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プロレスから見るグローバリズム

AEWは次の目的地、日本にはじきに戻る。

ケニー・オメガがレスリングオブザーバーに語ったインタビューの一遍である。昨日お伝えしたように、ケニーは新日本を離れる事を選んだ。このレスリングオブザーバーのインタビューの中でも相当様々な思いがあった中で、それを選んだということは見て取れる内容であった。

しかし、同時にそれは今の日本が世界から見た時にどう見えているのか、どう戦わなければいけないのか、ということもここ一ヶ月のプロレスの流れから読み取れると思ったので、記事にしようと思う。

【新日とWWEとAEW、その差は】

ケニーは今回、選択肢にあった三団体の交渉の姿勢に関して細かく語っている。AEWを選んだのは、当然友人達がいること、クリエイトをコントロール出来ること、レスリング以外の多くのメディアとの仕事をえらべること(ゲームやドキュメンタリーなどケニーは多くのことをしているだけに)というのが大きな要因である。

WWEは、彼がしたいこと、望むことに対して、最大限の敬意を払いながら、交渉をしてきたという。知っての通り、クリエイティブに関しては、100%を握る事が出来ないのがあの団体だ。それでも、世界で熱望され、ついにタイミングが来た最も望まれる男を手にする為に、あの手この手を用意したことは想像に容易い。

中で、新日本が提示したものは、厳しい評価を下している。金額面はもちろんのこと、クリエイトやその他のオプションに関しても。ケニーはメイ社長の手助けをしたかったという気持ちを表してはくれたけど、カンパニーとしてそれに応えれなかったというところか。

これは単純に企業規模、企業価値の話ではなくて、国際競争の波にぶつかった時にどうやって交渉のテーブルにつくべきなのか、というところになる。

新日本というのはこれまでずっと新日本にいた人間を厚遇し続けて来た、オカダですらメキシコでデビューしていたものの寮には入り直している。他所から来た外国人がなかなか上にいけないのを打ち破って来たのが、外から来たケニーだが、結局交渉になった時に例外を崩す事は出来なかったのではないか。

世界中を飛び回り、流動性が高くなった状況の中で、それまでの日本の、1つの会社でまかり通ってたやり方で彼等と交渉することは難しい。新日本のリングが特別であると、レスラー達は思ってくれてはいるが、例えば地方興行のスケジュールの問題や遠い国に来るという負担などネガティブな要因を踏まえた上で、どこまで人材の取り合いをしていくかは今後、加速化することになるだろう。

【AEWが加速させるネットワーク】

これまで国際的な繋がりというのは大きく4つの形で考えれば良かった。

・最も巨大で、世界中に放映されているWWE

・メキシコの国民的スポーツ「ルチャリブレ」であるCMLL、AAA

・世界戦略を押し進める新日本プロレス

・00年代に入り、復権を目指すイギリスマット

ここにROHなどアメリカインディーなどの情報が少し混ざるだけで、どういう選手がいるのかを大まかに把握出来た。しかし、昨日のイベント内でも明かされたが、AEWの戦略はこれをさらに複雑化させていくようだ。

・メキシコAAAとの提携

新日本プロレスを見ている人間はCMLLの存在は知っているだろう。それに肩を並べるもう1つの団体がAAAであり、時にはこの2団体の中でトップ選手が移籍するような事態も起こる。

アメリカマットで言えば、ルチャアンダーグラウンドという形でAAAの選手を目の当たりにする機会が多かったが、AEWはこの層をかっさらう事になったと言える。

さらには、AAA出身のフリーエージェントであるペンタゴンJr、フェニックスの兄弟とヤングバックスの対戦も決まっている。何度もアメリカインディーのリングで対戦して来た両者の関係が今後も続くのだとすれば、これは大きな流れとなるだろう。

・中国OWEとの提携

前回、AEWの記事でも触れたが、昨日のイベントでついにOWEを代表してCIMAがイベントに現れた。これまで様々な団体が中国でのプロレスの発展に尽力してきたが上手くはいかなかった。しかし、OWEは中国武術側から発展したことによって、急速にその力を強めてると言える。

AEWがOWEと手を結んだ事で、これまで誰も取れなかった中国での覇権を一気に掴んだとしたら、勢力差はひっくり返ってしまうのではないだろうか。

これまで国際競争といえば、独自のネットワーク、アーカイブで世界中に放映することを強めて来たWWEだったが、AEWは様々な国、団体との新しいコネクションを作る事でこれに対抗しようという流れになっているわけである。

【一方で求められる日本独自のコンテンツ】

しかし、日本は悲観をし続ければいいというわけではない。例えば、この5年間でWWEで活躍する日本人レスラーの数は限りなく増えている。アメリカでWWEなどに影響されている東アジア出身の人間は多いはずなのに、日本でキャリアを重ねて来た日本人が登用されているというのは、単純にキャラクターとしての日本人、東アジア人ではなく、経験や技術、独特のクリエイションが求められているというのは事実ではないだろうか。

試合運び1つにしても、日本のレスリングは特異的に発展してきたと言われている。かつ、90年代の日本のプロレスは今の世界中のファンに非常に多くの影響を与えており、その結果が今、新日に入ってくる外国人の若い選手だけにとどまらず、WWEのトップにいる人間にも見て取れる。

先に上げた他の大陸のプロレスとはまったく異なる存在であり、とにかくハードであることは視覚的にも伝わることから、目にした人の心を掴む要素というのが、日本のプロレスには存在しているということをおそらくメイ社長は確信しているのだが、まだ新日本の内部でそれが伝わりきっていないように思うのだ。

やっていることそのものの大枠を変える必要は無いが、3時間の興行の中で、映像だけを通してみた時に半分の試合で場外の鉄柵に振る展開があったら、それはどう映るだろうか。今、評価されているのは、選手の持っているソリューションなのだとすれば、KUSHIDAのように海外へ飛び出す選手は増えていくだろう。

【独自の繋がりを持つハードコアネットワーク】

ここまでで触れてこなかったグローバルなネットワークはハードコアレスリングの面々である。いわゆる凶器や有刺鉄線のようなアイテムを用いたデスマッチと呼ばれるのを主とした団体は世界中に存在し、いわばカルト映画やメタルバンドのファンのような強固な繋がりを形成している。

特に日本の大日本プロレスは彼等にとっては憧れの地であり、また世界のまだ見知らぬバカガイジンと血みどろの戦争をやっては友情を深めることを繰り返して来た。

先週、Twitterで話題となったのだが、ジョシュ・クレインという24歳の選手は彼の幼少期、親はドラッグに溺れ、虐待の最中にあったという。そんな時、日本のデスマッチに憧れ、彼のヒーローとなった大日本の選手の名前を心に刻みながら、自らの身に起こることなど彼等の苦しみに比べればどうってことないと耐え続けていたというエピソードが駆け巡った。

それを知った大日本側は即座に彼にコンタクトを取ったようだ。グローバリズムというと、大きな企業の競争という側面ばかりが注目されがちであるが、プロレスという場所から見ても、このように人と人が繋がって行くこと、伝わって行くこともグローバリズムにおいては重要なのではないかと思うのだ。

目の前の売り上げや、出来にばかり視線を向けがちだが、本質的な価値に目を向けて、それを届けることを続けて行く、拡大していくことにフォーカスしなければ、小手先のことで終わってしまう。そんなことをケニーのインタビューを読んで感じたのであった。

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