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「署名」の先へ。声なき声に向き合うために。(前編)

※長くなってしまったので、(前編)と(後編)に分割しています。 
※署名が書きかえられた件について、末尾に追記しました(2018.7.28)



ずっと書かなきゃと思っていたんですが、なかなか時間がつくれず。ようやく時間がつくれたので一気に書いてみます。

「児童虐待対策」を求める署名キャンペーンについて、ぼくは「共同発起人」に名を連ねています。

もう、一人も虐待で死なせたくない。総力をあげた児童虐待対策を求めます!change.org

この件について、様々な意見を目にします。なかなか着目されにくい点がありますので、それを中心に書いていきます。

署名は「全件共有」を前提としていない

まず、「児童虐待八策」に対するぼくの考えは、(今のところ)「児相~警察間の『全件情報共有』は反対。親子分離(ひいては親権停止)についても慎重でなければならない。その他の提言については、概ね賛成」という感じです。

ひとつひとつ書いていくと膨大になるので(それでもかなり長いです、すいません)、中心的話題になっている「児相~警察間の全件情報共有(以下、全件共有)」について、書いておきます。

「全件共有」について反対なのに、共同発起人なの?と感じた人がいるとおもいます。その点が、今回この記事を書かなきゃと思ったひとつの理由です。

多くの人が、あの署名は「全件共有」が前提だとしているし、それに対する反論の記事等はよく出ています。例えばこの方の記事など。

いま、虐待死をなくすために我々が向き合うべきこと――児童相談所と警察との情報共有を強めることは、子どもを救う切り札になるのか
山岸倫子 / ソーシャルワーカー

山岸さんの考え方、とっても共感します。でも(だからこそ)あの署名は「全件共有」が前提ではないことはお伝えしたい…という気持ちです。

署名が始まる前から「全件共有」を強く主張されてきた方々がいらっしゃったこともあり、その流れのまま認識している方が少なくないです。

しかし、署名ページをよく読んでくださったら「全件共有」ではなく「(全件共有を含めた)警察との虐待情報共有を有効に行うあり方を検討する場」の創出が目指されていることが伝わってくるとおもいます【※末尾に追記をしましたので、確認ください(2018.7.28)】。

発起人の方々は、署名が始まる直前まで専門家の意見をヒアリングし、それを反映させた「ぎりぎりの表現」としてリリースされました。

つまり、短期間にかなりタフな議論をしながら、スピード感を持って、然るべきタイミングにエネルギーを投入したということです。

こうしたソーシャルアクションを実現させた方々をぼくは支持するし、尊敬します。なので「共同発起人」に同意しました。

その先の提言について、(ぼくが言うのもおこがましいですが)粗い部分は確かにあるとおもいます。でもそれは「実装レベル」で最適化されていくものだとおもいます。

提言が抽象的である理由は、いまこの時、アクションを起こすためです。これ以上具体的にしちゃうと、さらに反対する人が出てきたり、理解が及ばない人が出てきたりで「全て」が慎重な動きになるからです。

つまり、勇気を出して行動してくれた発起人の方たちの姿勢を受けて、そして署名した多くの人たちの思いを受けて、責任を持って実装化していく「これからのプロセス」こそ、専門家の知恵が(忍耐も)必要だと認識しています。

これからは、力強くおおらかな連帯のもとに、建設的で具体的な議論の努力をし、互いの意見を摺り合わせていく必要を感じています。

もちろん、連帯のかたち=「署名をすること」ではありません。むしろ署名をしなかった方々に対してシンパシーを感じています。

何よりぼく自身も、悩み、迷いました。

ただ、「もう、こんな悲しい事件は繰り返したくない」その切なる気持ちは、署名をした人も、しない人も、分かち合えているはずです。

ぼくは常にそこを起点にしたいです。

今回の署名に関わらず、子どもの福祉の現場をどうにかしたいとチャレンジしているひとたちと共にこれから前に進んでいきたい、そう強く願っています。

「警察」が虐待対応することのリスク

その上で、具体的な意見も記しておこうとおもいます。
(認識が間違っていたらご指摘いただけるとうれしいです)

冒頭で触れたように、ぼくは「全件共有」について反対です。その点では、署名をした方の中でも意見が分かれるところだとおもいます。

反対の理由は、上記の山岸さんのご意見と重なる部分もあります。

まず、現状で警察が(グレーゾーンの)情報を得たとしても、独自の裁量で動く法的根拠は乏しく、結局、児相が動けていない親権や「子どもの権利」への配慮に帰結する点です。

勘違いされがちなことのひとつに、不適切な養育のもとにある子どもを保護する際に「児相より警察の方が権限が強い」と思われている点があります。

実際は「逆」です。警察が刑事事件として扱うことができず、動けない場合でも、「児相の裁量」で、子どもを保護することができます。一般的に「職権保護」と呼ばれているものです。

児相には「子どもの生命と権利を守るため」に、強い法的な権限が与えられています。問題は、その権限が「必要なときに使えていない」ということです。

なぜ使えないのか。大きな理由は、現場で「迷い」が支配してしまうからです。

この「迷い」は、とっても大事な気持ちです。子どもや保護者の権利や尊厳を鑑みた結果、生じる気持ちだからです。

でも虐待の現場においては、この「迷い」が子どもの生命を奪ってしまうこともあります。この「迷い」を大事にしながら、適切に判断し、保護するためにはどうしたらよいのか。

今回の事件において、そこに「警察」を重ねる方が多いのですが、ぼくはそう思いません。

「法的に問題があるのではないか?」という迷いを払拭し、適切に保護を遂行できるためには、警察というよりむしろ「弁護士」(司法判断)が必要です。

「これは虐待だろうか?」という迷いを払拭するためには、心理的虐待に精通している「精神科医」や「心理士」「児童福祉司」が必要です。

これらの「多様な専門家」が「チーム」となり、「近い距離で協働できる体制」をつくっていくこと、これこそが、二度と悲しい事件を繰り返さないための、最も確実な手段だと考えます。

警察との連携が必要ないというわけではありません。後編でも触れますが、「全件共有」の必要はないけれど、より一層の連携は必要だと考えます。

警察は「威圧的・暴力的な加害者への対応」や「子どもや職員の安全確保」が得意です。そして(一部の人が主張される)職権保護の根拠となる「リスクアセスメント」というよりも、「事件性の有無」の見立てで力を発揮できます。

まずは「子どもや保護者の権利」を優先し、ふさわしい専門家とともに適切なアセスメントをしなくてはいけません。

その中で、警察がともに動くことがふさわしい案件で、警察の力強い支援が必要です。そうした役割を、今まで以上に担ってもらう必要はあるとおもいます。

たとえば、今回の目黒の事件について「全件共有」ができていれば防げていたかというと、現時点で明らかになった情報で判断する限り、そうは思えません。

家族が目黒に引っ越す前から、児相も警察も「ともに情報を把握」した上で「互いに」権限の行使をためらっていました。何より「不起訴」相当とした検察の判断が、非常に疑問です。「警察」だけでなく「検察」の判断について、検証の余地が大いにあります。

また、「全件共有」の危惧は、今回の事件に限りません。

ぼくが今まで見聞きしただけでも、児相はじめ周辺関係者が丁寧に当事者の気持ちをひらいてきたのに、警察が関与することで途端にこじれる(関係を閉じてしまう)ケースは少なくありません。

悪気はないにせよ(だからこそ)、警察が「保護者の立場」から、さらに子どもを追い込んでしまったケースにも立ち会ったこともあります。親子との信頼構築よりも「事件性」が優先される傾向は確かにあるとおもいます。

このあたりは、仁藤夢乃さんのご意見と近いとおもいます。

女児虐待死事件から感じた危険な空気(1)子どもたちが助けを求められなくなる!?

女児虐待死事件から感じた危険な空気(2)短絡的な親批判では何も解決しない!仁藤夢乃 “ここがおかしい” 第26回

今まで以上に警察に情報提供をし、適切な対応を期待するのであれば、警察には「(親権は必然的に鑑みられるとしても)子どもの権利に準じた対応」を理解してもらわなければいけないし、それを支えるシステム(例えば署名でも言及されているCATや少年サポートセンターの設立)が「前提」となるでしょう。

また、たとえば今回、事件から3ヶ月も経過したこのタイミングで子どもの手紙が「警察の裁量で」公表された点も大いに気になる点です。警察にとって「何らかの目的」があったから、公表されたと理解できます。

つまり「警察が情報を把握する」ことの意味は「虐待における緊急対応」にのみ帰するものではありません。

「権限と個人情報を警察が把握すること」により「子どもの権利」が脅かされるリスクがあるのであれば、それは、最大限に、慎重な判断が必要だと考えます。

(後編)へ続く。


※以下、2018.7.28追記:

現在、署名ページの文言は、以下のように書きかえられています。
―――――
(2)通告窓口一本化、児相の虐待情報を警察と適切に共有をすること、警察に虐待専門部署(日本版CAT)を設置することを含め、適切な連携を検討する会議を創ってください
―――――
しかし、署名が始まったとき、そしてこの記事を作成した2018年6月30日時点では、以下のような文言でした。
―――――
(2)通告窓口一本化、児相の虐待情報を警察と全件共有をすること、警察に虐待専門部署(日本版CAT)を設置することを含め、適切な連携を検討する会議を創ってください
―――――
署名が始まった時点において、「全件共有」という言葉こそ使っていますが、あくまで、その実現を目的としているのではなく「(全件共有を含めた)適切な連携を検討する会議を創ること」が目的でした。

表現として曖昧に感じたので「共同発起人」になる際に、本署名が「全件共有」の実現を目的としていないことを「発起人」に確認しました。その確認ができたので、ぼくは「共同発起人」になった次第です。

一方で、署名の目的が誤解されないように、という主旨であったにせよ、署名の途中で文面が書きかえられたことは、大変残念です。その件については、facebookで書かせて頂きましたので、ぜひご覧下さい。

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