルをフランス、ヴェオリア社と共同出資するリサイクル工場を建設しています。
しかし、企業みずからが築き上げようとする仕組みを拒むものがありました。それが「廃棄物許認可制」です。現在の日本の廃棄物行政は次のような法体系になっています。
わが国の廃棄物行政の中心は「廃棄物処理法」(昭和四十五年法律第百三十七号廃棄物の処理及び清掃に関する法律)です。平成6年に「環境基本法」が制定され、さらにさまざまな法律が派生して制定されたことで、上記のような複雑な制度になってしまいました。
基本は都道府県、市町村が認可する「業許可」による縦割り行政の象徴である業界団体規制となっています。最初に紹介した企業が取り組むリサイクルの中でネックとなっていたのが「廃棄物」を収集、運搬、処分するのに「産業廃棄物」の許可が必要であることです。
飲料業界も関連会社を多数含む企業体ですから、さらに廃棄物を取り扱う別会社を立ち上げたり、廃棄物業者に委託したりなど、あの手この手を尽くしてリサイクルに取り組んできました。
そのような生産性の悪いことをやっている間に世界ではヴェオリア社のような企業が巨大化し、水道といったインフラだけではなく廃棄物までも取り扱う巨大企業となっていたのです。
本noteではこの度国会で審議されることになった「再資源化事業高度化法案」(「本法案」)について考えてみたいと思います。対象とするものは2024年第213通常国会で法案が審議されている『資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案』です。
■再資源化事業高度化法とは
廃棄物規制が今後さらに厳しくなりそうだと感じさせる法律が今回新たに審議されることになりました。
上に挙げた「循環型社会を形成するための法体系」の図の下の方に「〇〇リサイクル法」というのがたくさんありますね。これらの他に最近話題になっているのが、おむつのリサイクルやペットボトルのリサイクルというものがあります。
また、太陽光パネルなどから必要な資源を取り出して再利用する取組など、皆さんも目にしたことがあると思います。ところがこれらの「再資源化」について、廃棄物処理法の規定が足かせになることがあったのです。企業が別会社を作ったり、廃棄物処理業などの許可を申請したりと、法的な制約によってうまく新規事業が行えない等の弊害がありました。しかし、本法案は新規事業への取組に対する配慮があります。
国が「温室効果ガスの排出の量の削減の効果が増大する」廃棄物事業を認可するための新しい制度の創設です。
しかし同時に次のような強力な規制法ともなっています。
続けて、本法案の主旨を構成する部分を抜粋し法の概要をご紹介します。なお、下記の法条文を読むために、次の記事が参考になりますので、一読をお勧めします。
■新法制定による効果
条文の「廃棄物処理法の規定にかかわらず」という規定は大変重要です。この部分で新規産業の育成を図る方針です。
「廃棄物処理法」においては通常の廃棄物処理事業は都道府県または市町村から許可された者が行えることになっています。しかし、本法律では国が事業を認定することになっているので、廃棄物処理法の許可による事業ではありません。
次に『規制の事前評価書』に基づいて確認してみましょう。
つまり従来の資源循環の取組はなまぬるく、事業者が補助金を受けるだけで進展していなかった。そのため規制を強化するというのです。上記ブログの「廃棄物管理の実務」さんは次のような言葉でうまく表現されています。
前記紹介した法第十条には「特定産業廃棄物処分業者」と言っていますが、その数は国内で約1,000者あるというのです。
上記で法の主旨である「再資源の高度化」とあり「高度化」を行っている事業者には「再資源化に必要な廃棄物の収集、運搬及び処分について廃棄物処理法に基づく業の許可等を不要とする」などの優遇措置は一部業者にとって規制緩和で新規事業が起こしやすくなります。しかしそれに至らない事業者には過酷な法律になることが予想されます。
これは再資源の高度化というお題目で廃棄物業者を廃業させる目的の規制ではないかと思ってしまいます。
最後に
みなさん、JICA(ジャイカ)はご存知でしょうか? 国際開発協力機構の略称です。わが国の国際貢献の一つで途上国を中心に技術指導、教育等への協力を行っている組織です。
時代とともに廃棄物に対する認識は変化します。わが国では公害、不法投棄からSDGsへと廃棄物に関する価値観の大きな変化がありました。途上国地域ではグローバル化の進展とともに市場経済が急速に発展し、一足飛びに廃棄物問題に直面する国が少なくありません。
まずJICAが行ってきたパレスチナ暫定自治政府域内での「広域処理導入のための基盤づくり」事業についてご紹介します。小規模な自治体が多いため、「ヒト」「モノ」「カネ」のすべてが不足します。そのため複数の自治体が協力して廃棄物処理の広域組合を設置する事業です。
JICAは地域ごとの特性を見極め必要な技術援助を行っていきます。日本で生活している私たちから見たら当たり前のごみ処理をそのまま文化の違う土地に移し替えることはできません。現地の特性に応じて廃棄物管理の意義や仕組みをわかりやすく伝えることで基本的な廃棄物処理に関する考え方を普及してきたということです。
JICAでは継続的にパレスチナの廃棄物処理に関する協力を行っているそうですが、やはり足りないのはカネ。税金ですね。
廃棄物処理は生活に必要なものですから「サービス受益者である住民から料金を徴収」するということは頷けます(最低限の事業のための税金ですね)。途上国などでは予算規模の関係から必要最低限の事業を行うことになるでしょう。
しかし、リサイクル活動が進むと当然考えたくなるのが「数値目標」ってやつです。JICAもお役所の一つですから事業の評価として「支援した五つのJSCでは廃棄物収集サービスのカバー率が、2015年のプロジェクト開始時の44パーセントから2018年の時点で90パーセントまで向上した」といって喜ぶわけです。
これって官僚に限らず、お役人連中は好きですよね。数値の変化でなにか仕事をしたかのようになって得意顔になる。はっきり言って環境省の役人のやってることはゴミ回収の数値目標だけです。そこにさらに制度を複雑にして目標数値(指標)なるものをたくさん作り上げるのです。
昭和の時代の暮らしへのノスタルジックな憧れを抱いているわけではありませんが、廃棄物行政を複雑なものにしてしまえば、頭でっかちの役人が考えた数値で一喜一憂するために不要な事業を次々と生み出す不要な規制大国になってしまいます。
本法案は新しい事業を作り出してさらに制度を複雑化する不要な法律です。
規制を複雑化して企業の自由を奪う法律には反対です!
ゴミの目標値こそゴミ!
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