アオクイドリの話


アオクイドリという鳥がいた。青いものとあらばすべて喰らう鳥だ。細い嘴の奥からこれも細い舌をだしてするすると青色を吸う。花であろうと石であろうと虫であろうと、吸われたあとは水のように透きとおってしまう。アオクイドリは砂漠のヤギさながらに、ふたたび生いしげるためのささやかな残余をゆるすこともなく、地上も、地下も、空さえも根こそぎ貪った。かれらがふえるにつれこの色はひたひたとうしなわれていき、二百年もすると空色という単語から青の含意がほぼ消えるにいたった。いまやかれらは同胞からその色を奪うほかなかった。奪った鳥はなお青み、奪われた鳥は透きとおってくるしみ、氷のような塵をちろちろとふきちらして溶けた。奇妙に静かに、それはおこなわれた。潮騒に似た羽ばたきの音ばかりがひびいた。かれらは啼かない鳥だった。長からずして共食いがおわると、ただ一羽が残った。この世のすべての青を凝集した鳥だった。最後のアオクイドリは、ふたつぶの円い目を、凍るような焦げるようなその色にみたして死骸の塵のうえに動かなかった。かつて両目からその色を奪われて水滴のような眼球になってしまったひとりの女が、少し遠くからそれをみつめていた。

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