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里歩を巡る数奇な状況について

7.25 スターダムの会場に突如現れたのは、今や世界を飛び回る里歩だった。しかし、その入場曲を聞いても今ひとつ掴めない表情の観客の中、フリーランスになった彼女は参戦からいきなりハイスピード王座への挑戦が決まる。それは急転直下の出来事だった。

彼女については、これまでも様々な記事の中で語ってきたが、改めて説明するのであれば、現在22歳。アイスリボンでのデビューは13年前、小学校3年生の時だ。翌年には同じく小学生だったラム会長と試合を行っている。このアイスリボンというのは特殊な団体で、どんどん若い子が入ってこなくなっていた当時のプロレス業界に不安を覚え、体操教室の形から少しずつプロレスを教えデビューしていった。そのまま師匠さくらえみと行動を共にし、今年ついにさくらの元を離れ、フリーランスとなった。

彼女のキャリアにおいて、DDTとの関係は外せない。アイスリボンは厳密には女子プロレスの団体ではなく、様々な要因によりさくらえみに呼び出されて手伝わされた男子レスラーなどが試合をすることもあり、里歩は年齢もあるが、体格差やパワーの差のある相手をどう倒すのか、ということを学んでいった。その関係性はDDTにも持ち込まれる。

DDTの夏の風物詩ビアガーデンプロレスのケニープロデュース興行で、同じ小学生の男子レスラーミスター6号と対戦したのをきっかけに、あのゴールデン・ラヴァーズ、飯伏、ケニーをタッグで破ったこともある。彼女が使うランニングダブルニーはHARASHIMA直伝の蒼魔刀であり、幼き頃から使い続けている至宝である。

だから、彼女がAEWのメンバーとして選ばれるのは必然だった。小柄でアイドルとしての華があって、それでいてハードヒットでタフ。まさしくケニーの考える独創性溢れるプロレスそのものだからだ。

フリーランスになった里歩はその直後からAEW、台湾、フィリピンと精力的に飛び回っていた。これまでにもアメリカ、ロンドンなど様々な国で試合の経験があり、どこに言っても高い関心をもらえる様を知っていれば、十分海外で活動できると思っていたが、突然フリーダムに現れたのだ。

13年に及ぶキャリアだが、実は女子プロレスの他団体と絡むことがほとんどなかった。特に我闘雲舞として活動してからは、活動の中心がタイになったりしたこともあり、彼女がどんな選手なのか知らないスターダムのファンもかなり多かったようだ。

だが、彼女にとってもスターダムにとっても、最高のタイミングでこの機会は訪れた。スターダムは今や世界にとってもWWEへカイリ・セイン、紫雷イオを送り込んだ団体として知られている。AEWに参戦した里歩が上がるとなれば、その注目度はさらに上がるだろう。AEWといえば、里歩が前回対戦した相手、ビー・プレストリーも同じ日、ベルトを防衛してみせた。

彼女を巡る数奇な状況というのはそれだけではない。スターダムはROHと提携を結んでいる。外国人選手の招聘で互いに融通を効かせているといい、新日本プロレスのMSG大会にスターダムの岩谷が出た時には、ROH側がビザの手続きなどサポートをしてくれたという。所属選手ではないにしても、ROHとAEWの関係は曲がりなりにも良好とは言えない状況で、里歩はスターダムを日本での戦場へと選んだというわけだ。

さらに、時同じくして、先日のWWE日本大会の際に、トリプルHが"ビジネスのため"に来日していたといい、ここでスターダムとドラゴンゲートの幹部と会談をしていたという話が出ている。当然、WWEとしては現在トップロスターを2人も排出した団体なわけで、今後の選手育成なのか、提携なのかを考えてのことも予想出来る。WWEはNXT UKに続く海外育成拠点の1つに日本が候補になっているとも言われており、何らかの形でスターダムが関わる可能性もある。そんな団体に上がっていれば、里歩がWWEの目にも留まることがあるだろう。

スターダムでこれまで当たったことのない様々な選手との試合も楽しみだが、しかし彼女の進めた一歩はまさしく今、日本の女子プロレスが直面しようとしている様々な変化の渦そのものなのだ。

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