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10.14 新日本プロレス両国 新日の強さとは歴史そのものなのかもしれない

両国国技館 9,573人満員。まだまだ売れる席はあるが、客席はほぼびっしりと人で埋め尽くされているような状況。ここ数年、女性ファンだけでなく海外から来たであろうファンの姿も多く見られる。

この一ヶ月ほどAEWや海外の情報に注力していたから、オンタイムで新日の興行を見るのは久しぶりだった。とはいえ、自分なりに気分を作ろうと思ったのか、午前中ジムでサイクルを漕ぎながらアポロ55vsゴールデンラヴァーズの一戦を見た。

モクスリーが飛行機トラブルで来日が出来なかったのは仕方ないとして、ベルト返上というのは今後のモクスリーの起用にも関わりそうな匂いがしつつ、どうなることかと試合を見ていた。

気になるのは、どの試合でも場外戦をすること。鉄柵の向こうに行く行かないこそあれど、ほぼ全ての試合で場外での攻防が発生する。ある意味、定番の流れと化している。

あとは、外国人選手の多さ。さっきの言葉で言う定番の流れを崩していたのは、オスプレイとファンタズモしかり、ジュースとアーチャーしかり。AEWに感じている最新トレンドのようなものを感じていた。

メインが終わった時に、気付いた。新日本プロレスの強さとは歴史そのものなのかもしれない。 

 

【多様化する新日本、裏腹な強さ】

興行の中で感じたように、今の新日はかつての姿とは異なり、海外のプロレスから新日本に流れてきた選手が非常に多い。新日本自体の海外志向もそうだし、選手自身も新日で戦うことを選択してこの図が出来た。

90年代ジュニアは外国人選手も含めて新日本というバリューを構築していたように思うが、いつからかそれが団体全体の構図にまで広がってきたと言える。いつの間にやら社長まで外国人に変わったわけだ。

今年のヤングライオン杯は野毛の若手だけでなく、ロス道場の面々など海外で教えを受けた有望な若手が加わり、実際にカール・フレドリックスが優勝。成田は武者修行の選択としてロス道場へ行った。

世界トップのハイフライヤーであるオスプレイや独自のレスリング観を貫くザックが自身の価値を高めるのはWWEではなく新日本だと繰り返し言うように、世界を渡り歩く彼等なりの新日本のリングというものが存在しているとも言える。

それと同時に、モクスリーの存在や昨日のジュースとアーチャーが見せたハードコアなスタイルというのは今まで新日になかなか見られなかったスタイルとも言える。ある意味、アメリカンスタイルとも言うべきだし、テーブルクラッシュのシーンで思わずECWコールしてしまった自分はオールドファンなのだろう。

そんな自分も、日本人選手の試合運びを見ていると、代わり映えしない何かに不安を覚えていた。単純な試合のハードさ、アスリート性ではなく、何かが欠けているように見えてしかたなかったのだ。

しかし、メインのオカダvsSANADAでその疑念が払拭したのである。


【絶対王者の殻が破れた瞬間】

オカダは強い。正直あまりにも強過ぎて、試合前にSANADAが勝って、1.4にSANADAと飯伏の方が何が起きるか分からないワクワク感があるんじゃないかと話してた程だ。

棚橋の王座戦の数を超えたということは、新日本の歴史の中で最も強い王者といっても過言ではない筈だ。

だが、この一戦は多様化する新日本の現状や、今までに新日のリング見られなかった光景も全てまるっと飲み込んで、強い奴がIWGPヘビー級王者なんだということを証明する一戦となった。

前々からこのマガジンでも言ってるように、オカダは闘龍門の出身で後に新日本に弟子入りする形で入ってきた。SANADAは全日からW-1を経由して、新日本に参戦してきた。個人的には二人ともデビューの時から見ていて、思い入れのある二人だ。

そういう意味では、この二人も厳密には新日本の出身ではない。だからこそ、新日本の強さは、歴史の強さだと思ったのだ。SANADAが出す技は彼の辿ってきた様々な変遷の中にある。ラウンディングボディプレスもオコーナーブリッジもスカルエンドも彼がどんなレスラー人生を歩んできたかを知っていると見えてくる。多分、ケンドーカシンがいたら、無言で無我のTシャツを渡してきてイジってくるはずだ。

オカダも実は要所要所にその片鱗を見せる。コーナー対角から走り込んでの腹部へのショットガンドロップキックや、コウモリ吊りの体勢からのネックブリーカーなどかつての闘龍門を見ていた人ならニヤリとするし、最近見ないがレッドインクもかつて習っていたジャベからインスパイアされたと明かしている。

心技体全てが、今、日本のみならず世界レベルでも最も優れているであろう二人の戦いは、随所にこの二人が辿ってきた歴史を重ねながら、幾度もの対決の中で見てきた相手の技を読み、スカし、自分の勝ちを狙いに行く高度なゲームと化した。プランチャやドロップキックなどの立体的な攻防も確かにあったが、リスクを犯してでも相手にダメージを与えるという部分で合理性があった。

終盤、何度目かのスカルエンドを狙ってオカダの攻撃を肩の上で堪えたSANADAだったが、オカダはなんとそこから前方に落としてのツームストンパイルドライバー。その瞬間、どこかで見覚えがあると思って調べたら、持ち上げ方こそ違うものの、形はタルドリラーだった。咄嗟の判断か、狙っていたのかは分からないが、オカダは図らずもまた自らの歴史をなぞっていた。

試合が終わり、1.4のメインで対戦する飯伏を呼び込んだ。新日本の対極で生まれ、新日本に導かれた男が目の前に立った。1.4でIWGPヘビーへの挑戦、1.5でIWGPインターコンチへの挑戦をぶち上げた挑戦者に立ちはだかる絶対王者の姿は新日本を守る立場だった。観客はその言葉を全力の歓声で受け入れていた。

かつては道場出身のレスラーがそこに並び、強さを競ってきたのが新日本の光景だった。あるいは、彼等と外敵という構図の中で道場の強さというものを誇ってきた。その変遷の中で、今、新日本のリングにある戦いの本質は変わらずに歴史を重ねて来たこと、自らのルーツの強さを磨いたものが、このリングで輝いているのだということを、この一戦で深く思わされたのである。

 

【その歴史に意味がある、ということ】

見終わって、歴史というキーワードを考えた時に気付いたのだが、メインであのような、新日本における戦いの本質を捉えた攻防が行われたからこそ、ライガーと鈴木みのるの一戦の意味合いがより重たく見えてきた。

この話は、13日に同じく両国国技館で行われたONE Championshipでの戦いに際し、みのるがAbemaTVのインタビューへこのように応えている。

自身も総合格闘技の世界に身を費やしてきたみのるだが、その歴史というものを考えた時に同じところに辿り着くと語っているのだ。

その同じところとはどこか、新日本のリングに他ならない。そして、そのリングの上でかつて同じ師の下で研鑽した男と再び向かい合う。新日のここまでのシリーズの中で二人が色々なやり取りを見せてきた。しかし、それ以上にこの映像でみのるが語ったことは雄弁ではないだろうか。

今の若い選手がやるような間でもなく、海外から来た才能溢れる連中のハイスパートでもなく、どこかジリジリとした、しかしこれ以上無い緊迫感の一戦。上半身を露にしたバトルライガーだが、要所の動きにかつてのキレがないのは隠し切れない。それでも、普段のリングでは見せない柔術的なテクニックが見え隠れするし、みのるもまた普段の攻防では隠し持つナイフを見せる。最後、リングに大の字になるライガーを前にしたみのるの行動に、見ていた人の感情が揺さぶられた。

これが歴史の強さでは無いだろうか。ストロングスタイルとは何か、この答えは恐らく未だに存在しない。単純に試合におけるスタイルの話ではない。このライガーとみのるの一戦のようなものはかつてストロングスタイルと呼ばれたが、これだけがストロングスタイルではない。つまるところ、歴史の強さなのではないか。

例えば、中邑がキング・オブ・ストロングスタイルと呼ばれているが、現実にあんなにクネクネしたものは新日本の歴史の中にはいないし、アーティスティックな要素は今までなかった。レスリングの素養、総合格闘技の素養、プロレスへの異常な愛……そういう中邑自身の歴史と探究心の末が新日本の歴史と重なることでストロングスタイルを生むのではないだろうか。

 

WWEは大きな岐路に立たされている。彼等が守り続けてきた大型選手とトラディショナルなレスリングという文化は、90年代新日ジュニアやUインターという文化で進化したアメリカインディー、00年代以降のROHを代表する選手を取り込むことで崩れ始めている。ブライアン・ダニエルソン、サミ・ゼイン、ケビン・オーウェンス、AJスタイルズといったニューエイジのレスリングが今やトップを締める。さらにNXTを作ったことで、その流れが加速しているといっても過言ではない。

AEWは00年代ROHの流れから生まれた新たな選択肢である。WWEや新日ではない場所で生まれたニューエイジの歴史の物語を丁寧に拾い集めている。なかなかその選手自身のストーリーを全体の中に組み込めない大きな団体に比べて、彼等の歩んだ歴史や関わった人の繋がりをどんどんリンクさせていくことで、これまでにない広がり方を見せている。

昨日のオカダとSANADAの試合を見るまで、この未曾有の世界的な流れの中で新日本がどのようなものを見せていくのか疑問視していた。しかし、はっきりと分かったのだ。新日本は新日本のリングの上で戦いを見せることそのものが強みになる。そして、オカダという王者は興行の最後にそれを見せることの出来る王者だということだ。

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