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限界過疎地域から生まれ変わる「ヘルジアン・ウッド」の村づくり 前田大介×横尾文洋×糀屋総一朗対談1

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ローカルツーリズム代表・糀屋総一朗と、地域を変えるキーパーソンの対談。今回は富山県立山町で新しいビレッジ(村)「ヘルジアン・ウッド」を運営する前田薬品工業代表取締役社長の前田大介さんと、不動産領域のインパクト投資に取り組むランドアーツ代表の横尾文洋さんをお迎えし、地域づくりについて大いに語り合いました。4回連続掲載の初回は、ヘルジアン・ウッドの生まれた経緯についてうかがいました。

富山の製薬会社が取り組む「村づくり」

糀屋:僕は知識を持った上で、自分のお金で地域に資金を投資していくっていうことをやっている方々、何かリスクをとって地域でいろんな活動されてる方を「ローカルエリート」って呼んでいるんですが、前田さんもローカルエリートの一人だと思っているんです。

前田:ありがとうございます。

糀屋:それから地域の事業をやっていく上でファイナンス、資金面のところでスタックしちゃってるケースというのも見ているので、個人的に、今後の勉強のためにもご一緒に活動されている横尾さんのお話もぜひ聞きたいなと思って参加お願いしました。

横尾:よろしくお願いします。

ーー前田さんは富山で製薬会社を経営されているんですよね?

前田:はい、前田薬品工業株式会社と言います。日本には現在、740を超える製薬工場がありますが、富山にはそのうち78工場が集積しています。医薬品といっても、飲み薬とか注射剤とかいろいろあるんですが、我々は業界では外用剤と呼ばれる「塗り薬、貼り薬」に特化していて、その中でもジェネリック医薬品、OTC薬品、マツキヨとかスギ薬局といったドラッグストアで販売されるような薬品を作っているんです。それと皮膚周りの薬をつくってきたということでスキンケアの化粧品の事業も行っています。外用剤というのは日本の医薬品の全体の9%。このうちの5%が目薬なので、僕らは日本の4%という極めてニッチな市場で戦っている製薬会社ということです。

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糀屋:へぇ〜。

前田:特に乾癬・アトピー性皮膚炎に対応する医薬品が売り上げの6割〜7割。医療用外用剤ジェネリックのステロイド分野では日本で2番目、約29〜30%のシェアを持ってるって感じですね。会社創立から57年で、現在の社員数が180人。製薬会社ということで、今まではずっと治療という分野で一本足打法でやってきましたが、そもそも患者を作らない、病気になる人を作らない「予防」。それから、病気から治った後で再発しないような「アフターケア」という分野に事業領域を増やしていきましょうと。医薬品で培ったノウハウを生かしつつ展開していこうと考えています。今、20個ぐらい新規事業のプロジェクトを動かしてるんですけど、そのうちの大きな一つが『ヘルジアン・ウッド』なんです。

ハーブを中心として始まった村の構想

ーーその『ヘルジアン・ウッド』。かなり壮大なスケールのプロジェクトだと覆うのですが、基本的なところを教えてください。

前田:『ヘルジアン・ウッド』というのは富山の原風景を残す「場所」です。JR富山駅から車で35分。富山空港から25分ぐらい。標高100mぐらいの立山の麓の小高い場所ににそういう「村」を作っています。そこの敷地は、8割〜9割が農地なんです。農地を持つには農家になるか農業法人を取らなきゃいけないということで「GENFARM立山」という会社を立ち上げて、私はそこの取締役もやっています。

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「ヘルジアン」という言葉は造語なんですよ。馴染みのある言葉でいうと「ベジタリアン」というのがありますが、そこから「健康な人」という意味で「ヘルジアン」と名付けました。「健康を目指す人たちの森」ということです。

中でもコンテンツとして尖らせているのが「ハーブ」ですね。ハーブというのは医学の祖と言われるヒポクラテスが処方したことで医薬品のスタートになった物です。ステロイド薬など、化学合成医薬品を売っている製薬会社が、その原点であるハーブを使って健康訴求していこうと。

それから、楽しみも盛り込みたいねということで「食」も取り入れました。2021年にミシュランでも一つ星を取らせていただいたレストランがあります。昼はカジュアルなランチコースで、夜は1万円のコース料理。田んぼの真ん中に浮いたように個室やダイニングがあって……こんなレストランってなかなかないんじゃないかな。そして「人」。「文化」ですね。世界で活躍するクラフトマンも集まっていますから、これを掛け合わせたハーブの桃源郷を目指しています

糀屋:その場所は、元々、どんな地域だったんですか?

前田:まさに過疎化地域で限界集落でしたね。そこをなんとかしようという意味もあります。でも富山の壮大なランドスケープは素晴らしいですよ。レストランから見える景色は段々畑状に広がる水田と、60キロに渡って見える立山連峰。背中越しには自分たちで展開しているハーブ園のラベンダーが3000数百株あります。6月末から7月初旬にかけては紫色のじゅうたんになるんです。。ここでラベンダーの刈り取り、アロマオイルの抽出工房でのアロマオイルの抽出見学、ハンドクリームを作り、ハーブティー作りといった体験ができます。

糀屋:施設も充実していると。

前田:約3.7ヘクタール。東京ドーム約1個分ですけど、この土地を買って農業をやりながら、今はレストラン、アロマ工房、イベント広場、トリートメント施設ができあがってきました。日本には740以上の製薬工場があると言いましたが、製薬会社としてアロマオイルの抽出をしてるのは我々だけなんですよ! 様々なワークショップ、セミナーもやっています。家族向けには自由研究みたいな感じでハッカの虫除けスプレーを作ったり、富山のトップバーテンダーを呼んで、夏に何十種類ものミントを使ってご家族連れを呼んでノンアルコールモヒートを作ったり、毎日何らかのワークショップが行われている状況です。

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それからイベント広場ですね。ここでウェディングも10組やらせていただきました。様々なコンベンションパーティーにも使われます。建築デザインは全て隈研吾さんとタッグを組んでいます。それから来年4月に一棟貸切型のサウナホテルも完成予定です。ベッドルーム三つとパーティールームがあって、冬には1.5メーター近く雪が積もりますので、サウナからそのまま雪にダイブできるみたいなホテルになる予定です。

20年計画で日々拡張する村

糀屋:どんどん拡張していってますね。

前田:もう、リアル「シムシティ」みたいに村を作り上げてます。今後も周囲にある1000坪の大敷地と築150年という空き家の古民家を利活用して、地域の人たちが自由に行き来できて、旅に来た人と交流するような公民館的なホテルも構想中です。22年には、横尾さんにお手伝いいただいている隈研吾さんデザインのヴィラ2棟も進めていく予定です。

ーーかなりの規模の施設になると思いますが、周辺での移動手段というのは?

前田:モンベルさんからE(電動)マウンテンバイクを購入し、これをレンタルしています。公共交通が弱いところなのですが、このマウンテンバイクのスピードは時速20〜30キロ出るので、里山を電動アシストでスイスイと走りまくれますよ。充電満タンで140キロは走れるので、1日走っても大丈夫。立山の登山口までいくにも1時間半です。この自転車で3〜40分走ったところに富山平野、富山湾が一望できる焚き火ができるところがあるので、サイクリングしつつBBQという遊び方もできますよ。

ーーリゾートというよりも、本当に「村」という感じなんですね。

前田:これからさらに動きも激しくなりそうです。今、立山でインターナショナルスクールを開設する打ち合わせもしているんですよ。

糀屋:そうなんだ。すごい。

前田:『ヘルジアン・ウッド』から歩いて2分のところに2年前に休校になり、廃校の手続きが終わった小学校があるんです。こここを、学校は学校のまま復活させる。アップサイクルするということで、「働く」「遊ぶ」「学ぶ」が、複合一体となった複合施設をまず作って、そこから将来的にインターナショナルスクールに発展させようという構想です。

とにかく20年かけて、ゆっくりゆっくり村を作っていくということでやっています。実際、「移住」とか「多拠点」という観点から住民も徐々に増えてきました。それでちょっとずつ村感が出てきましたね。一旦は過疎化で限界集落と言われ、営みとか文化が途切れかけたものを、改めて受け継ぎ直されるような場所にしていきたいなと思ってます。

「この人は必ずやる」前田さんの決断力と実行力

糀屋:そこに、横尾さんも参加していらっしゃる。その経緯も教えてもらえると嬉しいです。

横尾:さっきも少しお話に出ましたが、『ヘルジアン・ウッド』の中に作るヴィラがきっかけなんですよ。前田さんから、これまでとは少しファイナンスを違う形にしたいな、というお話があって、地域のファイナンスをお手伝いしています。

前田さんとは南青山の居酒屋で会ったのが最初で、その時も30分で海外ホテル投資を即決してくださった。社員にその国の人がいるという理由も素敵でしたが、何より決断力がすごいという印象でした。その日に『ヘルジアン・ウッド』の構想をうかがったんです。それで後日、本当に何もないころ、開発予定地に案内いただいたんですね。山と田んぼしかないところに看板だけが立っている。そこで前田さんが「ここにレストラン。ここにヴィラ。ここでイベントをして、人が交流して……」ってお話をされていたんです。

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普通に聞いたら「本当にできるのかな?」となると思いますよ。でも僕は前田さんの決断力を知っていたので、絶対実現するな、と思いました。私も投資銀行で不動産金融の仕事をしていたので、地域に対するファイナンスで何か役に立ちたいと思いがあったんです。それで、この開発に関わりたいと強く思って、ちょこちょこお手伝いしています。

前田:ツアーでもご協力いただいていますよ(笑)。

横尾:『ヘルジアン・ウッド』の魅力を伝えよう、ということで、ツアーで人を連れて行ったり、ファイナンスに関わること以外も気づいたらやっていますね。

糀屋:そのツアー、僕もお世話になりましたね(笑)。

(取材・藤井みさ 構成・斎藤貴義)

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