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アイドル運営本を読んでみた結果、マーケティングって大事だなと思った

『10年続くアイドル運営術~ゼロから始めた"ゆるめるモ!"の2507日~』を読みました。

ライターの大坪ケムタさんの文章は、なにせアイドルとプロレスで興味範囲がどっ被りしてるので、いつも読ませていただいております。大好きです。

ゆるめるモ!のプロデューサー田家大知さんが、割と赤裸々にここに至るまでに何が起こったのか、どういう心境だったのか、どんな試行錯誤をしたのかということを書いていて、同じく1000人規模に向かっていくアイドルにとってはバイブルのような本だと思いました。どうせなら巻末にQRつけて投げ銭にしたら売れた本のお金以外にもお金が集まりそうなのにな、と。

これを読んだ後、Youtubeで色々な動画を見ている時にフと思ったのです。結局、マーケティングって大事なんだな。

 

【見誤ったマーケティング】

この本の中にはゆるめるモ!が掲げるコンセプト「音楽でいま窮屈な思いをしている人を救う」という話が繰り返し登場する。また、同時に音楽性について様々なことをしてきて、どうあるべきかという経験に基づく現在の思想が語られている。

度々、日本はロックが強い、ロックフェスに出たい、アイドルというだけで断られる、という話になるのだが、この辺りの突き抜けなさがまさしくゆるめるモ!らしさだと感じたのである。

色々な音楽を行ったり来たり、ライブの規模が大きくなったり、地方でのライブを繰り返す中で、実体験的にマーケティングを行って修正をしている様が垣間見える。

まずは、ロックについて考えていきたい。

1.売れてる日本のロックはポップスである

確かに日本という場所は海外とは状況が違い、未だにロックが強い国ではある。だがその実、ポップスの才能を持ったロックが強いのであって、音楽的なアンテナで言えば、むしろ鈍い。耳馴染みの良い、それでいて、フックのある曲が作れるという大前提がなければ、売れない。

ロックの方が崇高とかではなく、自分の表現をポップソングに落とし込める才能なのだ。ここの感覚の違いが、今の日本のロックジャンルの中でも発生している。

先日、サマーソニックが開催されたが、今、売れてるバンドのファンと、海外バンドのファンの温度感の差が非常に激しかった。これがロックなのか、古臭い音楽なのか、喧々諤々の様となった。

その両方から叩かれたのが、女性バンドとアイドルなのだからやるせない。

2.アイドル?バンド?曖昧な認識

若い女の子がやってる=アイドル、ってなる、眼球の腐った人間が並んでるのが今のロック界。あと、何故か女の子がやってると可愛いかどうか見がち。

メイド服を着てメタルやる方のバンドは衣装で損をしていると思うのだけども、彼等にとってはBiSHの音楽性も、BABYMETALですらも未だに受け入れられないらしい。

3.ロックフェスに出れるアイドルとは

では、ロックフェスに出れるアイドルは、ロックだから出れるのだろうか。正直、そうは思わない。個人的意見だが、これには2つの要素が必要となる。

まず1つは、絶対的に売れている事。今年のロックフェスはどこも安定した集客を手堅く取るという手法に出ていた。ここで呼ばれるアイドルは集客が見込める事、それも万単位での集客が確実であることが必須だ。もう話題性のためにアイドルを呼ぶということはありえないと思う。

その次に、絶対的なストロングポイントがあること。モーニング娘。やももクロの強みは楽曲の認知度とあの時間の野外を踊り切る体力とあの数を相手にコントロール出来るパフォーマンス力にある。その上で、BiSHならアイナのあの声、BABYMETALならSU-METALの歌唱力などそれぞれ楔を打てるような何かを持っていれば、賛否こそあれどロックファンが認める部分もある。

 

ロックフェスに出れるようなアイドルになる、というのが如何に荒唐無稽な話なのかが分かるだろう。そもそもチャート上に現れてないだけで、今の業界的な話題で言えば、むしろHIPHOPカルチャーの盛り上がりの方が勢いが強い。そもそもロックが強いという前提自体がこの3年ぐらいで大きく変化しているようにさえ思うのだ。

 

【ブシロードに見るマーケティング】

さて、Youtubeを見てる時に気付いた、という話をしたが、見ていたのはこの動画だ。

これは、ブシロードの仕掛ける新たなプロジェクト「D4DJ」のユニットの曲である。声優×クラブサウンドという新たな試みを行っている。

ブシロードは元々、トレーディングカードゲームの会社だが、ラブライブ、バンドリ!、スタァライトなどここ10年以上のビッグヒットタイトルを何本も抱えている。その手法として、まず最初にマーケティングが存在しているのだ。

例えば、ラブライブは学校に通う高校生アニメにアイドルをモチーフとして持ち込んだ。その上で、ただのキャラソンではなく、実際の声優がアニメと同じように歌って踊る、ということがウリとなった。

音楽業界的にもCD売上げよりライブ事業の売上げが伸び始め、体験を売る重要性が注目され始めたタイミングで、ライブをするアイドルという文化をアニメに持ち込むことで、それまでアニメファンだけではなくアイドルファンなどより間口を広めれるのではないかという狙いがあった。

この思考方法は、バンドリ!では声優が実際にバンド演奏をする、スタァライトでは舞台とアニメが互いを補完するような構造になるなど複雑さを増していく。

この木谷社長のインタビューの中で、スタァライトの舞台が既存の2.5次元演劇の逆を行き、今まで定着していなかった男性ファンを取り込むという手法を取ったことが語られている。

これまでのヒットでも、どうやって既存の作品と差異を出すか、どの客層のお客さんが反応するか、どうやって未開拓顧客にリーチするかということをまず徹底的、かつ革新的に行ってきたことが分かる。

続けて、ビジネス・フォーラムに掲載されたブシロード傘下である新日本プロレスのハロルド・ジョージ・メイ社長のインタビューもマーケティングについて、非常に興味深い。

商品としてのどのような”体験”があるかを分析し、顧客ニーズがどこにあるのかということを深く追求している。それと同時に、本物であるということに最大のストロングポイントを見出している。新日本プロレスの歴史やレスラー自身にキャラクターを課さず、ハードヒットな試合をしているなど、海外のプロレスとは異なる、日本独自の文化に勝算を感じているのである。

 

【日本企業が陥りがちなマーケティングのミス】

マーケティングにおいて、日本企業が陥りがちなパターンは”プロダクト先行型”と言われている。つまり、作るものが既に決まった上で、それがどこに売れるのかということを後からマーケティングをして考えていく、というものだ。

さらに、これを3つのポイントに分ける。

・ニーズはあるか

・ターゲットは絞り込まれているか

・ターゲットのニーズと製品はマッチしているか

 

さて、これをゆるめるモ!に置き換えてみると

・ニーズ→「いま救われたい窮屈な思いをしている人、刺激が欲しい人」

・ターゲット→「アイドルファン、ロックファン」

・ニーズと製品のマッチ→「???」

という状況に感じる。

 

ニーズとしての設定は、間違いが無い。これは世界的にも流れがあり、先日紹介したビリー・アイリッシュもそうだし、チャイルディッシュ・ガンビーノのように強い社会風刺も音楽によって多くの人に届けられた。

これを日本に持ってくると、大森靖子やamazarashiなどが上がるだろうが、さらに狭めてアイドルの中の競合他社を見ると、ZOCや欅坂46という名前になる。メンバー自身の強烈な個性、それを曝け出すこと、エネルギー、楽曲の力などを見た時に、どちらかといえばネガティブな要素を見せることで共感を得ているように思う。

それに対して、ゆるめるモ!は"ゆるめる"ことを手段にしていて、衣装やパフォーマンスからそのコンセプトがストレートに伝わりにくく見える。どちらかといえば、ポップカルチャー、アイドルで言うならでんぱ組.incに近いような明るさが押し出ている。競合する他グループと差異はあるが、このメッセージ性は本当にニーズ層に届いてるだろうか。

ターゲットにしている層は、主にアイドルファンとロックファンである。売れてる曲が必要としながらも、それはまだ出来ていないとも記述しているので、現状として読み取れるところから想定する。

アイドルファンで考えた時には、先述の競合する他グループとパイの奪い合いをすることとなる。あるいは見た目の似ているでんぱ組.incもこの場合、競合になる。アイドルファンの規模が国内250万人だとして、一体取り込める規模はどのくらいだろうか。

ロックファンで考えた時に、楽曲、アーティスト性、パフォーマンス、ストロングポイントでどのように刺さっていけるだろうか。ロックファンを振り向かせれるような事が出来ているだろうか。新日本プロレスで置き換えた時に本物と呼べることが出来ているだろうか。

ここで、今公開されている最新MV「ガチャガキ」を見てみると、これはEDMチューンらしい。

 

海外の流行にも注目しておかなければいけないとは書いていたが、これはEDMだろうか?そもそも、ロックは?歌詞のどぶねずみがロック?

 

この曲で掴みたい性別と年代は?その層が聴いている音楽は?

 

【そのコンセプト、ちゃんと売れます?】

と、書籍の関係上、ゆるめるモ!で読み解いたのだが、正直、ここに書かれてるように、世の中に対して伝えたいメッセージがあって、メンバーとスタッフがきちんとそれを共有出来ているグループはまだマシだ、いやむしろ幸せな方だと言える。パフォーマンスで見た時に、ゆるめるモ!の経験値の高さというのは、特に今年の状況、多くのメジャー事務所アイドルなどが解散した状態では抜群に安定しているのは間違いない。

むしろ、それよりも有象無象に生まれてくる多くのアイドルのコンセプト、パフォーマンス、マーケティングを見てると、"大人"が芸事の真似をして、金をせしめようとしているようにしか見えないグループがどれだけあるだろうか。

もし、アイドルになりたい子、アイドルだけどなかなか売れない子がいるなら、マーケティングと自分の市場価値について一度考えてみると良い。答えは今、これを見ているスマートフォンの中にある。

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