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自衛隊広報が後押しする隊友会の改憲主張

隊友会が日本会議と連携して憲法改正を求める署名活動を行い、署名送付先を自衛隊東京地本協力本部としていたことが明らかになった。
隊友会の正会員は自衛隊退職者と予備自衛官補だが、賛助会員として約17万人(平成29年3月31日現在)の現役自衛官が在籍しており、自衛隊員の政治的行為の制限との絡みで問題になる。

この件に関して、小野寺防衛大臣は8日の記者会見でこう述べた。

隊友会や東京地本に確認を行ったところ、事実関係としては平成27年当時の東京都隊友会の事務局便りにおいて、会員に対して憲法改正に関する「署名用紙は、東京地本予備自衛官課へファックスを」という記載があったということでありますが、しかしながら、本記述は東京地本と調整されたものではないため、事務局便りに掲載直後、東京地本より返送先を「隊友会」に改めるよう働きかけを行い、実際にはこのような署名活動は行われていないということです。防衛省ウェブサイトhttp://www.mod.go.jp/j/press/kisha/2018/05/08.html

自衛隊が改憲運動に関わったものではないということだろう。
しかし、隊友会と自衛隊は密接な関係にあり、相互の影響は無視できない。
なにしろ、「隊友会の支援要領について」という通達が陸上幕僚長から出されるくらいだ。
http://www.clearing.mod.go.jp/kunrei_data/f_fd/1971/fz19720224_00087_000.pdf

そして、今回の署名活動だけでなく、自衛隊が隊友会の改憲運動を後押しするような姿勢が見られるのも確かだ。
自衛隊広報誌に隊友会の改憲についての主張が堂々と掲載されている。

これは、平成25年1月に「こだいら」という自衛隊小平駐屯地の広報誌に掲載されたもので、協力団体である小平隊友会の会長、清武会の会長が年頭挨拶として寄稿したものだ。
自民党総裁が選挙運動の最中に「憲法を改正して自衛隊を国軍とする!」と発言したことを「極めて大きな『金』であり、前進」としている。
また、「自衛隊の現状に即した憲法改正」が「喫緊の課題」とも。
いずれも改憲の主張だ。

この「こだいら」は小平駐屯地のウェブサイトで公開されており、誰でも閲覧することができる。
http://www.mod.go.jp/gsdf/kodaira/kouhousi.htm

調べてみると、これだけではなく、他の自衛隊広報媒体にも憲法改正についての主張が掲載されていることが分かった。

これは、自衛隊静岡地方協力本部広報室が発行する広報誌「柚木だより」で、協力団体である柚木会の会長の「自主憲法の制定、若しくは改正」を訴える文章が掲載されたものだ。

これも自衛隊静岡地方協力本部のウェブサイトで公開されている。
http://www.mod.go.jp/pco/sizuoka/chihon1/yunoki/yunoki.html

さらに、自衛隊京都地方協力本部のウェブサイトに掲載されている京都府隊友会の会長の挨拶の中で、やはり憲法改正を主張する文章が登場する。
http://www.mod.go.jp/pco/kyoto/sp/boshuka/aboutkyoto/index.html

このように、自衛隊公式の媒体で憲法改正を是とする主張が堂々と掲載されているのだ。
いずれも、自衛隊員の言葉ではなく協力団体の幹部の言葉だが、自衛隊の広報紙やウェブサイトに掲載されていることには違いない。

ここで自衛隊員の政治的行為の制限についての法令を確認しておこう。

(政治的行為の制限)第六十一条 隊員は、政党又は政令で定める政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法をもつてするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除くほか、政令で定める政治的行為をしてはならない。

この「政令で定める政治的目的」と「政令で定める政治的行為」を具体的に規定しているのが自衛隊法施行令だ。

(政治的目的の定義)第八十六条 法第六十一条第一項に規定する政令で定める政治的目的は、次に掲げるものとする。
(中略)
三 特定の政党その他の政治的団体を支持し、又はこれに反対すること。
(中略)
五 政治の方向に影響を与える意図で特定の政策を主張し、又はこれに反対すること。

(政治的行為の定義)第八十七条 法第六十一条第一項に規定する政令で定める政治的行為は、次の各号に掲げるものとする。
(中略)
九 政治的目的のために署名運動を企画し、主宰し、若しくは指導し、又はこれらの行為に積極的に参与すること。
(中略)
十二 政治的目的を有する文書又は図画を国の庁舎、施設等に掲示し、又は掲示させ、その他政治的目的のために国の庁舎、施設、資材又は資金を利用し、又は利用させること。
(中略)
十七 なんらの名義又は形式をもつてするを問わず、前各号の禁止又は制限を免かれる行為をすること。

そして、これらの行為は、隊員以外の者と共同して行ったり、第三者を通じて間接的に行ったり、勤務時間外に行ったりすることも禁止されているようだ。

2 前項各号に掲げる行為(第三号の場合においては、前項第十六号に掲げるものを除く。)は、次の各号に掲げる場合においても、法第六十一条第一項に規定する政治的行為となるものとする。
一 公然又は内密に隊員以外の者と共同して行う場合
二 自ら選んだ又は自己の管理に属する代理人、使用人その他の者を通じて間接に行う場合
三 勤務時間外において行う場合

また、自衛隊員は自衛隊法施行規則に基づいて服務の宣誓で憲法と法令の遵守を誓う。
公務員の憲法尊重擁護義務の存在は言うまでもない。

第九十九条  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

自衛隊員の政治的行為が法令で厳しく制限されている以上、自衛隊員自身はもちろん、自衛隊と密接な関係にある隊友会その他の協力団体もこの制限に注意する必要がある。
さらに隊友会は公益法人だ。
公益法人に政治的的行為の制限を課す法令はないが、公益性を疑問視されるようなことをしていれば当然問題になる。日本青年会議所の宇予くんがTwitterで大暴れしていたことは記憶に新しい。
自衛隊員の政治的行為の制限についても公益法人の公益性についても、もう一度改めて意識する必要があるだろう。

平成20年、アパグループが主催した懸賞論文に当時航空幕僚長であった田母神俊雄氏が「日本は侵略国家であったのか」と題する論文を応募し最優秀藤誠志賞を受賞したが、航空自衛隊幹部が政府見解に反する論文を発表したことが問題になり更迭されるに至ったことを思い出さなければならない。



よろしくお願いします。