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見えないと言う事 ②

定期的に近くの温泉に行っている。そこには"薬石湯"なる岩盤浴があって岩盤浴をするスペースと横になれる休憩スペースが存在する。

ここが何とも居心地が良く店からも家からも近くアクセスもとても便利なのである。

そして何よりここに来る最たる理由がもう一つある。それはここでは"何か"が起こるからである。
前回(「見えないと言う事①」参照)書いたのだが、自分はかなり目が悪くいつもメガネをしている。メガネを外すと0.01以下と言う壊滅的な視力。ぼやけてしか見えず何も見えないし、誰なのか顔の認識も出来ない。当然、風呂に入る時は外すので、何もかもが手探り状態。だからこそ行き慣れている所では無いと勝手が分からないと言う不便な体なのだ。

もちろん岩盤浴中も時計が見えない。なので、自分の心の中で「1、2、3...」と数を数えて10分1セットを3回行うと言う風に決めている。
その見えない中でジジイ達の会話を盗み聞きすると言う密かな楽しみがある。そして前述した様に"何か"が起こるのだ。
前回ジジイ(?)達の会話で「今日バスケあるんやろ?」と言う謎の会話を聴いてニヤニヤしたり、肝を冷やしたり一喜一憂した。

今日もいつもの如く夕方くらいに行ったら何故か平日なのに多くてジジイが一杯いてジジイだらけだった。

薬石湯に入る時は専用の作務衣を着て入るのだが、パッと岩盤浴スペースに入ると何人か先客がいてぼんやりとしか見えないが裸のジジイがいた。

いや!ルール無視やん!!と思ったが、こう言う時は目が悪くて便利だと思う。ジジイの裸は見たくも無い。セルフモザイクが掛けれるので便利である。そんなこんなで数を数えていると次は何かが聞こえてくる。

「ふぅ〜」「ゔあぁぁぁ〜」「コォーー」「よいしょー」「あいたたたたたぁぁぁー」「あちぃぃぃ」

うるさいっっっ!!!!
今何分経ったか分からんくなるわ!!!
こっちは時計が見えんけ数かぞえよんよ!!!
岩盤浴やけそりゃあ熱いやろ!!!!
黙って入れよ!!!!

あちらこちらからジジイのうめき声が聞こえるのである。もういっその事これらを一つ一つサンプリングしてトラックを作りたいまである。サウナラップ。

そんな事を1人で妄想しながら再び数を数えて10分1セットをこなしていった。そうして10分2セットまで終わる頃には休憩スペースにも岩盤浴スペースにも誰もいなくなってようやくゆったり集中して入れると安堵した。全ジジイがはけた。

そして、最後の1セットに入ろうと岩盤浴スペースに入ると寝転がるスペースなはずなのに体育座りで座り込んでいるジジイ(?)がいた。目が悪く視力が0.01以下の壊滅的視力なのでほぼほぼ見えない。多分若いジジイだろうなと勝手に決めつけた。

そのジジイ(?)は岩盤浴スペースの真ん中付近に居座っていた。自分は1番奥の方に行こうとそのジジイ(?)の前を通り過ぎようとした。

「あぁぁぁぁ〜」「あちぃぃぃぃ〜」「あついねぇ〜」「たまらん🥵」

うるさいっっっ!!!!
そりゃあ岩盤浴やけあちいやろ!!!
しかも今度は見ず知らずの自分に話かけてくるタイプの狂人なジジイ!!!!!
黙って入れよ!!!!
あー!!!!めんどくせぇー!!!!!!

と池袋ウエストゲートパークのまこっちゃん並みに心の中で叫んだ。もうめんどくさいんで無視しよう。そう心に決めてタオルで顔を覆い「もう寝ますから話しかけないで下さい」と言う意思表示をした。

それでもそのジジイ(?)は相変わらず、
「あちぃぃぃぃー」「あぁぁぁぁー!!」等と言っている。もうここまで来ると逆に面白くなって来てタオルの下でニヤニヤしていた。

これはまた良いネタがあった😏どこぞの知らんジジイ(?)、ネタ提供してくれてありがとー!!!!!!!
と心の中で狂喜乱舞していた。

すると、「けいごくん!」と自分の名前を読んでいる声がどこからともなく聞こえて来た。

この今の状況と自分の名前を呼ばれた状況が全く一致しなさ過ぎて脳が処理しきれなかった。
これは夢なのか?!あれ?今寝てるんだっけ?起きてるんだっけ?!熱さで頭がイカれたのか?

鈴木清順の作品の様な白昼夢の様な状況に全く理解出来なかった。

しかし、その後も何度も呼ばれた為、タオルをバッ!っと取って周りを見渡してもさっきのジジイ(?)しかいない。

すると、またそのジジイ(?)が「けいごくん!!」と呼ぶのである。怖い、、、やはり、鈴木清順の世界なのか?ここは。パラレルワールド?!三途の川?!?この岩盤浴は実は、とうの昔に無くなっていて今は廃墟なのか?あれ?そう言えばここまでどうやって来たっけ?むしろ、自分は何かのタイミングで死んでしまったのか?もうこの世には存在しないのか?いやでも、やっぱり車でここまで来た、、、様な気がする、、、いや、違うのか、、、

もう自分がここまでどうやって来たのか?自分は一体何者なのか?分からなくなった。
完全に自分を見失ってしまった。。。

そんな唖然としている自分にそのジジイ(?)が一言。

「ナカイです。」

ナカジュンだった。

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