チベット尿診1

チベット尿占

チベット医学 尿診 2  イェシュー・ドゥンデン著
個々の病の尿診
 個々の病の尿診では、熱性病と寒性病という二つのテーマを扱います。(すべての病は寒性病と熱性病の二つに分けられる)

 熱性病があるならば、尿は赤か黄色で、濃厚で悪臭を放ち、長い間湯気がもうもうと立ち昇ります。そして、ごく小さい泡がたくさん尿の表面に現れ、たちまち消え失せます。脂っこい浮膜が尿の表面に浮かび出て、厚い層をなします。尿全体に尿タンパクが漂い、容器の中心に向かって集まろうとします。
 また、熱性病ならば、尿の温かみが散り、湯気が着せ失せる前に、尿の色はすでに変わり始めています。尿が完全に冷めてしまうと尿は濃厚になり、色は黒ずむか、茶色がかります。

 寒性病ならば、尿は濃厚というより、薄めで、色は薄いか、青みを帯びています。湯気も匂いもごく薄く、ほとんどありません。泡は大きく、浮膜や尿タンパクはごく薄い層をなしているか、ほとんどありません。また尿の温かみは散り、湯気が完全に消え失せてから、尿の色が変化します。尿が完全に冷めきってしまうと、ほのかな青みを帯び、薄い液体状になります。

 熱性病と寒性病が組み合わさると、例えば、体の内部に熱性病があり、表面に寒性病があるか、体の異なる部分に熱性病と寒性病が同時に存在するならば、尿は青みがかった透明感ある色で、尿タンパクの厚い層があります。もしこうした特徴が健著ならば、熱性病はごく軽く、逆に内部に、本質的に深刻な寒性病があります。色からは寒性病と判断されるにもかかわらず、熱性病のしるしである尿タンパクの厚い層があるゆえに、これは誤診を招きやすいケースです。

 逆に尿の色がオレンジ色でありながら、ほとんど皮膜も尿タンパクもないケースもあります。これは熱性病のように思えますが、尿タンパクや浮膜の少なさから実際には深刻な寒性病に冒され、支配されているのです。
 前述のように、熱性病ならば尿の色はすみやかに変化します。色の変化があとで起こるか、色から判断するに寒性病以外考えられないにもかかわらず、色の変化がゆっくりとでなく、すみやかに起きるならば、どちらも「隠れた熱:の病があることを暗示します。

 最初のケースでは尿は基本的に熱性病でありながら、色の変化がゆっくり起こります。二番目のケースでは、尿は基本的には寒性病でありながら、色の変化がすみやかに起こります。いずれのケースにおいても、「隠れた熱」の病があることを示します。これも誤診を招きやすいケースです。
 基本的には熱性病を示しているにもかかわらず、泡がまったく見られないならば、熱が腹部にー体の奥深くに沈み込んでいることを意味します。また、尿が基本的には寒性病で、しかも泡がまったく見られないならば、寒性病がすでに慢性になっていることを意味します。

 尿診で、基本的に熱性病を示し、厚い脂っぽい浮膜の層が出来ているならば、身体の七つの構成要素(滋養分、血液、筋肉、脂肪、骨、骨髄、クワ)が溶解し始めている証拠です。身体の構成要素が失われるため、結果として貧血を病み、健康を失います。尿が寒性病の兆候を示していながら、脂性の浮膜が見られるならば、消化問題をかかえた寒性病です。患者はバター、オイル、脂肪を消化できないでしょう。

 一般的にルンのからんだ熱性病は誤診を招きやすいと言えます。ルンのからんだ熱性病が慢性になると(虚熱)、血液の病がからんだ熱性病と誤診されるおそれがあります。ルン、ティーパ、ペーケンの三体液が同時にからんだ病(茶色いペーケン病)もまた、リンパ(黄水)の病ー例えばリウマチに誤診されがちです。前者においては尿の色が赤いため、後者は尿の色が茶色がかっているために誤診を招きます。

 腎臓、肝臓、脾臓の病も誤診されがちです。なぜなら、いずれも病も尿は赤くなるからで、これら三つの病は誤診されやすいのです。

 また青みを帯びた尿は、「隠れた熱」の病とも、ペーケンとルンの乱れの交じった寒性病とも診断できるため、誤診を招きやすいと言えます。
 以上は誤診を招きやすいケースです。医典は以上のようなケースについて、読者に「注意深くあれ」「もっと詳しい、大部の注釈書を学習することによって、それぞれの病の尿の特徴を知るように」と呼びかけています。

死に際の患者の尿
 死ぬ間際にある患者:臨死患者の尿の特徴は、血のように赤く、腐った革のような悪臭を放ちます。医師がなにがしらの治療をほどこしても、病気がよくならず、尿の悪臭はひどくなるばかりなら、患者は熱性病が原因で死ぬでしょう。

 尿タンパクが尿の中で静止し、変化することがないなら、その患者は死ぬでしょう。また尿の色が青みを帯び、湯気も昇らず、匂いも味もなく、治療をほどこしてもなんら効果が現れないならば、寒性病で死ぬしるしです。

 尿に多くのすじがあるならー小さな波紋があり、青みを帯びているなら、ルン病で死ぬしるしです。これはホウレンソウをゆがいたときの水面の波紋とよく似ています。これと同じ波紋をもち、黄色かオレンジ色を帯びているなら、ティーパ病で死ぬしるしです。また同じ波紋で、赤みを帯びているならば血液の病で死ぬでしょう。やはり同じ波紋で、尿が古い凝固したミルクのようなら、ペーケン病で死ぬしるしです。これらのどのケースでも、尿にさまざまな色の層ができています。

 また、同じように多くのすじのある波紋で、ちょうど黒いインクを水の中に流し込んで分離したような感じのパターンがあります。このように尿の色が黒ずんでいたなら、中毒死のしるしです。それから、腎臓表でなく、腹部に水がたまるケースは、ルン、ティーパ、ペーケンがすべからんだ三体液の病によって死ぬしるしです。

鬼神の影響を受けた人の尿
 人にあだなす悪しき鬼神にまつわる尿診です。患者は大きな容器をもってきて、低いテーブルに置き、持ち上げることなくその中に排尿します。患者が排尿した場所が東と定められます。医師は一晩それに手を触れることなく放置します。その間に、何かの模様が尿に現れるのです。どういった種類の鬼神が患者に害を与えているか判じるために、亀の甲羅の模様が用いられます。亀の甲羅は次のような項目に分かれています。

男性患者
亀の腹
東ー亀の右側、南ー亀の頭、北ー亀の尾、西ー亀の左側
鬼神の場所
南東ー天衆、東ー人間、北東ー鬼神、南西ー墓地、西ー家庭、北西ー畑、南ー父方の祖先、中央ー自分自身、北ー子供と孫

女性患者
亀の甲
東ー亀の左側、南ー亀の頭、北ー亀の尾、西ー亀の右側
鬼神の場所
南西ー天衆、西ー人間、北西ー鬼神、南東ー墓地、東ー家庭、北東ー畑、南ー母方の祖先、中央ー自分自身、北ー子供と孫

 容器の尿にこの亀甲模様をあてはめて観察します。亀甲模様の九つのマス目をそれぞれが病害の源ー天衆、人間、花場の悪鬼、外部の畑の悪鬼、母方・父方の祖先、子孫、自分自身を示しています。

 尿の表面を分析するための基盤となる亀甲模様を用いて、医師は、(1)九つのマス目のいずれの箇所にどのような模様が現れるか、(2)尿の色の速やかな変化・緩慢な変化・時にはまったく変化しないさまーを九つのマス目でそれぞれについて観察します。かたマス目それぞれについて魚の目に似た模様や、ヒビのような線、泡の形成を観察します。

 尿がまだ熱いうちから完全に冷めるまで、こうした現象をチェックしなければなりません。といっても医師がチェックする前に尿が冷めてしまうこともめずらしくはなく、その場合、医師はすでに冷めてしまった尿をチェックします。

 尿の入った容器に衝撃を与えないことも大切です。医師が間違って容器を揺らしてしまったなら、それまでの診断過程が無駄になってしまいます。

 実際にどう診断するかというと、泡ができるにあたって、他のマス目はみ
な同じようなのに、「天衆」(自分の信仰する神や守護神)のマス目だけが異なるならば、天衆が祟っており、自身か身内の親戚が遠く去るしるしです。しばらく天衆をあがめ、なだめるなら、こうした祟りがやむこともあるかもしれません。いずれの場合においても、なにか悪いことが起きた場合、どのマス目にいかなる現象が生じたかで、なにものがそれを引き起こしたかがわかります。

 人間に対応するマス目に特別なサインが生じたならば、人間の愛、恨みを抱いて死んだ男女が鬼(テポとテモ)となったものの祟りです。鬼神に対応するマス目に特別なサインが生じたならば、この世界の始まりとともに存在する鬼神のかしらによる特別な祟りであることを示しています。 

 祖先に対応するマス目に特別なしるしが現れるなら、二つの可能性を意味しています。
(1)患者が入手したなにかの品ー貴重かつ高価なものであることが多いーに霊がとりついており、持ち主に祟る場合 
(2)呪いに長けた呪術師に操られた霊が祟っている場合 です。
子孫に対応するマス目に特別なしるしが現れたならば、父方母方を問わず伯父か伯母にまつわる霊の祟りであることを意味します。
 
尿は鏡のようなものです。鏡が姿を反映するように、尿もまたすべての病を映し出すのです。

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