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candy

―眼鏡をかけた、真面目な女の子。 その姿は私の鎧。けれど鎧は、軽くて動きやすい方が良いのだ。 1、ある日の放課後の教室で、私は大罪を犯した。 きっと私は地獄に落ちるでしょう、でもそれは先生も同じ。 ―それだけ私は先生が欲しかった。 「先生、奥さんと子供がいるのに、私とこんなことしていいんですか?」 乾ききった口内を通る私の声は少しかすれて、やけに色っぽかった。 夕焼けが私たちを情熱の色に染める。 先生は何も言わず、ただ私の肩を抱いた。 そして私の唇にそっと触れた先生の指は、

    • 影を消すために

                             エピローグ 二千五十年、日本は老年人口率が五十%を超える超高齢社会となった。 そんな中、経済的な負担から若者が相次いで老人を殺すという『老いぼれ清算』が横行し、日本の情勢は先進国内でもっとも劣悪となった。そんな状態でありながら国を指揮する者は自分の利益を重視する年老いた者ばかりで、若者の反発はより一層激しくなった。そんな状況で、もはや日本のどこにも安全という文字は見当たらなくなった。数十年前の「日本は世界で一番優しくて衛生的な国」

      • 僕はこの世界の何なんだ

        彼に僕が出会ったのは綺麗な夕焼けが見える雨上がりの春だった。日本にある芸術大学に進学した僕は彼の風変りさを耳にして彼と友達になりたいと思ったのだ。彼がよくいると言う大学の敷地でも特に奥にあるアトリエに僕は足を運んだのだった。 胸を高鳴らせながら僕はアトリエのドアをノックした。けれど返答はない。古びたアトリエのドアを少し押すと、ドアを開けるためにはかなりの力がいることが分かった。僕は力を振り絞ってドアを押した。ギィっと鈍い音がしてドアは開いた。雨の匂いをかすかに残しながら神々し

        • 快楽

          エピローグ 快楽、と一言で言いましても沢山の種類がございます。 きっとこの地球にいる人の分だけ、快楽の種類はあるのでしょう。 わたくしが思うに快楽は、代償が大きいほど悲惨で醜く依存性があるものです。 さて、皆さん。この世の中で最も過激で依存性が強い快楽とは何だと思いますか? そうです、人殺しです。 人殺しほど、代償が大きくて非道なものはありません。 けれどもし、自分の行う人殺しは正義だと信じて実行することで、自分の気づかぬ間に快楽を得ている人間がいたらあなたならその人間をどう

          蚯蚓

          図書館の外に出ると、私にとっては傘を指すに値しない程の雨が降っていた。雨女である私は、その雨を気にせずポケットに手を突っ込んでなんの表情もなく歩き出す。少し猫背気味で無表情で歩く私を見た周りの人は、私の機嫌は悪いのだと判断するだろう。いつもそうだ。機嫌が悪い、怒っている、そんなふうに思われ、私は交流を図る場において人から声をかけられる事が少ない。けれど私は別に機嫌も悪くなければ怒ってもいない、がそんなこといちいち説明するのもめんどくさい。私は周りからどう思われているかなんて気

          妄想恋愛

          「この子の病気はそう簡単にはうつらない、君たちは何の勉強をしてきたのだ。」 同じ医学を学ぶ同士にそう叫んだ市川文太郎の髪は春風に揺られ、私は何故かその髪の毛の揺れから目が離せなかった。信念を持った凛々しい彼の横顔に潜んだ情熱は、私のような小娘には耐えることのできないほどの熱さだった。 私を罵った奴らが去ると両親すらも触れようとしない私の両肩を、彼は軽率にしっかりと掴んだ。 「君も君だぞ、あんな連中の言葉に惑わされるなんて。もっと胸を張って生きろ。」 ―胸を張って生きろ。 そん

          妄想恋愛

          何度だって僕は僕を

          プロローグ 僕がよく見る夢の中では、僕はいつも暗い道をさまよい歩いている。歩いているといつの間にか、どこか記憶の片隅にある扉が僕の前に現れた。その扉を開くとポツンと部屋の真ん中に椅子があるのが見える。その椅子に座ると目の前に鏡があった。けれどその鏡は僕を映さない。僕は不思議に思ってまじまじと鏡を覗くけれど、やっぱり僕は映らない。僕は違和感を覚えながらも鏡から目を離した。すると僕の周りの物が次々消えてゆき、いつの間にか僕の周りには何も無くなった。僕一人がその空間にふわふわと浮い

          何度だって僕は僕を

          愛別離苦

          プロローグ 深い眠りから目覚めた美しい少女の瞳には、綺麗な天井であった過去を持つ、薄汚れた天井が映った。 わずかな塵でさえも一瞬触れただけで白水のような少女を、雨の後の濁流のような色へと変えてしまうのではないか、そう思わせる程に少女には潔浄で移ろいやすい純粋さがあった。 少女の視界に一匹の少年が偲び込む。少女の焦点は天井からその少年へと動いた。二人は何も言わず、二人の間に存在する何かをじっと見つめていた。そして真っ白の皿に無造作に置かれたサクランボの様な少女の唇がかすかに動い

          愛別離苦