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7.15 DDT大田区総合体育館 絶対主人公の功罪

全席無料、6時間に及ぶ興行が終了した後、様々な意見がSNSを駆け巡る。DDTのビックマッチが長丁場になるのはいつものことなのだが、今回特に飛散物もあり休憩が2回入ったり、人数の関係で試合数や内容も色々だった。その中でも目立っていたのはメインKO-D無差別級王座戦の竹下幸之介vs遠藤哲哉に関する話題だ。

互いに20代、若いライバル二人による王座戦というのは、そのまま団体の未来と言える。その他の団体を見ても、王者の反対側はキャリアの長い選手であったり、なかなかないシチュエーションではある。さらにいえば、両者共にフィジカルがとにかく良く、アスリートである。

しかし、試合後、王者遠藤の陥落を嘆き、竹下を揶揄するような発言が多く見られた。遠藤は無法グループDAMNATIONの一員であるが、DAMNATION自体が例えるならばロス・インゴ・ベルナブレスのような反則も異としないながら高いファン人気を持っており、毎年開催されるDDT総選挙のユニット部門で2年連続1位という状況で、体を作り込み実は真摯にプロレスに打ち込む遠藤の姿勢というものに惹かれているファンが、正直想像以上に増えていた。

さらに、王者になった遠藤は、これまでベルト戦線に絡んでこなかったようなDDT内部の人間を次々と挑戦者に指名し、名勝負を繰り広げてきたのも遠藤の見せるDDTの未来に期待をされている理由だったのかもしれない。

一方、竹下というレスラーは、自ら絶対主人公の道を歩き続けてきた。偏屈的なプロレス求愛者であり、何をやらせても苦手な事が無いレベルの天才的なアスリートである。中学で陸上四種競技、高校でプロレスデビュー、大学は日体大というエリートだ。

竹下のプロレスは勝つためのプロレスである。隙がない。勝ち負けを競うのだから、ウィークポイントを狙って行く厳しさは当然だ。その上で自分が追い込まれても乗り越えれる精神力、身体力を兼備えている。竹下が所属するチームはALL OUT。トレーニング用語で限界状態を引き上げて行くというような意味合いを持つのだが、まさしく体現している。

試合は一方的に終わったわけではない。だが、王者遠藤ですら絶対的な勝ち目が見えたような試合だったかというと、難しかった。終わってみれば、竹下の絶対主人公なプロレスだったというわけだ。

竹下はDDTの多様なプロレス観を愛していると言う。ファーストキスは地元大阪ファン時代に味わった男色ディーノだし、若手の頃は様々な先輩に影響を受けてきた。しかし、どうも見ていると、DDTの多様なファンからは竹下は受け入れられていない気がするのである。

DDTというのは、どうして歪んだ人間の集まりであり、持たざるものの集まりだった。いわゆる市場や駐車場でプロレスするような、どの付くインディー団体に端を発し、学生プロレスの人間や文化などを巻き込みながら拡大してきた。成れの果てが、試合のポイントをパワーポイントでプレゼンする金物工場の社長マスクマンやゲイレスラーといった人材だ。

だが、その中に戦いがないわけではなく、黎明期から総合格闘家でもあるスーパー宇宙パワーこと木村浩一郎に全員がボコボコにしごかれるのも見てきたし、HARASHIMAの狂気にも似た厳しい攻めや鍛え方、飯伏やケニーの天才的な閃きと身体能力など、激しい戦いを繰り広げてきた。そういう意味で言えば、竹下はその先の究極の生命体であるわけだが、言うなればオカダ・カズチカの存在に近い。若くて、強過ぎる。その上で、DDTの難しさは新日と違い、評価軸が多様故に認められることも難しいというところなのだろう。

来年6月にさいたまスーパーアリーナでのビックマッチを発表したDDTにとって、王者となった竹下がどんな戦いを見せていくか、というのは今後1年を問われるも同じだ。もっとDDTの中で絶対的な信頼を勝ち取っていくのか、そこを吹っ切って外の人間にDDT竹下のプロレスを伝えていくのか、これは竹下自身の行く末だけでなく、DDTそのものの行く末にも繋がると言える。王者はこれからどんな未来を描くのだろうか。

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