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小野莉奈が女優を志したきっかけ「誰に何を言われようと、この楽しいという感覚は本物だった」

#10 小野莉奈(前編)

旬まっ盛りな女優やタレントにアプローチする連載『focus on!ネクストガール』

小野莉奈(おの・りな)。事務所オーディションを経て、ドラマ『セシルのもくろみ』(フジテレビ/2017年)のスピンオフドラマ『セシルボーイズ』(フジテレビ/同年)で女優デビュー。その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)、映画『アンナとアンリの影送り』(2019年)などへ出演を重ね、話題を集めた高校演劇のリメイク作品『アルプススタンドのはしの方』では初舞台(2019年)を踏むとともに、同作の映画(2020年)への出演も果たした。記憶に新しいところでは、大河ドラマ『青天を衝け』(NHK/2021年)にて渋沢栄一の娘「うた」役を好演、現在はドラマ『部長と社畜の恋はもどかしい』(テレビ東京/2022年)に出演している。インディーズ映画界で注目の主演映画『POP!』(2021年)も公開中と、着実にキャリアを積み上げている彼女へ“女優”としての歩みを聞いてみた。

女優を目指したきっかけは小学校の学芸会

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──女優を目指すきっかけは人それぞれだと思うのですが、小野さんが“女優”を意識したタイミングはいつごろですか?

小野 女優を目指すことになったきっかけは、小学6年生のときの学芸会なんです。『ライオンキング』をやることになったのですが、その主役から端役までを「クラスメイトの票数」プラス「先生の票数」で決めるという、本格的なオーディションが行われて。小学校での最後の行事だったし、せっかくだから挑戦してみたいという気持ちが湧いてきて、シンバ役に立候補したんです。

オーディションへは、自分なりにすごく準備をして挑みました。学校から帰ってきたら、ひとりで芝居の練習をするような期間が2週間くらいあって、初めて意識して“がんばる”ということをしたな、と。

結果的にシンバ役をいただくことができたのですが、そのときの、挑戦することが楽しかったという感覚はいまだにすごく残っていて。もちろん、人前で披露する本番のときに、準備してきたものを出しきるというのも楽しくて、小学生ながらに忘れられなかったんです。きっかけは、たぶんこの学芸会だろうなと思います。

それまでは、テレビドラマを観るとき、役者さんのお芝居を視聴者目線で観ていたのですが、学芸会のあとは、お芝居をする目線で観るようになったり、セリフをまねてみたりとかするようになって、私は女優になりたいんだなと思うようになりました。

──憧れの人がいてというよりは、いきなり演じてみてその魅力に気づいて、それからどんどん気持ちが傾いていった……。

小野 そうですね。

──実際に学芸会でやった手応えは、どんな感じだったんですか?

小野 お芝居を観ていた親戚のおじさんが、すごくよかったと言ってくれて……身近な人がひとりでもよかったと言ってくれたことがすごく自分の自信になったというのもあるし、自分の中でもすごく楽しかったという感覚が強かったんですよね。

誰に何を言われようと、この楽しいという感覚は本物だったというか。役に向けて自分が準備してきた過程と、実際に表現しきったというすべての過程がすごく楽しくて。そこへ向けて精一杯努力したということ自体も自信になりました。

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──なるほど。そこからデビューするまでは、どんな過程が……。

小野 女優になりたいと思いながらも人には言えない、言うのが恥ずかしいという気持ちが、中学生のころはまだ強くて……。高1のときかな? すごく焦り始めたんですよ。勉強もスポーツも何か特化してできるようなことがなかったので、どうやって生きていこう?と考え始めて。ずっと女優になりたいと思っているのに、私は何も変わってないなみたいな。

そんな自分に焦ったこともあって、高校1年、2年くらいのときにいろいろな事務所のオーディションを受け始めたんです。自分で事務所を調べて。その事務所の雰囲気とか、方針とか、すごく現実的な話になるんですけど、お金がかかるとか(笑)……莫大な費用がかかったらちょっと怖いなと。そういうことをしながらいろいろな事務所を受けて、今の事務所に入ることになりました。

──将来の進路を決めて事務所に入るとき、まわりの人は、がんばって!という感じでした?

小野 進路については、人に本当に言いたくなくて……。学校でもそのまま誰にも言わずに卒業したいなと思っていたんですけど、この仕事を始めて何カ月かしたころにはもう広まっていて。でもまわりも気づいたものの、私になんて言っていいのかわからない。けっこうだいぶ経ってから「応援してるよ」みたいな感じで言われたんです。

家族も、すごく応援してくれました。それまでは、たぶん私の将来が心配だったんじゃないかな? どうやって生きていくんだろうって。そんなに勉強もできなかったので(笑)。だからたぶん私が自分の道を見つけたことがうれしかったんだろうと思います。

「最近はまわりから『大人になったね』って言われます」

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──最初の仕事って覚えていますか?

小野 覚えてます!……ん、あれ? どっちだっけな? 初めての映画とか、初めてのオーディションとか、各分野での初めての仕事は覚えているんですけど(笑)……一番初めては、スピンオフドラマだと思います。そのとき(撮影中の音声を拾う)マイクを、お芝居中に見ちゃうというミスはありましたね。つい気になって見ちゃう。すごく初心者的なミス(笑)。

──その後どんどんドラマや映画への出演を重ねて……実年齢に近い高校生役が多かったですよね。演じた役の中で、一番自分に近いなと思ったのは、どの役でした?

小野 こう言っちゃうと少し変なんですけど、あんまり自分がわからないんですよね……自分がどんな人間なのかよくわからなくて。演じている役の中で、ここが自分にすごく似ているなというのは絶対に何かしらあるのですが、結局「自分」となると、よくわからないんです。

──なるほど。たとえば、役作りをするときに、そういう自分に似ているところを見つけて広げていくようなことはしません?

小野 そうですね……磁石みたいに、自分の要素と逆の要素をつなげるような感覚。えーと、S極とN極……? 自分に寄せるとか役に寄せるというよりは、どちらの要素も細かくしてつなげていくという感覚が近いのかもしれないです。

──相反する要素をつなげる、なるほど。たとえば『アルプススタンドのはしの方』は、まず舞台があって、そのあと映画にもなりましたよね。浅草九劇で観劇させていただきました。ひとつの作品を舞台と映画の両方で演じてみて、自分の中で違うことってありましたか?

小野 舞台のほうがすごく力んでいたような、緊張していた気がしますね。感覚的な部分でいうと。映画のほうがもっと力を抜いていたというか。舞台のほうでは、けっこう自分のことを追い込んでいたので……精神的にもあまり余裕がなかったし、でもだからこそ自分の本当の必死な感じと、役のもがいている感じがうまくリンクしたというのもあって。

映画のほうでは、すごく脱力していました。一緒に演じているほかの役者さんたちも(舞台のときと)同じということもあって安心感もあったし、舞台のときに稽古を積み重ねてセリフを入れていたから、セリフへの心配もなかった。あと、舞台ではひとりでもがいて演じているという感覚だったんですけど、映画のほうは仲間と一緒みたいな……すでに自分のことを仲間も知っているからこそ、素の自分でいられたという、そういう違いはあったかもしれないですね。

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──この作品に限らずだと思うんですけど、一緒にやった役者さんと別の作品で会ったりしますよね。たとえば、『アルプススタンドのはしの方』だと“藤野”役を演じた平井亜門さんとか。

小野 そうですね。

──映画『シチュエーション ラヴ』(2021年)で、その平井亜門さんとまた共演をしたり……2回目の共演は、雰囲気が変わったりします?

小野 たしかに(『シチュエーション ラヴ』の)撮影中は、平井亜門くんに恋をしているという役だったので、ちょっと『アルプススタンドのはしの方』のときとは違う感覚、気持ちだったんですけど。撮影が終わった途端に(『アルプススタンドのはしの方』のときの)平井亜門くんとの雰囲気に戻るという……そういう感じがありましたね。

──逆に、平井亜門さんからでもいいですし、まわりから、何か変わったねとか、違ってきたね、と言われることはありますか?

小野 「しっかりしたね」って言われます(笑)。

──なるほど。

小野 「大人になったね」って言われます。たぶん『アルプススタンドのはしの方』のときは、まだ学生感が抜けていないということがあったのかもしれない。大人に任せているところは任せていたし、自分の気持ちのコントロールもできていなかったというか、本当に余裕がない感じだったんですけど。最近は特に、「大人になったね」って言われますね。

役を通して成長できた

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──大人になっていくという意味では、最近、主演した映画の『POP!』。この作品では、特殊とまではいかないけれど独特な役を演じているなと思って観ていたんですけど。どうですか? この役を、今の自分に合わせてみた場合……。

小野 たしかに、あの役を演じてから変わったような気はします。でも(柏倉)リンちゃんという役は、監督の小村昌士さんが私のことについていろいろ知った上で作り上げた役だったので。だからこそ、すごく共通する部分があって、リンちゃんという役が大人に変わったときに、自分自身も変わる部分があった。役を通しながら成長できたなという……役を演じながら、ちょっと自分を客観視できたのかもしれないですね。

──監督は、当て書きに近いような書き方をした……。

小野 そうですね。本当にありがたいことに『POP!』ではそういう役をいただけて。

──なるほど。少し作品から離れますが、仲のいい女優さん、気になる女優さんはいらっしゃいますか?

小野 友達、あんまりいない……んですよね(笑)。でも役者さんたちと話すことはすごく好きだから、友達になりたい!という気持ちはあるんです。あ! でも『アルプススタンドのはしの方』の仲間とは、打ち上げに行ったりしました。

(それ以外の作品だと)やっぱり現場で会う役者さんたちが自分よりも年上の方が多いということもあって、自分から友達になるのはちょっとハードルが高いというか(笑)。現場では、いろいろな方とお話しをするタイプではあるんですけど。

──話してみて、この人の話はおもしろかったなとか、感銘を受けた方はいましたか?

小野 大河ドラマで共演した、橋本愛さんと話したときは、すごく笑っていた記憶がありますね。本当にくだらないことで。役者さんと話していると常に何か笑っていて……でも何を話したのかはよくわからない(笑)。とはいえ、すごく楽しかった記憶はあるんです。そのまま自分から連絡先までを聞けたらいいなとは思うのですが、まだちょっとそこまではいけていないんです。

取材・文=鈴木さちひろ 撮影=時永大吾 ヘアメイク=寺沢ルミ 編集=龍見咲希、中野 潤

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小野莉奈(おの・りな)
2000年5月8日生まれ。東京都出身。スピンオフドラマ『セシルボーイズ』(フジテレビ/2017年)で女優デビュー。その後、ドラマ『中学聖日記』(TBS/2018年)、『コントが始まる』(日本テレビ/2021年)などへ出演を重ね、話題となった高校演劇のリメイク作品『アルプススタンドのはしの方』では初舞台(2019年)を踏むとともに、同作の映画(2020年)への出演も果たす。映画『POP!』(2021年)で、『MOOSIC LAB[JOINT]2020-2021』最優秀主演女優賞を受賞。OL役を演じているドラマ『部長と社畜の恋はもどかしい』(テレビ東京/2022年)が現在、放送中。

▼「よろしくお願いします。まずはお決まりの……」とインタビューを始めようとした瞬間、「え! ちょっと待って待って! 当てますね! えーと……きっかけ!ですよね?(笑)」と満面の笑顔。