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独立行政法人地域医療機能推進機構熊本総合病院のウェブサイト、他国に対する排外主義的な発言を垂れ流し

 熊本県八代市にある熊本総合病院は、1948年に健康保険八代総合病院として厚生省が開設し、2014年4月からは厚生労働省所管の独立行政法人地域医療機能推進機構が運営している。地域医療機能推進機構は英語表記で Japan Community Health care Organization 、略してJCHO(ジェイコー)と呼ばれている。

 時事メディカルの特集記事によると、一時は熊本県内でつぶれる病院ナンバーワンと言われるほど経営が危うかったが、2006年10月に島田信也氏が院長に就任してから持ち直し、JCHOグループトップの黒字病院になったとのことだ。

 九州医事新報社にも熊本総合病院をとりあげた記事があり、経営の大幅な黒字化にともなって職員へ5.3ヶ月分のボーナスが支給されたこと等が書かれている。

 さて、今回は、この熊本総合病院のウェブサイトに、厚労省所管の独立行政法人が運営する病院としては望ましくない憲法批判、そして、医療機関としてはあってはならない他国に対する排外主義的な内容が含まれていることについて書く。

 2019年新年の病院長のあいさつ一部引用。

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”一方、今の日本は大東亜戦争敗戦以来、ずっと「羹に懲りて膾を吹く状態」からの「先の見えない閉塞感・将来に対する不安感」に包まれているように思います。国においては、「対外的に言わなければならないことを言わない」「自分で自分の国が護れない」「アメリカに押し付けられた世界最古のいじめ憲法を改正しない」など雁字搦めで、このようなことでは天佑からも見放されてしまうことでしょう。”
引用元 熊本総合病院 病院長あいさつ 2019年

 「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」とは、熱い汁物でやけどして懲りたからなます(生肉を刻んだもの)にも息を吹きかけて冷ましてから食べようとするようになった、という意味で、必要以上に用心深くなっている様子を表す。

 一度戦争に負けたくらいで用心深くなりすぎだ、アメリカに押し付けられたいじめ憲法を改正するべきだ、とでも言いたいのだろうか。

 とはいえ、押し付け憲法論を唱える人は少なくない。
 プライベートで自らの憲法観を主張する分にはまったく構わないと思う。
 しかし、自身が院長をつとめる病院のウェブサイト、しかも、厚労省所管の独立行政法人が運営する病院の、政府ドメイン go を用いているウェブサイトで憲法についてこのような物言いすることは望ましいことではない。

 他にもある。

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 ”敗戦当時においてもハーグ条約などの国際法には「占領者は被占領地の法制度を勝手に改変することは禁止」であったにもかかわらず、日本罪悪国家観、日本の歴史・伝統根絶、公職追放、言論統制・検閲の下、GHQが作成した憲法を強制し、マッカーサーが嘲笑した12歳の日本人は数多く、未だにその呪縛から逃れることができないでいます。若し、この呪縛から逃れられなければ、櫻井よしこさんが指摘しているように「民主主義、自由、日本人による日本国憲法ならびに国際法を基本としてアジアの平和維持に貢献する力を各国は日本に求めている」のに、それはとんでもない妄想でしかなくなってしまいます。” 
引用元 熊本総合病院 病院長あいさつ 2015年

 さすがに病院のウェブサイトに載っているとギョッとしてしまう内容である。
 SNSのプロフィールに、「ここでの投稿はすべて個人の意見であり、所属団体等とは一切関係ありません」との断りを入れることがあるが、これは病院のウェブサイトに院長の言葉として載せている以上、「個人の意見、所属団体とは関係ない」とは言えないはずだ。
 ましてや厚労省所管の独立行政法人が運営する病院のウェブサイトだ。こういう考え方について国のお墨付きでもあるのだろうか、との疑問も湧いてくる。
 公職追放ついても批判的に書いているように読めるが、これは戦後間もない1946年1月、GHQが日本政府に対して発令した、戦争犯罪人、陸海職業軍人、極端な国家主義者などに該当する人物の公職、官職からの排除のことで、不当なこととは言えないだろう。

 そしてこう続く。

 ”さらに、朝日新聞社による強制慰安婦の捏造の事実とその謝罪を未だに世界に発信していないこと、国家の有り様に対する無関心、中韓露という異質の国との侵略・領土問題、日本人による日本のための憲法改正、靖国問題、国防問題、等々を抱え、正に日本は内憂外患であり、心ある国民は正にやり場のない鬱々たる毎日を送っています。”
引用元 熊本総合病院 病院長あいさつ 2015年

 朝日新聞批判は後にも出てくるが、注目すべきは、「中韓露という異質の国」という表現だ。
 こういった言葉が病院のウェブサイトに掲載されているのは素直に怖いと思う。
 中国人、韓国人、ロシア人も病院を利用する可能性があるだろう。
 自分の祖国のことを「異質の国」と堂々とウェブサイトに掲載している病院を安心して利用できるわけがない。

 こういうのもある。

 ”我々日本人種について、東アジアの人々と外見は似ているがDNAはかなり違うことが分かってきました。最近の国立遺伝学研究所や国立科学博物館のDNA解析でも、日本人の遺伝子は周辺諸国(東アジアや朝鮮半島)とは異なっており、縄文人のDNA遺伝子が我々にも受け継がれているそうです。そして、Y染色体の研究で、世界中には古い順にA~Tまで20のグループがありますが、何と、現代の日本人の3分の1はその古いDというグループに属しており、そこに縄文人が属しているということが分かってきています。世界中でDを持つ他の人種はチベット族とインド洋に浮かぶアンダマン諸島の人種だそうで、矢張り、性格的に優しいDが隔絶された山間部や日本列島にそれぞれの特有の文化を育てながら残ったことが推測されます。”
引用元 熊本総合病院 病院長あいさつ 2016年

 これだけだと分かりにくいが、続く文章と合わせて読むとやはり違和感を覚える。

 ”そもそも、何故、日本が情けない程の少子化なのか? その一番の原因は、日本の若い人たちの『「蔓延した閉塞感」と「将来に対する得も知れぬ不安感」』によるものではないかと思います。今こそ、よい大人は少しでも「国や自治体に貢献しようとする意欲と覚悟」を持って、子孫にとって恥ずかしい先祖となり果てないように、こんなに自然環境が素晴らしい地方都市が外国人のまちと化さないように、鋭意、貢献する義務があります。”
引用元 熊本総合病院 病院長あいさつ 2016年

  DNAの話で、日本人の遺伝子は東アジアや朝鮮半島とは異なっている、性格的に優しくて隔絶された場所で特有の文化を育てたことが推測される、といったことを言いながら「外国人のまちと化さないように」と繋げることは、ヘイトスピーチ解消法を制定せざるを得ない状況となった昨今の社会的な風潮もあって、人種による差別や排外が頭をよぎる。
 昨今、海外からの観光客や移住者が増加している日本だが、外国人が観光や生活をしやすいまちづくりをすることは、そんなに許容しがたいことなのだろうか。

 さらにこういう文章も。

 ”それぞれの国に横たわる歴史を知らずに、自分の国の有り様から勝手に判断することは、極めて無知・偏狭で、それでは外交も失敗に終わるでしょう。一方、中国や朝鮮やソ連などの現政府には極めて無理な歴史しか存在しない訳ですから、まともな外交など土台無理な話です。”
引用元 熊本総合病院 病院長あいさつ 2012年

 先ほども「異質な国」という表現が出てきたが、これも過激な他国ディスだ。 

 2012年といえば、日本政府の尖閣諸島国有化を巡って中国各地で行われた激しいデモが盛んに報じられていた頃だ。社会のムードに煽られてこういう発言をしてもおかしくはない。
 しかし、繰り返しになるが、これは厚労省所管の独立行政法人が運営している総合病院のウェブサイトに載っているものだ。
 病院の利用者の中には外国人もそれなりにいるだろうし、こういった文章を目にすると不安や恐怖を覚えることもあるだろう。
 病院があからさまに他国を貶すような文章を掲載することは、あってはならない。
 

 もうひとつ。

 ”ところで最近、世の中は、朝日新聞による吉田調書や慰安婦問題の誤報(捏造)で騒然とし、朝日新聞は当然のように袋叩きにあっていますが、わたしは以前から何故日本の一部のメディアは日本国家を貶めるような報道を、国民のみならず世界に向かって、嬉々として推進するのかとても訝しんでいました。矢張り、敗戦後の「アメリカによる日本弱体化計画」というアングロサクソンお決まりの植民地政策にやられた自虐思想の結果なのかと認識していました。ところが先日、ある人から、それだけでなく、一部の活動的反日在日外国人によるものも大きく関与しているということを聞き、成程と、朝日新聞問題を契機に新たに勉強することとなりました。私たちの子孫が日本人としてのプライドをもって脈々と安心して暮らせる日本になるように、今こそ、本来の日本に向かって矯正していく必要ありと強く感じたところです。”
引用元 熊本総合病院 病院長あいさつ 2014年

 朝日新聞は、2014年8月5日付の紙面で吉田清治氏に関連する記事16本を取り消し、謝罪した。12月23日にはそれに加えて2本の記事の全文取り消し、1本の記事の一部取り消しについて紙面に掲載している。
(参考 朝日新聞社インフォメーション | 記事を訂正、おわびしご説明します 慰安婦報道、第三者委報告書 朝日新聞社
 一方で、慰安婦に関する報道をめぐって朝日新聞社に対して起こされた集団訴訟は、2018年2月、すべて朝日新聞社勝訴の判決が確定した。
(参考 慰安婦報道をめぐる裁判の記事を掲載しました | 朝日新聞社インフォメーション

 慰安婦に関して朝日新聞の一部の不正確な記事に基づく情報が長期間にわたって流通していたことは確かだ。
 その点についての批判はすればいいと思うが、「一部の活動的反日在日外国人」などと言い出すといよいよネット右翼(ネトウヨ)の様相を呈してくる。SNSや掲示板では似たような表現で溢れかえっているが、病院のウェブサイトに書かれているとキツイ。

 院長だけではなかった。
 熊本総合病院では薬剤部というところが医薬品情報誌としてDIニュースというものを出しているようだが、そこでも似たようなネット右翼的発言が登場する。

 ”社会的公平や公正は永遠の課題でしょうね。韓国で日本の新聞社の方が長期間出国禁止という非人道的制裁を受けましたが、「反日こそ正義」が韓国の「公正」。どうしようもない。“
引用元 熊本総合病院 DIニュース 2015 Oct. vol.24 No.10

 これは、DIニュースでオタワ憲章の「健康の前提条件は、 平和、住居、教育、食糧、収入、安定した環境、持続可能な資源、社会的公正と公平」という言葉を取り上げた後に書かれている文章だ。

 自殺者が多いことや医療政策の無計画さについて日本に対して批判的に書いている部分もある。そこは自国の医療に携わる者として当然のこととも言える。
 問題は、唐突に「『反日こそ正義』が韓国の『公正』」といった表現を入れ込むことだ。
 
 こんなことを書く必要性はどこにもないし、病院がこんなことを発信すべきではない。

 熊本総合病院の基本方針に、「自分自身がかかりたい医療を行います」というものがある。

 利用者は、治療のために病院に命を預ける。信頼があるからこそ命を預けられる。
 こういった他国を貶める排外主義的な情報発信は、病院の信頼を損ね、利用者に不安を抱かせるものだ。
 熊本総合病院は、自分とは異なる思想信条を持つ人々や他国にルーツがある人々にも配慮して、もし自分自身がそうであったらと考え、情報発信のあり方について見直しが必要なのではないだろうか。
 また、独立行政法人が運営する病院として非常に高い公共性、公益性を備えている組織だということも自覚してほしい。
 せっかく院長の見事な手腕で病院の経営が好調だというのに、こういった掲載が行われていることは残念でならない。

 八代市は、『世界の笑顔が花咲く国際都市やつしろ』という都市像を目指し、国際化を推進している。
 やつしろ国際化推進ビジョンを策定しました
 熊本総合病院も地域を担う病院として、外国人利用者も含めて誰もが安心して利用できる病院であってほしいと思う。

よろしくお願いします。